上 下
28 / 39

計画なんてない

しおりを挟む
「さ・・・むい・・・・・・」

耳強化で聞こえてくる少女の声は消えそうなほど小さくなっていた。
身代金目的なら、人質を死なせるのは良くないと思うんだけど、犯罪者の考えることは私にはわからない。

建物を確認できる距離まで来たので、作戦を考えるために草むらに身を隠した。

あの建物の中には見張り番がいて、玄関の隣の部屋にドアを開けて待機している。
あれなら玄関が開いてもすぐに閉めれば入室に気づかないだろうな。
今は3人で何かのゲームをしているみたい。
少女を監禁している地下への入り口やドアの前には誰もいない。
ならば、3人がいる部屋さえ素通りできれば・・・・・・中に入って少女と合流できるだろう。
外に出るときは、3人がいる部屋の手前の部屋の窓から外に出ればいいかな。

うん、きっとうまくいきそうだ。

魔力の暴力で自分の体に魔法をかける。
透明人間になるように強くイメージをする。
初めてやったけどなんとかなるもんだね。
体が透けて見える。
鑑定すると、体が透明になっていて他者へは見ることができないとなっていた。

感情がないので悪の巣窟に入ろうとしているのにドキドキ感が全くないのも良いね。
前世の自分だったら恐怖と緊張で吐いてたと思う。
強くなったな、自分。
緊張すると本領発揮できないからね。
絶対にうまくいく。

草を動かさないようにゆっくりと出て、そして玄関をあけた。
足音も立てないように靴を脱いで潜入。
迷わず監禁部屋に向かった。

その部屋には鍵がかかっていたので、また魔力の暴力で解除。
静かに中へ入り、ドアもまた閉めた。
部屋には何も置かれておらず、窓もない。
少女は石畳の床に寝転がっていた。

そりゃ寒いわ。

少女を驚かせないように透明を解除した。

「おねえちゃん、大丈夫?」

「・・・・・・さむい」

魔法で暖かい空気の層を作り出し包むと、少女の表情が緩んだ。

「このまま静かにしていてね。おうちに帰ろうね」

少女は小さく頷いた。

さて少女を連れていくか、と思った時、少女がこんな状態で歩けるわけがないってことに気づいたよ。
5才児が自分よりでかい人間を運ぶって・・・・・・ま、仕方ない。
うん、仕方ないよ。
どうにでもなれ。

とりあえず、人間を運んでいることに一般の人に見られるのを避けよう。
収納にシーツがあったので、少女をシーツで包んだ。
うん、持ち運びしやすくなった。

人物サーチで見張り番が部屋から出ていないことを確認して、少女を魔法で浮かせた。
私の後ろをついてくる白い物体。
なんとなくあのドラゴンRPGの棺桶を思い出したよ。
彼女は死んでないけどね。

監禁部屋を出て、ドアにはまた鍵をかけておく。
地下から1Fに上がって、近くの部屋に入って窓から外へ脱出。
誰にも見られずに出られた。
ここからは少女を肩に担いで、人物サーチでしょうじょの捜索班を探しながら歩いていく。

あーいたいた。
おっと、どうやって引き渡す?
何も考えてなかったよ。
絶対私、怪しまれるよー

どうしたらいいか何も思いつかないままその人の近くまで来てしまった。

すると、その人は私から離れるように後ろを向いて私の先を歩き出した。

なんで?

コンパスの長いその男性はどんどん離れていく。
慌てて走って追いかけて、つまづいた。

咄嗟にその状況を利用して、男性の膝裏に体当たり。
少女を転がして、私は透明人間になってその場を離れた。

きっと誰にも見られていない、と思い込むことにする。

男はうわぁと倒れたがすぐに起き上がって何が起きたのか周りを確認し、白い物体を見つけた。
男性は不審に思いながらもシーツの中身を確認すると静かにおどろき、慌ててシーツを包み直して抱え上げて足早に去っていった。

ミッションコンプリート!
また今日もひとつ、良いことをしたようだ。
これで本当に誰にも気づかれていなければ、完璧である。

さ、孤児院に差し入れを用意して、ルドを迎えに行こう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...