砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

文字の大きさ
上 下
7 / 258
アスファルト編

悲しきモンスター

しおりを挟む
 んで、2035年何が起きた?宇宙人でも攻めてきたか?

 "冴えてますね、黙祷して少しは頭回る様になりましたか?少し違うのは攻めて来たのではなく、助けを求めてきたのです"

 …。
 A.C.クラークとか、R.ブラッドベリとか、スピルバーグとか、G.ルーカスとか、S.キューブリックとか、星新一とか、小松左京とか、がそれ聞いたら、あの世から蘇ってきそうだな。

 "ええ、遺族が報告したら皆さんのお墓が動いたそうですよ"

 真面目に嘘じゃなさそうだから笑っちまう。
んで、地球に来れる程の文明を持つ宇宙人はなんの用だっただ?

 "宇宙人たちは水が欲しかったそうです。自分達が住んでいた惑星で人口爆発が起きそうになり、移住希望者を乗せた船で既にテラフォーミングを済ました別の惑星に航行中、事故で水が漏れてしまったそうです。
 そのため地球上の水を少し分けてくれないか?という用件でした"

 はぁーえー。
 それだけでシーズンドラマが撮れるな。スタートレックみたいな。でもさ、その用件誰に伝えたの?合衆国大統領?

 "宇宙人達がはそれを少し悩んだそうです。なにせ地球には200近く国がありますから。代表で思いつくのは国連くらいなものです。
 その国連だって、なにも地球代表ってわけじゃありませんし、中身はバラバラです。地球外に向けた外交となると素人ですからね。1番近いのは国際宇宙ステーションでしょうか。そこだってせいぜい15ヶ国程度です"

 だな。

 "そこで宇宙人たちは200ヵ国全ての代表、大統領、首相などに連絡をしました。メールであったり、電話であったり、パソコンのディスプレイであったり、タブレットであったり。その連絡を何回も宇宙人達は行いました。
 予想できるかもしれませんが、最初は何かの悪戯やハッカーとかが考えられました。しかし。全ての国にほぼ同時にタイムラグ無く、あらゆる通信端末から何度も発せられ、次第に宇宙人の存在は一般人にも明らかになっていきました"

 まぁ、誰だって冗談だと思うよな。どんな通信だったんだ?

 "至ってシンプルですよ。これは日本に送られた文書です"


[拝啓 淑気満つ初春の候、貴星の皆様におかれましては、よいお年をお迎えになったことと存じます。いつも太陽系ではお世話になっております。
 さて、緊急事態故失礼を承知でとり急ぎ申し上げます。現在火星付近を航行中の当船は予期せぬ事故により、水分が枯渇しております。
 地球の皆様には大変申し訳ありませんが、ご助力の程を賜りたく筆を取った次第でございます。
 何卒ご訪問の御許可を頂けませんでしょうか?ご都合の程お伺いしたく存じます。
 寒さ厳しき折から、一層のご自愛のほど、お祈り申し上げます。

                      敬具
宇宙船 トキメキと祈りの旅路 
船長 粘菌大王 アメバ・アメバッバ 
           2035年1月3日 ]


 敏腕営業マンかよ。ツッコミどこが多すぎてもう、無理だわ俺。逆にこんな文書じゃ信じられないわ。まだ、喉に手を当てて「ワレワレハウチュウジンダ!」の方がマシだな。

 "ええ、そうなんです。ですから最初の通信から5日後に宇宙人も痺れを切らしたのか、限界だったのかわかりませんが、太陽を宇宙船で隠したのです"

 意図的に皆既日食を作ったのか、そこまでしたら信じるわな。

 "直ちに、宇宙船が現れたわずか3日後日本時間で1/11国連総会が開かれました"

 その手の会議にしちゃ脅威的に早いな。

 "自分の命がかかってれば誰でも早くもなります。それに、宇宙人との邂逅は誰もが狙っていましたから"

 まーな未知の技術の塊だもんな。それも自分達より遥かに進んでいる。

 "はい、総会開始から2日でとりあえず会ってみようと結論が出ましたが、合衆国大統領と中国総書記がどちらが会うか一歩も譲らず、結局2人同時に会うことになりました"


 くっだらねー争いだな。世界の権力者になってやることかよ。

 "致し方ありません。彼ら一人で決められる事柄では無いのですから"

 そして会ったんだ、場所は?

 "日本です。世界で最も平和な国という事で全会一致でした"

 なんでー?平和な国ランキングで上位かもしれないけど、トップは違う国だったはずだよ?

 "はい、2008年から20年以上ベスト3以内は、アイスランドだけでした"

 アイスランドか~あそこは寒いからな~

 "行ったことがおあり…「いやないけどね」
 "……寒いことより、当時アイスランドのファグラダルスフィヤル火山が噴火していたのです"

 そりゃあかんわ。舌噛みそうな火山だな。

 "まぁ何より日本は中国とアメリカの間、これが1番の裏の理由です"

 …だと思ったよ。

 "日本時間1/18  14:00  宇宙人との邂逅は全世界生中継で同時配信されました。そして降り立った宇宙船は、当然母艦ではありませんが、民家一個くらいのメタリックなボールでした。そのボールの真上に穴が空き、服の様な物を纏った全身透明な人型が2人。錫乃介様にわかりやすく表現すると人間型のスライムが現れたんです"

 粘菌大王ってくらいだからな。でもあれだろ、その姿は地球人に合わせたんだろ。

 "御明察です。赤銅に5点あげます"

 ヨッシャ!
 だって本来粘菌ってすんごい個性的な形してるもんな。南方熊楠が心血注いで研究してたし。

 "錫乃介様がおっしゃる通り、粘菌は人には形容できない形をしていることが多く、彼ら宇宙人も自分達は粘菌から進化したからか、皆が一人として同じ形をしていない。なので、地球人達を驚かせない様、極力似せた姿の宇宙服で来たのだそうです"

 地球人も厳密には同じ形の奴は居ないがな。双子でさえ生活環境で変わる。
 学者達はガッカリかそれとも狂気したか?

 "それは分野によって差があったでしょうね。ありのままを見たかった医学や生物学の者、その文化に興味をもった文化人類学や民族学の者。
 話を戻しますが、その邂逅によりこれからの友情を願って、宇宙人に水を無償で進呈することに決定したのです。そこに至るまで色々とあったんですが、ほんっと色々あったみたいですよ"

 だろうな、裏で何人か死んでんだろ。
んで、どれくらい持ってったんだ。

 "海水を50メートルプール10杯分です"

 宇宙航行中にしちゃえらい少ないな

 "そうですね、でも循環させるものだからそこまで大量には必要なかったんじゃないですかね"

 そうだなぁ。
 んで、その後そのまま宇宙人助かって、良かった良かった、じゃ終わらなかったんだろ?

 "はい、別にそれくらい黙って持ってけばって思う人もいるかもしれませんが、地球上の水は限りがあるってご存知ですか?"

 当然、こう見えて俺は環境経済学の学士なんだぜ。三流大学だけどな。
 あれだろ、宇宙から氷隕石とかが落ちてこない限り、もしくは地球外に水を持ち出さない限り、地球上の水は常に一定だと。氷河期とかで海の水が減った様に見えても、それは大陸並みの巨大な氷になってるだけで、その水の総量は変わらない。質量保存の法則ってやつだ。

 "良くできました。赤銅に5点あげます"

 ヨシッ!これで10点だ!

 "常に一定でしか無い、しかも増えることはほぼない資源を無償で進呈してくれた地球人に宇宙人は感激し、大変恩義を感じて全ての地球人に恩を返す事にしたんです"

 なんか、怪しくなってきたな。

 
"はい、宇宙人は本心に御礼のつもりで、地球人全てに、自分達が持ちうる全ての科学技術を転送したのです。
 脳内にね"


あっちゃーーー!


"それは1/20でした。
 莫大な情報量でしたが、パニックになる人はいませんでした"

 え、そうなの。それで頭がパンクして地球人が大量に死んだ、とかってオチかと思た。

 "流石に宇宙人はそれをやる前にちゃんと地球人の事を研究していますよ。錫乃介様がつけている電脳だって、意識しなければ立ち上がりもしませんよね?"

 まぁ、そうだけど、初めて起動した時は頭割れそうだったぞ。

 "それは地球人が作ったものだからですよ。追い付くのはまだ到底先の話です。なんせ何十年先とも何百年先とも言われた科学ですからね"

 んで、転送されてからは?

 "宇宙人が転送された科学技術はほぼ全ての地球人には理解出来ませんでした。メモに書き残すことすら、出来なかったのです。モタモタしているウチに生身の頭に直接転送されたものだから、記憶としては薄れほとんど使い物にならなかったそうです"

 今ほぼって言ったよな。ってことは。

 "耳敏いですね。当時の0.000001%のごく僅かな人達。天才と呼ばれた人達でしたが、彼らには部分的なら理解出来たのです"

 その当時の地球は70億人くらいか?

 "65億人です"

 つまり6,500人も部分的とはいえ、理解できた奴らがいたのか!

 "まさに天才でしょう。その時生まれた技術の代表とも言えるのが、電脳なのです"

 1/20に科学技術が転送されて、電脳生まれたのもその年なんだろ?

 “3ヶ月後でした"

 早すぎるだろ。どこだ?アルファベットか?アップルか?

 "個人です。個人でクラウドファンディングして商品化しました"

 個人なら各諸省庁の認可無しでも作っちまうからな。

 "電脳はウイルスより早く、爆発的に世界中に広まったと言われています"


 そして、生まれたのが、



 "悲しきモンスター『カクカクジジイ』だったんです"



 そうオチるわけね。
しおりを挟む

処理中です...