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あの日、あの場所で
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そもそもコンスタンスが事故に遭ったのは、セリーヌを庇ったため。
しかし事故の直後に意識を失いそのまま記憶までなくしたコンスタンスは、その後セリーヌがどうなったのかも知らない。
オレリアンは戸惑いながら、
「貴女に助けられたおかげで、彼女はかすり傷一つなかったよ」
と答えた。
コンスタンスはとりあえずその答えに安堵する。
オレリアンの大切な人を守れたのだ。
そして畳み掛けるように、
「セリーヌ様をお迎えに行かれなくてよろしいのですか?」
とたずねた。
この8ヶ月余りの記憶を呼び戻してみても、オレリアンの周囲にセリーヌの影は一切無かった。
彼はコンスタンスを連れてヒース領に行ったり、王都では毎日ルーデル公爵邸に通ったりと、コンスタンスに尽くしてきたのだから。
でもその間、彼の想い人であるセリーヌは一体どうしていたのだろう。
「私が記憶をなくしてしまったから、またお2人の邪魔をしてしまったのですか?」
そうだ。
きっとコンスタンスが事故に遭ったせいで、また2人が一緒にいられなくなってしまったのだ。
「私のせいで…、」
「違う!」
オレリアンは引き抜かれた妻の手を再び掴んだ。
「彼女とは…!ノントン子爵夫人とは二度と会わない!」
「…え?」
「そもそも、迎えに行こうなどと思ったこともないし、そんなこと、するはずがない。
彼女とは貴女と婚約するかなり前に、すでにちゃんと終わっていたんだ。
正直あんな騒ぎを起こされて迷惑だし、貴女に怪我をさせられて憤りこそすれ、やり直したいなどと思うはずがない」
「…迷惑…?」
「ああ、迷惑だとも。
人妻が男に迫るなど…、しかも妻のいる男に迫るなど、正常な人間のすることではない。
だから夫であるノントン子爵にそう抗議したんだ。
彼女は今、夫に軟禁されているらしい」
「…軟禁…!」
「当然の処置だよ。
俺を冷たい男だと蔑むか?
でも、貴女をあんな目にあわされ、許せなかったんだ。
いや…、一番悪いのは俺なのに、俺は自分を差し置いて子爵夫人や義母を罰した」
「…お義母様も⁈」
そう言えば、この8ヶ月を振り返ってみても、義母のカレンの姿も見えなかった。
「ああ、貴女には義母のことも話さないとな。
義母…、いや、あの女が貴女と俺にしていたことが全てわかったんだ。
あんな女を放置していたこと、本当に申し訳なかった」
オレリアンはコンスタンスに対するカレンの罪を話した。
そして今彼女が実家のダドリー男爵の領で監禁されていることも。
「そんなことが…」
コンスタンスは絶句した。
オレリアンとのすれ違いの陰に義母の思惑があったなんて。
そして自分が記憶を失っている間に、オレリアンはそれを取り除くべく奔走していたなんて。
思えば、王妃の思惑で結婚が決まり、義母の思惑で夫とすれ違い、なんて他人に振り回される結婚生活なのだろうか。
コンスタンスは夫を見つめた。
彼はコンスタンスとの結婚生活を憂いなく送るために義母や元恋人を排除した。
本気でやり直したいと思っていなければ、きっとそんなことはしない。
彼は本気でコンスタンスに償う気なのだ。
でも償いで一生側にいて、果たして彼はそれで幸せなのだろうか?
「…オレリアン様」
コンスタンスは夫の手を握り返し、微笑んだ。
「償いはもう、十分にしていただきました。
貴方はもう、自由になってもいいのですよ?」
オレリアンは目を見開き、妻を見つめる。
「自由?どういうことだ?
それに俺はまだ何も貴女に償ってなどいない」
「いいえ、貴方は十分すぎるほど償ってくださいました。
7歳の幼女のようになってしまった私に飽きもせずに付き合い、貴方の存在さえ忘れ、冷たく接した16歳の折にも、こんな私に毎日会いに来てくださいました。
そして王宮では、王族を敵に回すのも厭わず私を助けてくださいました。
もう、十分すぎるほどではありませんか?」
「あれは…、あれは、償いなどではない!」
オレリアンは縋るような瞳をコンスタンスに向けた。
その蒼い瞳は潤んでいるように見え、コンスタンスは驚きに目を見開く。
しかし事故の直後に意識を失いそのまま記憶までなくしたコンスタンスは、その後セリーヌがどうなったのかも知らない。
オレリアンは戸惑いながら、
「貴女に助けられたおかげで、彼女はかすり傷一つなかったよ」
と答えた。
コンスタンスはとりあえずその答えに安堵する。
オレリアンの大切な人を守れたのだ。
そして畳み掛けるように、
「セリーヌ様をお迎えに行かれなくてよろしいのですか?」
とたずねた。
この8ヶ月余りの記憶を呼び戻してみても、オレリアンの周囲にセリーヌの影は一切無かった。
彼はコンスタンスを連れてヒース領に行ったり、王都では毎日ルーデル公爵邸に通ったりと、コンスタンスに尽くしてきたのだから。
でもその間、彼の想い人であるセリーヌは一体どうしていたのだろう。
「私が記憶をなくしてしまったから、またお2人の邪魔をしてしまったのですか?」
そうだ。
きっとコンスタンスが事故に遭ったせいで、また2人が一緒にいられなくなってしまったのだ。
「私のせいで…、」
「違う!」
オレリアンは引き抜かれた妻の手を再び掴んだ。
「彼女とは…!ノントン子爵夫人とは二度と会わない!」
「…え?」
「そもそも、迎えに行こうなどと思ったこともないし、そんなこと、するはずがない。
彼女とは貴女と婚約するかなり前に、すでにちゃんと終わっていたんだ。
正直あんな騒ぎを起こされて迷惑だし、貴女に怪我をさせられて憤りこそすれ、やり直したいなどと思うはずがない」
「…迷惑…?」
「ああ、迷惑だとも。
人妻が男に迫るなど…、しかも妻のいる男に迫るなど、正常な人間のすることではない。
だから夫であるノントン子爵にそう抗議したんだ。
彼女は今、夫に軟禁されているらしい」
「…軟禁…!」
「当然の処置だよ。
俺を冷たい男だと蔑むか?
でも、貴女をあんな目にあわされ、許せなかったんだ。
いや…、一番悪いのは俺なのに、俺は自分を差し置いて子爵夫人や義母を罰した」
「…お義母様も⁈」
そう言えば、この8ヶ月を振り返ってみても、義母のカレンの姿も見えなかった。
「ああ、貴女には義母のことも話さないとな。
義母…、いや、あの女が貴女と俺にしていたことが全てわかったんだ。
あんな女を放置していたこと、本当に申し訳なかった」
オレリアンはコンスタンスに対するカレンの罪を話した。
そして今彼女が実家のダドリー男爵の領で監禁されていることも。
「そんなことが…」
コンスタンスは絶句した。
オレリアンとのすれ違いの陰に義母の思惑があったなんて。
そして自分が記憶を失っている間に、オレリアンはそれを取り除くべく奔走していたなんて。
思えば、王妃の思惑で結婚が決まり、義母の思惑で夫とすれ違い、なんて他人に振り回される結婚生活なのだろうか。
コンスタンスは夫を見つめた。
彼はコンスタンスとの結婚生活を憂いなく送るために義母や元恋人を排除した。
本気でやり直したいと思っていなければ、きっとそんなことはしない。
彼は本気でコンスタンスに償う気なのだ。
でも償いで一生側にいて、果たして彼はそれで幸せなのだろうか?
「…オレリアン様」
コンスタンスは夫の手を握り返し、微笑んだ。
「償いはもう、十分にしていただきました。
貴方はもう、自由になってもいいのですよ?」
オレリアンは目を見開き、妻を見つめる。
「自由?どういうことだ?
それに俺はまだ何も貴女に償ってなどいない」
「いいえ、貴方は十分すぎるほど償ってくださいました。
7歳の幼女のようになってしまった私に飽きもせずに付き合い、貴方の存在さえ忘れ、冷たく接した16歳の折にも、こんな私に毎日会いに来てくださいました。
そして王宮では、王族を敵に回すのも厭わず私を助けてくださいました。
もう、十分すぎるほどではありませんか?」
「あれは…、あれは、償いなどではない!」
オレリアンは縋るような瞳をコンスタンスに向けた。
その蒼い瞳は潤んでいるように見え、コンスタンスは驚きに目を見開く。
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