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第五話
【39】
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風になびいた自分の赤色に、ウォーブラは視線を伏せる。
奇妙な夢を見始めたのがいつ頃からかは覚えていない。その夢は、今でも変わらずに見続ける。
いつか自分がこと切れる、その瞬間の夢。
夢の中では、自分の姿を確認することはできない。白亜化して化物になるのか、人のまま死ねるのか。
「まさか、こんな理由があるたぁ思わねえよ。」
包帯の上から、右目をなぞった。白昼夢のような映像が、現実に起こることは何度もあった。この街でグレイの奇襲を防いだ時もそうだ。あれはまぐれじゃない。数瞬前に見えたから、防げた。
それでも、見えるから必ず変えられるわけではないということも知っている。
「リリ……。」
小さく呟いて、青い髪留めをそっと包むように握った。
不意に振りむくと、リヴィが立っていた。
「よう、相棒。呼びに来てくれたのか。」
「行くぞ。そろそろ依頼人と落ち合う時間だ。」
「なぁ、ちょっと相手してくれよ。」
リヴィが怪訝な表情をしたのが見えて、思わず笑ってしまった。こうして動けるようになってからも、リヴィは随分心配してくれているらしい。
「軽く身体動かしたいんだよ。付き合ってくれよ。」
「……3分だ。」
リヴィが小さく息をつきながら剣を抜くのを見て、ウォーブラはニィと口端を上げた。
「行くぜ相棒!」
地面を蹴って、間合いを詰める。薙刀を振り下ろすと、リヴィは正確に剣を打って軌道を逸らした。続けて二撃、三撃と重ねると、いずれも確実に払われる。
くるりと旋回すると、遅れてガラス玉の髪飾りが視界を舞った。
あの時、せめて武器を持っていたら。
あの時、自分が戦えたなら。
――知恵も使えぬ愚か者は獣とまこと変わりない。力なき正義は、現実よりも惨い夢よ。
これから先、大切な仲間を守れるだろうか。
もっと強くなれば、護れるだろうか。
「っらァ!」
ギィン、と剣戟の音が激しく鳴った。
(いつか。もしその時が来たら。)
リヴィの青い瞳と、視線が交錯した。
(俺は化物になるのか?)
「なぁ、リヴィ。」
「何だ。」
「……なんでもねぇ。ほら、がら空きだぜ!」
ウォーブラは口から出そうになったうわ言を振り払った。
化物になる前に、殺してほしい――なんて。
刹那、リヴィに腕を取られ、そのまま地面に投げ落とされる。
「おわっ!」
「油断したな。」
「はは、鈍っちまった。」
けらけらと笑うと、リヴィの背に広がる青空が目についた。
「リヴィ、ほらよ!」
「な、っうあ!」
手招きして、リヴィをぐいと隣に転がした。
「見ろよ。すげー空。きっと飛んだら気持ちいいぜ?」
空に手を伸ばして、リヴィに笑いかける。同じように空を見上げたリヴィは、こちらに視線を戻して、それからすっと瞼を閉じた。
「ああ、そうだな。」
静かな、低い響きの声。いつも通りの音に、微かな揺らぎが混ざっていた。聞き逃すわけも、見過ごす理由もない。
「どうしたよ、相棒。」
驚いたように、リヴィが目を見開いた。瞬間、水面の境界の色をした瞳が微かに揺らぐ。
「……ウォーブラが、青空を見るたびにおそろしくなる。どこか遠くへ行ってしまいそうで、怖いんだ。」
「行かねぇよ。どこにも。いや、違うか。一緒に行くんだろ。相棒。」
「ああ。……ああ。」
リヴィは静かに頷いた。
奇妙な夢を見始めたのがいつ頃からかは覚えていない。その夢は、今でも変わらずに見続ける。
いつか自分がこと切れる、その瞬間の夢。
夢の中では、自分の姿を確認することはできない。白亜化して化物になるのか、人のまま死ねるのか。
「まさか、こんな理由があるたぁ思わねえよ。」
包帯の上から、右目をなぞった。白昼夢のような映像が、現実に起こることは何度もあった。この街でグレイの奇襲を防いだ時もそうだ。あれはまぐれじゃない。数瞬前に見えたから、防げた。
それでも、見えるから必ず変えられるわけではないということも知っている。
「リリ……。」
小さく呟いて、青い髪留めをそっと包むように握った。
不意に振りむくと、リヴィが立っていた。
「よう、相棒。呼びに来てくれたのか。」
「行くぞ。そろそろ依頼人と落ち合う時間だ。」
「なぁ、ちょっと相手してくれよ。」
リヴィが怪訝な表情をしたのが見えて、思わず笑ってしまった。こうして動けるようになってからも、リヴィは随分心配してくれているらしい。
「軽く身体動かしたいんだよ。付き合ってくれよ。」
「……3分だ。」
リヴィが小さく息をつきながら剣を抜くのを見て、ウォーブラはニィと口端を上げた。
「行くぜ相棒!」
地面を蹴って、間合いを詰める。薙刀を振り下ろすと、リヴィは正確に剣を打って軌道を逸らした。続けて二撃、三撃と重ねると、いずれも確実に払われる。
くるりと旋回すると、遅れてガラス玉の髪飾りが視界を舞った。
あの時、せめて武器を持っていたら。
あの時、自分が戦えたなら。
――知恵も使えぬ愚か者は獣とまこと変わりない。力なき正義は、現実よりも惨い夢よ。
これから先、大切な仲間を守れるだろうか。
もっと強くなれば、護れるだろうか。
「っらァ!」
ギィン、と剣戟の音が激しく鳴った。
(いつか。もしその時が来たら。)
リヴィの青い瞳と、視線が交錯した。
(俺は化物になるのか?)
「なぁ、リヴィ。」
「何だ。」
「……なんでもねぇ。ほら、がら空きだぜ!」
ウォーブラは口から出そうになったうわ言を振り払った。
化物になる前に、殺してほしい――なんて。
刹那、リヴィに腕を取られ、そのまま地面に投げ落とされる。
「おわっ!」
「油断したな。」
「はは、鈍っちまった。」
けらけらと笑うと、リヴィの背に広がる青空が目についた。
「リヴィ、ほらよ!」
「な、っうあ!」
手招きして、リヴィをぐいと隣に転がした。
「見ろよ。すげー空。きっと飛んだら気持ちいいぜ?」
空に手を伸ばして、リヴィに笑いかける。同じように空を見上げたリヴィは、こちらに視線を戻して、それからすっと瞼を閉じた。
「ああ、そうだな。」
静かな、低い響きの声。いつも通りの音に、微かな揺らぎが混ざっていた。聞き逃すわけも、見過ごす理由もない。
「どうしたよ、相棒。」
驚いたように、リヴィが目を見開いた。瞬間、水面の境界の色をした瞳が微かに揺らぐ。
「……ウォーブラが、青空を見るたびにおそろしくなる。どこか遠くへ行ってしまいそうで、怖いんだ。」
「行かねぇよ。どこにも。いや、違うか。一緒に行くんだろ。相棒。」
「ああ。……ああ。」
リヴィは静かに頷いた。
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