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おい、ふざけるなよ。それで世間が納得するわけないだろ!

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「リコちゃん人形を始め、わが母校の選手達は、みんな立派にリーグ戦を戦い抜いてきたんだよ。マスゴミどもにとやかく言われる筋合いなんて一つもない。あっ、白鳥君、マスゴミは差別用語に指定されているかね?」
「はい、二千三十二年の最高裁判決にて、マスコミをマスゴミと呼ぶことは差別に当たると判断されました。文科省も小学一年生の道徳の授業において❝撲滅汚い言葉集❞という教科書を使い二千三十三年度より指導を開始しました」
「じゃあ、くそったれレマスコミだ。それならいいだろ?」
「ぎりぎりセーフかと」
 いや、違うんだ。そんなところじゃないんだ。
「とにかくわが母校の優勝に一点の曇りなしだ。ははは」
「総理、選手たちのレポート、つまり味見の報告を今総理に報告していよろしいでしょうか?」
「報告を報告か、ふん、まぁいいだろ」
「それでは報告いたします。ちなみに英語は日本語に訳しております」
「うん、わかった」
「スミス選手のレポートです『最高だぜ!ベイビー!』」
「ベイビーがいいじゃないか。ユーモアのセンスがあるね、スミス君は」
「次はリコちゃん人形の報告です『めっちゃうまいやん』。リコちゃん人形はマイナーで日本人選手から関西弁を習ったそうです」
「勉強熱心で大変よろしい。悪くないね、リコちゃん人形は」
 勉強するところが違うだろ。もちろん白鳥は、この言葉を飲み込んだ。
「次はジョンソンのレポートです。これはお読みください」
 白鳥はそう言って、一枚のメモを郷田に渡した。郷田はメモを受け取ると眉間に皺を寄せてそれを見た。
「何だねこのcooooolって」
「coolだそうです」
「英語も変わったんだね。でもあれだよ、oが多くてなかなかいいじゃないか」
「とにかく、とにかくです。彼らが提出するリポートは、東大が開発しているハンバーガーには何一つ貢献しておりません」
「君ね、急いては事を仕損じる、ということわざがあるだろ。彼らの貢献はこれからだよ」
「しかし、総理、そのすべに充てられているのが税金でして。いわば血税で」
「投資だよ投資」
「税金が……投資? しかし」
「投資の見返りは数年後だろ。わが東京大学が開発したハンバーガーは必ず世界を席巻するよ。それまでの辛抱だよ。君にはそれくらいのことはわかってもらえていると思ったがね。白鳥君、僕を失望させないでくれ」
 郷田は白鳥の言葉を切ってそう言った。
「神宮球場からも苦情が来ております」
「苦情? どんな?」
「東大のベンチやロッカールームがとても汚いとの苦情です」
「汚いって……どういうこと?」
「つまり、つまりです。わが日本は数十年来、試合終了後ロッカールームやベンチなどを選手やスタッフ達が清掃するという極めて民度の高い行為を行っております。試合終了後の美しいロッカールームやベンチなどは何度もネットにあげられていることを総理もご存じかと思います」
「うん」
「ところが、ところがです。これをご覧ください」
 白鳥はそう言うとハイパースマートフォンをスクロールして一枚の写真を見つけると、それを郷田の方に向けてハイパースマートフォンを郷田に渡した。
「なるほど……確かに汚いね」
 郷田の渋い表情が数秒続いた。バラバラに散らばっているバットとグローブ。脱ぎ捨てられたパンツやタオル。
「改善してもらわなければ困ると、神宮球場から厳しい指導を先日受けました」
「でも、あれだろ、神宮球場だって掃除くらいしているよね。だったらそのついでに掃除してもらえばいいじゃないか」
「もちろん神宮球場も清掃はしております。しかし、そうではあっても他の大学は、それ以上に掃除しているのです。東大だけがこれでは他大学に対して」
「ちっ、面倒だね。じゃあ、あれだバイトを頼もう。バイト君達にベンチとロッカールームの掃除を頼もう。それでいいだろ、白鳥君」
「それでいい……」
「一件落着だよ、白鳥君」
「総理、それだけではございません。身内からも批判が出ております」
「身内って?」
「東京大学です」
「東大がどうかしたのかね」
「東京大学応援部は、野球部の応援を今後ボイコットすると声明を出しました」
「声明?」
「はい声明です」
 
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