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へそくりの隠し場所

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●●●大量出血、自死表現あり●●●






私が5才になった頃、弟が産まれた。
兄ズも同じ誕生月で、長男10才、二男9才。

5才になった私は予定通り冒険者登録をして、お金を稼ぐようになった。
弟が産まれてから、授乳しているかの確認だけして、おしめのクリーンはしていない。
母の仕事だからだ。
私は泣かない赤ちゃんだったけど、弟はギャン泣きが酷かった。
お尻が痛いんだろうね。
頭ではクリーンしなくてごめんねって思うけど、私の心はいつも凪で、痛くも痒くもなかったよ。

最近は母子の生存確認をしてからギルドへ行き、帰宅して生存確認するのが日課となっていた。
母の様子が日に日におかしくなっていたから。




弟くん、生後6カ月。

母親が死んだ。

なにかある、そう思っていた矢先のことだった。




冒険者ギルドから帰宅した私が見たもの。

血の海に倒れている母

母の首には刃物の傷

両手のそばに落ちている切れ味の悪い包丁




血が噴き出ていたであろう傷穴からは、もう流れるものが無かったようで、そこにあるのは静寂と、鉄の匂い。

日々の母の様子とその現場を見て、現実から逃げたのだと察した。

嗚呼、わかっていたよ、あなたはそんな人間なんだって。

うん……わかっていたよ……

わかっていながら何もしなかった私は、母の言った通り、悪魔なのかもしれない。




感情が沸かないのでショックで動けないなんてことはないが、いまだかつてこんな状況に遭ったことがなかったから何をすべきかわからない。

ギャン泣きする弟にクリーン魔法をかけて、未だ完璧にできない治癒魔法をお尻に何度もかけてやる。
少しは効いたのか?泣き止んでくれた。

私をじっと見つめる瞳は宝石のようだった。

「お兄ちゃんたちが帰ってくるのを待とうね」

前世の子守唄を歌いながら優しく揺らし続けていた。




夕日で屋内が赤くなった頃、兄ズが帰宅した。

「うう!」

むせかえるような鉄の匂いに鼻を抑える兄。

「エラ!」

子守唄を歌い続ける私を、弟と一緒に抱きしめてくれたのは長男のレオだった。

兄ズは私の名付け親。
エラとは、「美しい妖精の女性」という意味だそうだ。
この荒んだ生活で真っ当な兄になれたのは可愛い妹がいたからだと兄ズは言う。
ただ、妖精のチェンジリングだと信じている2人だった。

二男ユーリはギュッと拳を握っていた。

「ギルドから帰ったら母さんが倒れていて、弟が泣いてたからずっと抱っこしてたの」

「エラ、兄さんの目を見て。……弟の面倒を見て偉いね。エラも、泣いていいんだよ」

目を見て、と兄は私によく言う。

ゆっくり視線を兄と合わせる。

何故泣かないのかと問うような、不安そうな、兄の眼。

泣くべき状況なのだろうけど、涙など出るわけがなく、スッと視線を外した。

「ユーリ、悲しむのは最後にしよう。ボスに連絡しなくてはならないが、連絡する前に金目の物がないか家中隈なく探すんだ」

「わかった」

貧民街のボスに連絡すると警備兵が来て簡単な捜査が行なわれるのだが、その時に金品をくすねる奴がいるそうだ。
兄ズは家中の引出し、蓋という蓋を全て開けて探した。
壁や床を叩いていたりもした。
出てきた金目の物はアクセサリー少しと、お金が少し。

私も魔法で家の中をサーチして、特殊な隠し場所に巾着袋を見つけたんだけど、宝石がたくさんついたアクセサリーがたくさんと、中くらいの魔石がひとつ。


これは……父親のへそくりだな!


鑑定したアクセサリーの三分の一は盗品だった。
父が盗んだのか、流れてきた盗品なのか……

この中くらいの魔石には父と同じ魔力が込められていて、鑑定してみると現在地発信の魔法がかけられていた。
きっとへそくりの行方を魔力で探るためだろうな。
隠し場所にも隠蔽の魔法がかけられていたし。
ってことは……奴は必ず帰ってくるってことだ。


こんな大金を隠し持っていたのになんで私たちは貧民街で貧しい暮らしをしなきゃならなかったんだ?
これだけあれば平民街で部屋を借りて今よりずっとマシな生活ができたよね?
つまり、こういうことか。
私たち家族を養う気は全くなかったと。
あの父親は、私たちをこれっぽちも家族と思っていなかったんだ。
ここは、ただの、へそくりの隠し場所だったんだ……。
きっと、他の家庭もそうなのかもしれない。
私たちはへそくりの番人だったのか。



なるほど。
そうだったんだね。
色々気づいてしまうよね。



親の財産は子で等しく分ける。



前世の記憶から、そのように行動することにした私は、へそくりを隠すことなく兄ズに申告した。
父が魔石の魔力を追って回収しに来るであろうことも。

「俺たちが見つけたアクセサリーと金は母さんが仕舞っておいたものだろう。金は生活費に回して、アクセサリーはエラが使うと良い。お金に困ったときには売るんだよ。魔石はボスに渡そう」

真剣なレオの眼を見て頷く。

「このへそくりは4人で分けようね。私が預かっていてもいい?魔法で収納できるの」

「「え!」」

兄ズは私の魔力量と魔法の才能に驚き、小さなマジックバッグを入手するまで、しばらく私に預けてくれることになった。

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