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第1章 帝国の継承者と古代の遺産
第27話 軍装の麗人
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大通りには、すでに人はいない。ディエルナの住人たちは突然の敵の来襲にどうしていいか戸惑い。守備兵の指示に従い家の中に閉じこもっていた。ディエルナには強固な城壁があり敵も少数と聞いていたので、あまり心配はしていなかったが、城壁も守備隊もすでに破られた。住民たちは、今から逃げるわけにもいかず、略奪の被害にあわないように、息を殺して、家の中でうずくまっている。
むろん、ガイウスたちの目的は、ディエルナの制圧と略奪ではない。やるべきことはただ一つ、ティナの無事を確かめることだ。
ガイウスの影から音もなく少女が顔を出す。
エルだ。彼女は、ティナたちのギルドで幽閉された直後、ガイウスに接触していた。
「さすがは、ガイウス。もうあの城壁を突破するとはね」
「ふん、あの程度、障害にならぬわ。それよりティナ様に何があった?」
「ティナ様なら捕まっちゃったよ」
「なに? ベリサリウスやウルたちがついていながら、なんたるざまだ。何かの間違いではないかのか?」
緊急の信号を受けて、ガイウスたちは一心不乱に急行したが、ティナは少数とはいえ、精鋭に守られていた。ベリサリウスとウル、ルーナの神器持ちの軍団長三人に、高性能な親衛隊のマギアマキナが二人。たった五人だが、一個軍団にも勝る戦力だ。
重要な城壁を守っていた部隊の打たれ弱さを考えると後れを取ったとは考えにくい。
「まあ、でも事実だよ。そうでもなきゃ。あんたたちを呼び寄せたりしないよ」
「ならば、今ティナ様はどこにおられる?」
「それがまだちょっとわかんないんだよね~」
「貴様、それでも栄えある皇帝陛下の軍団を預かる軍団長か!」
軽薄そうにへらへら笑うエルに業を煮やしたガイウスが、エルの首根っこをつかんで持ち上げる。
後ろに控える軍団兵たちもエルをにらむ。
「ちょ、ちょっと、目星はついてるんだ。ティナ様を狙っていたのはこの町の市長。きっと市庁舎に行けばわかるはずだよ」
エルは、宙に浮いた足をばたつかせて、ガイウスの拘束を解いて地面に軽やかに着地する。
そして首元を手で払いながら、ガイウスたちがディエルナの中枢である市庁舎に行くように仕向けた。
もちろん、エルはすでにティナたちがベリサリウスたちと冒険者ギルドの地下に幽閉されていることも知っているし、それがルチアとティナの芝居によるもので、危険もないことも承知している。
しかし、唯一の連絡係であるエルは、そのことをあえてひた隠し、ディエルナの制圧が円滑に進むように、ガイウスに虚実織り交ぜた情報を吹き込んだ。
ガイウスたちは、エルの言っていることを真実と思い。市庁舎に進路を向けた。
帝国軍製のマギアマキナであるガイウスたちには、マギアマキナが味方に対して嘘偽りを言っている可能性など頭にない。
エルが、人間の下で、惨い扱いを受けていた過去があり、人間を快く思っていないことは知っていた。それでも、元は同じ帝国軍製のマギアマキナであるということもあって、まるで疑わず、信じてしまった。
「待っていてくだされ、ティナ様。いま、ガイウスが参りますぞ!」
ガイウスたちは市庁舎へと駆けていく。
「ふう、扱いやすくて助かるよ。さてと私は、ティナ様のところにでも顔を出しておくかな。くく、面白くなりそうだ」
エルは、どこからともなく、巻き付いた二頭の蛇と羽が特徴的な杖を取り出すとそれを振るい、忽然とその場から姿を消してしまった。
市庁舎は、ディエルナのちょうど真ん中に位置している。三百年ほど前に建てられたもので、古代エルトリア建築を参考に、半円のアーチが多用された石造りの立派なものだ。
大通りに続く正面には広場もあり市民の憩いの場ともなっている。そんな広場には、古典式の軍団兵たちがひしめき、市庁舎を包囲、突入しつつある。
「来たか」
軍服姿の麗人が、市庁舎の最上階にある市長室の窓から、軍団兵たちの様子をうかがっていた。
彼女の名は、ヴァレリア・ソリアーノ。この市庁舎の守備を任された指揮官である。髪は短く切りそろえられており、茶色がかったブロンドだ。目は蒼く透き通っていて力強い。腰には愛剣のレイピアを携えており、そのたたずまいは、美しい。
ヴァレリアも本来ならば、部隊を率いて、城壁で、他の守備隊とともに交戦しておくべきだったが、不本意ながらここにいる。
その原因は、
「お、おい、敵が来たぞ。早くどうにかしないか」
ここでおびえきっている市長バートリにある。
ヴァレリアの率いるソリアーノ隊は、ディエルナの中でも抜きんでて精強な部隊である。その実力は、自由都市同盟の中でも比類ない。
この平和ボケしたディエルナでそのような精鋭部隊が出来上がったのは、優秀な指揮官であるヴァレリアの猛烈な訓練によるところが大きい。
もし、ヴァレリアが、隊を率いて、城壁で戦っていれば、ガイウスとてかなりてこずったはずだ。
しかし、そのもっとも堅実な選択肢さえ、現実とはならなかった。バートリが自分の身を案じ、一番武名の誉れ高いヴァレリアの部隊をあろうことか市庁舎の護衛に回したのである。
「はっ。では、私はここを離れ、前線で直接指揮を執ります」
ヴァレリアが恭しく一礼し、戦場へ向かおうとするとバートリが引き留める。
「ま、待て、お前がいなくなったら、だ、誰が僕を守るんだ」
バートリは言葉を突っ返させながら、ヴァレリアの細い体に縋り付く。
ヴァレリアは卓抜した軍事指揮官であると同時に、ディエルナ最強の戦士でもある。バートリはそんな強力な護衛が自分のそばから離れることを嫌った。
「しかし、すでに城壁は破られているのです。ここで敵を打ち払わなければ、私とて、一人で市長をお守りすることはできません」
「う、うるさい! 僕の言う通りにしろ。守備隊の指揮権は僕にあるんだ」
ヴァレリアは理を持って、市長に説くが、もはや話し合いにならない。
(臆病な男め)
ヴァレリアは内心、愚痴を吐くが、戦闘は部下に任せ、バートリに従った。
自由都市の法と秩序を重んじるヴァレリアにとっては、臆病で愚鈍な男でも、まがりなりにも民衆が彼を選んだ以上、従うべき相手なのである。
それに、市庁舎ですべての敵を引き受ければ、町に被害が及ぶこともない。
ヴァレリアはレイピアの柄に手をかけ、ひたすら待った。
「ティナ様あああああ!」
ガイウスは巨槍を振るいながら、市庁舎の中を探し回っていた。精強なヴァレリアの部隊も相当に善戦したが、軍団兵たちの勢いには及ばず、ついに敗れた。
ガイウスは数名を引き連れて、敵をなぎ倒しながら、最上階に駆け上がる。市長のいる場所は、探すまでもなかった。中央に、ご丁寧に市長室と書かれているのである。
「ここか!」
ガイウスは、市長室の扉を力任せに蹴破る。
「ひいいいい!」
今にも気絶しそうなバートリは恐怖のあまり、絶叫し、机の後ろに身を隠す。
「市長は誰だ? ティナ様はどこにいる!」
ガイウスが大きな目玉をぎょろりと動かす。
うずくまったバートリの尻と目をつぶったまま、静かにたたずむ麗人があるのみだ。
「私がお相手しよう」
ヴァレリアは紺碧の瞳をカッと見開き、バートリを守るようにガイウスの前に立ちふさがる。
「ほう。お前が、ここの指揮官か」
ガイウスはじっとヴァレリアを見る。ここの守備隊がひ弱な城壁の守備
隊とは、違うことをガイウスは感じていた。ヴァレリアから感じる気迫も、将たるものの気迫である。絶えず訓練されてきたであろう隙のない構えに、ほとばしる魔力量。並のマギアマキナの軍団兵をも凌駕する実力者である。
「私は、ヴァレリア・ソリアーノ。ディエルナ守備隊の一隊を預かる者。貴殿の名を聞こう」
「栄光あるティナ様の軍隊、最後の軍団、軍団長ガイウスである」
ガイウスも丁寧に名乗りを上げる。
これほどの実力があれば、その名は諸国に轟いているはずだが、その軍装といい金獅子と銀狼の紋章といいヴァレリアには聞き覚えがない。それこそ、神話の世界の古代エルトリア帝国しか思い浮かばない。
「なぜ、この町を襲う?」
ヴァレリアは問う。
どんな、お題目を掲げようとも、戦争の目的など、征服や略奪などの欲望からくるものだろう。聞くだけ無駄だが、ヴァレリアはこの古典式の兵士たちが、普通の戦争をしにきた軍勢とは性質が違う気がした。
これほどの勝利を治めていながら、略奪や暴行を行う様子もなかった。それでいて、猪突猛進、攻撃の手を一切緩めない。何か激しく怒っている。
ヴァレリアには、この平和な都市ディエルナが誰かから憎悪されるいわれが思い当たらない。
「お前たちの王が、我が皇帝であるティナ様に危害を加えた。理由はそれだけで十分だ」
ヴァレリアは、にわかに思い出す。そういえば、最近、町では、ティアという少女が話題に上がることが多かった。何度か、市中の見回りで見かけたことがある。はじけるような可愛らしい笑顔が印象的な子だったことを覚えている。評判では、並外れた優しさの持ち主らしい。
その神秘的なまでに美しい容姿と小柄な体形に見合わず、泥まみれで、薄汚い革鎧に身を包み、冒険者風だったことも覚えている。おおよそ、軍勢を配下に収めているようには見えなかった。
「貴殿らの主であるティナ殿に、心当たりはない」
ヴァレリアには、守備隊があの少女を捕えたという報告は入っていない。バートリを見ても、知らない僕のせいじゃないと泣きながら、繰り返すばかりだ。
両者相容れぬとなれば、あとは力で決着をつけるしかない。
「ならば、そこの市長に吐かせるまで」
「ここを通すわけにはいかない」
ヴァレリアはレイピアを抜き放った。
むろん、ガイウスたちの目的は、ディエルナの制圧と略奪ではない。やるべきことはただ一つ、ティナの無事を確かめることだ。
ガイウスの影から音もなく少女が顔を出す。
エルだ。彼女は、ティナたちのギルドで幽閉された直後、ガイウスに接触していた。
「さすがは、ガイウス。もうあの城壁を突破するとはね」
「ふん、あの程度、障害にならぬわ。それよりティナ様に何があった?」
「ティナ様なら捕まっちゃったよ」
「なに? ベリサリウスやウルたちがついていながら、なんたるざまだ。何かの間違いではないかのか?」
緊急の信号を受けて、ガイウスたちは一心不乱に急行したが、ティナは少数とはいえ、精鋭に守られていた。ベリサリウスとウル、ルーナの神器持ちの軍団長三人に、高性能な親衛隊のマギアマキナが二人。たった五人だが、一個軍団にも勝る戦力だ。
重要な城壁を守っていた部隊の打たれ弱さを考えると後れを取ったとは考えにくい。
「まあ、でも事実だよ。そうでもなきゃ。あんたたちを呼び寄せたりしないよ」
「ならば、今ティナ様はどこにおられる?」
「それがまだちょっとわかんないんだよね~」
「貴様、それでも栄えある皇帝陛下の軍団を預かる軍団長か!」
軽薄そうにへらへら笑うエルに業を煮やしたガイウスが、エルの首根っこをつかんで持ち上げる。
後ろに控える軍団兵たちもエルをにらむ。
「ちょ、ちょっと、目星はついてるんだ。ティナ様を狙っていたのはこの町の市長。きっと市庁舎に行けばわかるはずだよ」
エルは、宙に浮いた足をばたつかせて、ガイウスの拘束を解いて地面に軽やかに着地する。
そして首元を手で払いながら、ガイウスたちがディエルナの中枢である市庁舎に行くように仕向けた。
もちろん、エルはすでにティナたちがベリサリウスたちと冒険者ギルドの地下に幽閉されていることも知っているし、それがルチアとティナの芝居によるもので、危険もないことも承知している。
しかし、唯一の連絡係であるエルは、そのことをあえてひた隠し、ディエルナの制圧が円滑に進むように、ガイウスに虚実織り交ぜた情報を吹き込んだ。
ガイウスたちは、エルの言っていることを真実と思い。市庁舎に進路を向けた。
帝国軍製のマギアマキナであるガイウスたちには、マギアマキナが味方に対して嘘偽りを言っている可能性など頭にない。
エルが、人間の下で、惨い扱いを受けていた過去があり、人間を快く思っていないことは知っていた。それでも、元は同じ帝国軍製のマギアマキナであるということもあって、まるで疑わず、信じてしまった。
「待っていてくだされ、ティナ様。いま、ガイウスが参りますぞ!」
ガイウスたちは市庁舎へと駆けていく。
「ふう、扱いやすくて助かるよ。さてと私は、ティナ様のところにでも顔を出しておくかな。くく、面白くなりそうだ」
エルは、どこからともなく、巻き付いた二頭の蛇と羽が特徴的な杖を取り出すとそれを振るい、忽然とその場から姿を消してしまった。
市庁舎は、ディエルナのちょうど真ん中に位置している。三百年ほど前に建てられたもので、古代エルトリア建築を参考に、半円のアーチが多用された石造りの立派なものだ。
大通りに続く正面には広場もあり市民の憩いの場ともなっている。そんな広場には、古典式の軍団兵たちがひしめき、市庁舎を包囲、突入しつつある。
「来たか」
軍服姿の麗人が、市庁舎の最上階にある市長室の窓から、軍団兵たちの様子をうかがっていた。
彼女の名は、ヴァレリア・ソリアーノ。この市庁舎の守備を任された指揮官である。髪は短く切りそろえられており、茶色がかったブロンドだ。目は蒼く透き通っていて力強い。腰には愛剣のレイピアを携えており、そのたたずまいは、美しい。
ヴァレリアも本来ならば、部隊を率いて、城壁で、他の守備隊とともに交戦しておくべきだったが、不本意ながらここにいる。
その原因は、
「お、おい、敵が来たぞ。早くどうにかしないか」
ここでおびえきっている市長バートリにある。
ヴァレリアの率いるソリアーノ隊は、ディエルナの中でも抜きんでて精強な部隊である。その実力は、自由都市同盟の中でも比類ない。
この平和ボケしたディエルナでそのような精鋭部隊が出来上がったのは、優秀な指揮官であるヴァレリアの猛烈な訓練によるところが大きい。
もし、ヴァレリアが、隊を率いて、城壁で戦っていれば、ガイウスとてかなりてこずったはずだ。
しかし、そのもっとも堅実な選択肢さえ、現実とはならなかった。バートリが自分の身を案じ、一番武名の誉れ高いヴァレリアの部隊をあろうことか市庁舎の護衛に回したのである。
「はっ。では、私はここを離れ、前線で直接指揮を執ります」
ヴァレリアが恭しく一礼し、戦場へ向かおうとするとバートリが引き留める。
「ま、待て、お前がいなくなったら、だ、誰が僕を守るんだ」
バートリは言葉を突っ返させながら、ヴァレリアの細い体に縋り付く。
ヴァレリアは卓抜した軍事指揮官であると同時に、ディエルナ最強の戦士でもある。バートリはそんな強力な護衛が自分のそばから離れることを嫌った。
「しかし、すでに城壁は破られているのです。ここで敵を打ち払わなければ、私とて、一人で市長をお守りすることはできません」
「う、うるさい! 僕の言う通りにしろ。守備隊の指揮権は僕にあるんだ」
ヴァレリアは理を持って、市長に説くが、もはや話し合いにならない。
(臆病な男め)
ヴァレリアは内心、愚痴を吐くが、戦闘は部下に任せ、バートリに従った。
自由都市の法と秩序を重んじるヴァレリアにとっては、臆病で愚鈍な男でも、まがりなりにも民衆が彼を選んだ以上、従うべき相手なのである。
それに、市庁舎ですべての敵を引き受ければ、町に被害が及ぶこともない。
ヴァレリアはレイピアの柄に手をかけ、ひたすら待った。
「ティナ様あああああ!」
ガイウスは巨槍を振るいながら、市庁舎の中を探し回っていた。精強なヴァレリアの部隊も相当に善戦したが、軍団兵たちの勢いには及ばず、ついに敗れた。
ガイウスは数名を引き連れて、敵をなぎ倒しながら、最上階に駆け上がる。市長のいる場所は、探すまでもなかった。中央に、ご丁寧に市長室と書かれているのである。
「ここか!」
ガイウスは、市長室の扉を力任せに蹴破る。
「ひいいいい!」
今にも気絶しそうなバートリは恐怖のあまり、絶叫し、机の後ろに身を隠す。
「市長は誰だ? ティナ様はどこにいる!」
ガイウスが大きな目玉をぎょろりと動かす。
うずくまったバートリの尻と目をつぶったまま、静かにたたずむ麗人があるのみだ。
「私がお相手しよう」
ヴァレリアは紺碧の瞳をカッと見開き、バートリを守るようにガイウスの前に立ちふさがる。
「ほう。お前が、ここの指揮官か」
ガイウスはじっとヴァレリアを見る。ここの守備隊がひ弱な城壁の守備
隊とは、違うことをガイウスは感じていた。ヴァレリアから感じる気迫も、将たるものの気迫である。絶えず訓練されてきたであろう隙のない構えに、ほとばしる魔力量。並のマギアマキナの軍団兵をも凌駕する実力者である。
「私は、ヴァレリア・ソリアーノ。ディエルナ守備隊の一隊を預かる者。貴殿の名を聞こう」
「栄光あるティナ様の軍隊、最後の軍団、軍団長ガイウスである」
ガイウスも丁寧に名乗りを上げる。
これほどの実力があれば、その名は諸国に轟いているはずだが、その軍装といい金獅子と銀狼の紋章といいヴァレリアには聞き覚えがない。それこそ、神話の世界の古代エルトリア帝国しか思い浮かばない。
「なぜ、この町を襲う?」
ヴァレリアは問う。
どんな、お題目を掲げようとも、戦争の目的など、征服や略奪などの欲望からくるものだろう。聞くだけ無駄だが、ヴァレリアはこの古典式の兵士たちが、普通の戦争をしにきた軍勢とは性質が違う気がした。
これほどの勝利を治めていながら、略奪や暴行を行う様子もなかった。それでいて、猪突猛進、攻撃の手を一切緩めない。何か激しく怒っている。
ヴァレリアには、この平和な都市ディエルナが誰かから憎悪されるいわれが思い当たらない。
「お前たちの王が、我が皇帝であるティナ様に危害を加えた。理由はそれだけで十分だ」
ヴァレリアは、にわかに思い出す。そういえば、最近、町では、ティアという少女が話題に上がることが多かった。何度か、市中の見回りで見かけたことがある。はじけるような可愛らしい笑顔が印象的な子だったことを覚えている。評判では、並外れた優しさの持ち主らしい。
その神秘的なまでに美しい容姿と小柄な体形に見合わず、泥まみれで、薄汚い革鎧に身を包み、冒険者風だったことも覚えている。おおよそ、軍勢を配下に収めているようには見えなかった。
「貴殿らの主であるティナ殿に、心当たりはない」
ヴァレリアには、守備隊があの少女を捕えたという報告は入っていない。バートリを見ても、知らない僕のせいじゃないと泣きながら、繰り返すばかりだ。
両者相容れぬとなれば、あとは力で決着をつけるしかない。
「ならば、そこの市長に吐かせるまで」
「ここを通すわけにはいかない」
ヴァレリアはレイピアを抜き放った。
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