草むしりクエスト【BL】

佐々木猫八

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一章

5、依頼と依頼★

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冒険者ギルドに着くと、俺は依頼完了証明書を出しにカウンターへと向かった。
「はい、1週間お疲れ様でした。これが今回のお給金よ」
袋を受け取るとはっきりと分かるくらいずっしりとした重みがあった。
相当入っているとみて間違いないだろう。
「そうそう、パン屋の継続指名依頼も来ているのだけど、あのお屋敷の草むしりの指名依頼も来ているわね。どうする?」
「お屋敷の草むしりの方が先約なんですけど⋯でも、パン屋の仕事も手伝いたいんです。どうしたらいいですか?」
セドリックは正直に聞いてみる事にした。
「そうねー、曜日ごととか時間帯ごとに割り振って仕事してみたらどうかしら?午前はパン屋、午後からは草むしり、とかね。もし良ければ冒険者ギルドで調整するわよ?」
「えっ!そういう事もして貰えるんですかっ!ぜひお願いします!」
「では、セドリック君は明日は休息日にして休んで、明後日ギルドに来てね」
「はい、お願いします」
セドリックは給金をしっかり抱えると、月の丘亭へ向かった。

月の丘亭に着くといつも通りゾッファが定食を食べていた。
迷わず声を掛ける。
「今日のA定食は何?ゾッファ」
「マジフライのタルルソースがけ」
「やった!大好物!A定食にする!!」
俺はスキップせんばかりに上機嫌でA定食を頼みに行く。
そしていつも通りにゾッファの隣へと座る。
「今日でパン屋は終わりなんだろ?お疲れ様」
「うん、そうなんだけど、継続依頼が来てて続けれそうならやろうかなって⋯ただお屋敷の草むしりの依頼も指名依頼来てるから冒険者ギルドの人が調整してみてくれるって」
「おおっ大人気だなセドリック」
「へへへ」
冒険者からは遠のいているけれど、指名依頼は純粋に嬉しい。
給金が安定して得られるし、何より役立っていると実感できるからだ。
「へい、A定食お待ち!」
「わーい!!マジフライ!」
サクサクの衣に相性お抜群のタルルソースを絡めて一口頬張れば幸せの味だ。
セドリックは無心でA定食を食べ進める。
「お前ほんとマジフライ好きだよな」
「ふんっ」
マジフライこそ至高の食べ物だっ!
夢中で食べていたらあっという間に食べ終えてしまった。
「もう一皿⋯」
「止めとけ」
危うく歯止めが効かなくなりそうになっていたセドリックをゾッファが冷静に止める。
「それで、明日はどっちの依頼をするんだ?」
「ううん、明日は依頼はせずに休息日にするよ。依頼の調整に時間かかるみたいだし⋯明後日、冒険者ギルドに来てくれって言われてる。ゾッファは明日ダンジョン?」
「ああ、明日から少し離れたダンジョンに潜ってくる。1週間くらい街を離れる予定だ」
「そうかー、大丈夫だと思うけど気を付けて行ってきて」
「お前も無理とかすんなよ」
ゾッファが明日の出発が早いということで今日はすぐにお開きとなった。

翌日ーーー
やわらかな日差しが窓から差し込み朝が来たことを知らせる。
セドリックは久々にゆっくりとした起床を味わっていた。
朝早いと言っていたからゾッファはもう街を出発しているだろう。
「朝食食べに行くか」
身支度を整えると部屋を出た。
階段を降りると人がまばらな食堂に着く。
冒険者らは早くに各々出発していて席が空いていた。
セドリックはカウンターで朝食を注文するといつもの席に座りぼんやりとした。
「今日どうしようかなー」
給金が入り金銭的には少し余裕がある。
職人街でぶらぶらと買い物をしてもいい。
それとも部屋に戻って惰眠を貪ってもいい。
そうこう悩んでいるうちに朝食が届いた。
「ほい、朝プレートお待ちっ!今日はゆっくりめなんだな!しっかり食えよ!」
「ありがとうございます」
どうするかは朝食を食べてから決めるか、と考え直してセドリックは食べ始めた。

「うーん、やっぱり短剣かなぁ⋯」
セドリックは職人街の武器屋の前でショーウィンドに置かれた商品を見ていた。
実はセドリックはまだ武器らしい武器を持っていた無い。
持っているのはダガーで、これでは魔物は倒せない。
せいぜい植物を採取したり木を削ったりする程度しか出来ない。
今なら短剣とあと皮の胸当てくらいなら買える。
あと揃えるならば携帯食料、水袋といったところだろうか。
「あ、軽くて温かいマントがあるといいってゾッファが言ってたな。あとは薬草もあると安心って」
全部を買うにはお金がかかり過ぎる。
セドリックは悩んだ。
悩んだ結果、短剣とマントだけ買うことにした。
携帯食料は結構値が張るので、出発前に日持ちするパンを買えば良いだろう。
「よし、入ろう」
ガランガランガラン
店内には人はおらず、セドリックは目当ての短剣に近づく。
持ってみてもいいだろうかと戸惑いながら商品を手にする。
短剣はダガーよりずっしりとして重たかった。
構えると自分は冒険者だ、という気持ちが大きくなる。
「なんでぇ坊主。剣士なのかい。そうは見えねぇな」
いきなり声がしてセドリックは驚いた。
下を向くと、潤沢にひげを蓄えた小柄な男性が立っていた。
「えっ、あの、その」
「ははっ、ドワーフ族を見るのは初めてかい?」
「あ、はい」
「そうかい、大抵の街の武器屋はドワーフがやってるもんだ。俺等ドワーフ族以外がやってる店には行くな。偽物を掴まされるからな」
がははと笑って言う。
「その短剣は俺の兄者が打った業ものだ。だけど、それを扱うにはまだお前さんには早いか、それか訓練が必要だな」
「えっ」
どういう事かと聞いてみる。
「剣を構えるための腕の筋力が全然足りてねぇし、姿勢を維持する筋力も無いな。剣を買うのは止めねぇけど、魔物退治する前にそれで素振りでもして慣れないとただの重い棒だ」
よく考えて買え、と言われた。
セドリックはじっと短剣を見つめる。
確かに重たくて持っているのも少し辛い。
しかし、買って素振りを欠かさずにすれば扱えない事もなさそうで⋯
「この短剣、下さい」
セドリックは思い切って買った。
成長するには背伸びも必要なのだから。
「手入れはタダでやってやるからウチに来いよ」
セドリックは腰に短剣を帯刀して店を出た。
今日から毎日朝晩素振りだ!
セドリックは意気揚々と職人街を進んだ。

次の日ーーーー
短剣での素振りを終え、冒険者ギルドへ向かう。
依頼受け付けカウンターを見るとミーナさんが忙しそうにしていた。
少し待つかとギルド併設の食堂で飲み物を飲んでいたら、見知らぬ冒険者に声を掛けられた。
「おいおい、未成年の坊ちゃんがギルドに何のようだぁ?ここはお子様の来るところじゃねーぜぇ」
無視していると、相手は意地になったのか無理やり視界に入ろうとしてくる。
無視し続けていると諦めたのか立ち去っていった。
セドリックは飲み物を飲み干すと丁度ミーナの手が空いたのでカウンターへと向かい声をかける。
「ミーナさん、おはようございます」
「ああ、おはようセドリック君。指名依頼の調整が済んだから、奥のテーブルで説明するわね」
ミーナさんはカウンターを別の人にお願いすると少し離れたテーブルへと案内してくれた。
「まずパン屋は朝が忙しいから朝来て欲しいこと、草むしりは夕方近くの3時間程度で良いことが調整で分かったの。だから朝から夕方前までパン屋で依頼をこなして貰って、その後休憩を挟んでお屋敷の草むしりへ行って終わったら依頼完了証明書をギルドに提出しに来て。あと、毎週ラナの日は休息日に当てることになったから。あとパン屋は一応長期の依頼になるけど、給金は毎日支払われるわ。草むしりの方はタナトスの季節が終わるまでの間は来て欲しいそうよ、こっちも毎日給金が支払われるわ」
説明は一通り終わりよ、とミーナは依頼完了証明書を2枚取り出す。
「依頼と依頼の間にはしっかり休憩を入れること。無理そうなら必ず申し出ること。オーケー?」
「はい、分かりました」
「じゃ、今日からよろしくね!」
依頼完了証明書を受け取ると、冒険者ギルドを出て職人街へと向かった。

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