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始まり〜シイ村
盗賊のアジトへ
しおりを挟む草木も眠る深夜。
夜行性の動物や魔獣、魔物が元気に動き出す。
月がキレイですね、なんて思いながら異世界の白い月をエンと眺めていた。
寝てもいいんだけど、今夜はお外で月光浴、なーんて。
私とエンは、人間の集団が気配を消して近づいていることに気付いていた。
私たちとソーマが街にたどり着けずに、野宿をすることを知ったのだろう。
見た目子どもふたりと大人ひとり、いいカモだ。
ここでソーマとお別れかな?
彼には長生きしてもらいたい。
あの家には結界が張ってあるけど、彼を危険から遠ざけたいと思った。
ちょっくら盗賊のアジトに行って、ケンカや訴訟はやめろと言ってこようと思う。
シイのお家を収納した。
エンは黒猫に変幻して私を乗せて走っていく。
月の光が樹々の間から差していて幻想的だった。
エンがわざと魔力を放出しながら走るので、邪魔者は避けていく。
すぐに集団と遭遇して、足音を大きくガサガサたてて彼らの周りをぐるぐる回った。
彼らは正体不明の足音を追ってキョロキョロするが目視できないようで、武器を構えている手は震えていて、すっごい警戒してる。
エンは段々と彼らを追い詰めて集団をひとまとめにしたところで立ち止まった。
彼らは髪ボーボーで紐で結ってる人、バンダナ巻いてる人、髭もボーボーだったり三つ編みにしてる人もいた。
服はボロくて汚く、皮の鎧をつけてる人もいた。
で、離れた場所からでも匂ってくる体臭。
「おまえら・・・・・・くさい!」
匂いに我慢できなくて全員クリーンした。
出会って1番のセリフがくさい!になるとは思っていなかったよ。
「・・・・・・な、なんだ?」
は?
え?
彼らは自分達の体がキレイになったことに気付いて狼狽える。
ベタベタしていた全てのヘアがサラサラに軽くなる。
頭皮の痒みももちろん消えた。
何かの汚れでカピカピになっていた服の一部がフワッとなって着心地の良い新品に生まれ変わった。
おまけに長年苦しんでいた足先の痒みもピタッと治まった。
クリーンしたことで水虫も除去されたようだ。
得体の知れないモノにロックオンされてる状態で、なぜこんなクリーンされたのか、彼らは全く理解できない。
「あなた達、盗賊なの?」
エンに乗ったまま訊いた。
「そ、そうだ。お前は何者だ!」
リーダーらしき男が答えてくれたが、エンの強い魔力とある意味異常な状態である現実に必死に耐えていた。
他の雑魚は失禁してたり泣いていたり、完全に戦意喪失しているヒトばかりとなっていた。
失禁もまたクリーンでキレイになっていたが。
正体不明の何者かは、自分らを遥かに上回る強さで、虫を潰すのと同じくらい簡単に俺たちを殺せるんだって、本能で死の恐怖をビシビシと彼らは感じていた。
「私の正体を知ってどうするというのだ。
戦える者がひとりでもいるのか?」
ちょっと長い沈黙のあと、仮リーダーが答えた。
「・・・・・・命だけはお助けを」
力量がちゃんとわかる人で良かった。
面倒なことはなるべくしたくないよね。
「私に歯向かわなければ助けてやる。
お前達の集落に案内しろ」
「・・・・・・こ、こちらです」
なんとか動ける者が、腰を抜かした者を支えて移動を始めた。
私たちは彼らから距離をとって、最後尾の離れた後ろからゆっくり着いていった。
テントがいくつも張られていて、中央にはキャンプファイヤーできるようなでかい焚き火があった。
彼らが集落に入って行ったが、私たちは少し待った。
エンの魔力解放そのままにして、集落に残っていた者達にも力量差を知らしめなければならなかった。
そして盗賊団のリーダーが出てくるのを待った。
先に入って行った仮リーダーに指示はしていないが、遠くで「お頭!」と叫ぶ声が聞こえたからね。事情説明をしているところだろう。
「うん、くさい。鼻が潰れるね。
エンは大丈夫なの?」
聞きながら集落全体にクリーンをかけた。
「これくらいは慣れている」
「慣れているってことは、そういうことか」
「獣はくさいものだ」
「え、自分のこと獣っていうんだ?」
「違う。食事の獲物だ」
「うわぁびっくりした。そうだよね、ごめん」
「我はエンシェントドラゴンだ。その辺ものと一緒にするな。
臭いとすぐに虫が沸くからな、定期的にキレイにしている」
「それは良かった」
そういえば初めて会った時から臭い匂いはなかったかも。
ごめんごめんと心で謝りながら猫の頭をなでなで。
首をむにむにマッサージ。
しだいに焚き火周辺に人が集まってくる。
ぶるぶる震えた足で複数人で支え合いながらゆっくり。
そしてしゃがむ。
気概のあるやつは武器に手を添えているがそれだけ。
力量さはちゃんとわかっている。
1番大きいテントからオークやオーガのようにデカい男が出てきた。
お頭だ。
ただエンと喋って待っていたわけではない。
隅々まで鑑定してどんな人間が居るのか調査していたから、お頭が誰でどこに居るのか把握していた。
お頭、というだけあってこの中で1番強い人物だった。
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