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文字を覚えよう

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商業ギルドへ行った翌日、ギルマスから服と靴が届いた。
お近づきのしるしだそうだ。
貧民でも使えるように華美でない平民が着るような服や靴下、靴、小さな髪飾りも入っていた。

地味なものは普段にも使えそうかな。
平民風なのは商業ギルドへ行く時に着ていこう。

おんぶ紐とカートはひと月くらいのんびり作ろうと思ってたけど、1週間以内に完成させてお礼に行かなきゃな。

今私はルドを乗せたカートをひいて、孤児院へ向かう街の子どもたちの集団に混じっている。
孤児院で読み書きを教えてくれるんだそうだ。

冒険者ギルドで新規登録をするときは全部兄ズにお任せだったから、自分の名前の書き方もわからない状態で生きてきた。
必要性がなかったので学ぼうだなんて全然思わなかったな。
家に本がなかったし。

商業ギルドでサインを求められるまで全然気付かなかったなんてどうかしてる。
お陰で血判だなんて、前世含めて初めての経験をして痛かった。

孤児院は想像より大きくて広かった。
ちょっと古いけど小綺麗にしているようだった。
この広い講堂は、有事の際に街の人の避難場所や、会議にも使われるんだそうだ。

孤児院の子どもたちも一緒になって勉強する。
椅子に静かに座ることができて、意欲のある子どもに教えるそうで、無理強いはしないのだそうだ。
それでも意欲が出るように工夫はしていて、独り立ちするまでにはほとんどの子がちゃんと読み書きを習得しているとか。

お勉強中は施設員さんがルドの面倒を見てくれることになって、久しぶりのひとりだ。
そして初めて同世代との交流。
みんな私をチラチラ見て落ち着かない様子を見て、施設員さんが私に自己紹介するように言ってきた。

素直な5才児は礼儀正しく椅子から降り立って自己紹介をしよう。
あら、顔の位置が低くなっちゃった。

クスクスと控えめな笑い声が聞こえてくる。

再度椅子に座ってみんなを見渡す。

「初めまして。私はエラ、5才。生後6ヶ月の弟ときたよ。冒険者をやってる兄ちゃんがふたりいて、とーさんはよくわかりません。かーさんはこないだ焼いて居なくなったよ」

ざわつくざわつく。

「はーい、みんな、静かにしてー。エラ、自己紹介ありがとう。困ったことがあったらいつでも孤児院に来てちょうだいね。それじゃあ、みんなもエラに名前を覚えてもらって、仲良くお勉強したり遊びましょうね」

見た目40代くらいの優しそうな女性の施設員、アンさん。
子どもの扱いにとても慣れているみたい。
端からひとりずつ名前を言ってくれたが、仲良くするつもりもないし興味もないので事務的に「よろしく」を返した。

そして勉強が始まるのだが、昨日の1文字を復習して、今日の1文字を覚える。
アンさんが文字を大きく書いた板を持ち上げて書き順をなぞる。
みんなはそれを真似してテーブルに指でなぞる。

これは、エアノート?

勉強の時間わずか5分。

たったそれだけで終わり、孤児院の庭で遊び始めた子どもたち。

これが普通らしい。

1日1文字だと、全部で何日かかる?
とーちゃんが来ちゃうよ。
そしてエアノート。
ちゃんと正しく書けているのか確認できなくていいのか?

そこで思いついた。
チート発動ですね。

木の板にこぼれないように砂を広げて、指か棒で文字を書く。

1文字しか勉強しないなら、天気が良ければ外でやってもいいと思う。
青空教室だね。

思い立ったが吉日。
すぐ戻るからと、ルドを施設員さんにお願いしてカートをひいて出ていった。
門の外へ出て倒木を見つけると、魔法で大きさA3サイズくらいに1cm厚でスライス。
外枠1、2cm残して少し削ってくぼませる。
凹こういう感じ。
これなら砂をいれてもこぼれないだろう。

それを20枚くらい作る。
子どもが持ちやすそうな太さの棒も同じ個数作って、倒木の残りは収納魔法で収納しておく。
板はカートに乗せてまた孤児院へ。

孤児院の庭では剣術を学んでいる子もいた。
私は虫を捕まえて女の子を追いかけ回している男の子を避けて、施設員さんと本を読んでいる集団の近くに腰をおろした。

さっきの板に砂を入れて満遍なく広げ、さっき教わったばかりの1文字を書いてみる。

「ねーねー、今日の文字は、これであってる?」

子どもらしい演技をして隣りの女の子に板を見せた。

「わぁ、すごーい!これは砂?」

女の子の声に本を読んでいたみんなが集まってくる。

「今日の文字はこれだったね!僕も書きたい!」
「私にもやらせてー!」

持っていた板と棒を女の子に渡して、カートから板を出してみんなに配っていく。
ちゃんとお礼をいう子もいた。
人のを奪ったり勝手にカートから持っていく奴も。
持って行くのはいいがカートは壊してくれるなよ。

「砂を板に広げるんだよ」

実演してみせるとみんなも真似して砂を広げ、文字を書く。

「こうして消したらまた書けるよ」

書いた文字を手で撫でて消してみせる。

「まぁ、よく考えたわね」

施設員さんが関心して、お勉強会がまた始まった。

作ってきた板と棒は全部寄付をして、晴れの日は外でお勉強することになり、また、1文字だけでなく、飽きるまで何文字もやりたいと、子どもの意欲が湧いていた。

私はというと、板に全ての文字を書いてもらって家でも勉強して、文字は1週間ほどで覚え、次の1週間で孤児院の子ども向けの本を全部読み尽くした。
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