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第五話
【35】
しおりを挟む声が聞こえる。
誰かが泣いている?
温かい。
知っている。覚えている。
「――、んお……?」
視界がじんと滲んで、零れ開けた。
眩しい。
「ウォーブラ!」
「ぉわっ!」
一番に飛び込んできたのは黒い影だった。よく知ったテノールの響き。毎日、何度も自分の名前を呼んでくれる声。聞き慣れているのに、随分と久しぶりのような気がする。
「ウォーブラ……ウォーブラ。」
覗き込んで、必死に名前を呼んでくれるリヴィを見上げて、ウォーブラは左手を持ち上げた。指先で切れ長の目元を拭ってやる。
「よぉ、リヴィ。なんて顔してんだよ。」
少しでも安心させたくて笑いかけたが、リヴィは一層目元を濡らして、ウォーブラの胸元に顔をうずめた。大きな肩を震わせながら、背中を小さく小さく丸めている。
「いなくなるかと、思って、怖かった。」
「ああ、悪い。心配かけた。」
リヴィは小さく頷いた。まるで小さい子供のようだ。
ウォーブラはゆっくり身体を起こすと、リヴィの広い背中を宥めるように、ゆっくり撫でた。
「ウォーブラ……目が覚めて良かったよ。」
イオが眉尻を下げて、安堵を見せるように口を開けた。
「らしくねぇぞ、イオ。いつもの威勢はどこに行きやがった。」
「いつもいつも、怒鳴ってるわけじゃないよ。」
全く、この男は。そんなふうにしおらしく息をついて近寄ってきたかと思うと、指先を伸ばしてきた。と、勢いよくウォーブラの額を爪で弾く。
「痛ってぇな! 何すんだよ!」
「本当、心配したんだからね!」
「ああ……、まぁ、悪かった。……あんがとな。」
ウォーブラは視線を逸らし、頬をかいた。いつも言い合いばかりしているせいで、こんな風に心配されるのはどこかむず痒い。
「三日間も寝てたんだから。あんた、どうなったか覚えてる?」
不意に、扉が軽く鳴った。コンコン、と二回。それから響いたのは、日陰を凪ぐ風のような声だ。
「リヴィ、イオ。ウォーブラの着替えを持ってきました。」
扉が開かれて、その姿がウォーブラの視界に映る。
夜明けの光を思わせる明るい金の髪。顔を上げた彼女の瞳が、フードの影から覗く。蜜色の柔らかな瞳がウォーブラを捉えた瞬間、大きく見開かれた。
「ウォーブラ……目が、覚めて……。」
その、瞬間。
「アサヒ!」
ウォーブラは寝台から飛び降りた。
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