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こころ、近づく
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「上機嫌だな」
ダレルは馬上で鼻歌まで歌い出しそうなほどご機嫌な主人を見て苦笑した。
コンスタンスがヒース侯爵邸を訪ねた翌日から、またオレリアンのルーデル公爵邸通いが始まった。
彼は以前と同じように仕事帰りに花を一輪だけ買って、公爵邸に寄るのだ。
しかし以前と違うのは、毎日コンスタンス自身がエントランスまで出てきて、直接花を受け取ることである。
コンスタンスは上がってお茶でも、と誘うが、オレリアンはエントランスで花を渡し、少し言葉を交わしただけで帰って行く。
「結婚までしている男女が奥ゆかしいことだ…」とダレルは呆れたような目を向けるが、オレリアンはまたコンスタンスが頭痛を起こしたりしないように、少しずつ、少しずつ距離を縮めていきたいと思っている。
「まぁ、気長にいくさ」
と言うオレリアンの声は明るく爽やかだ。
「今日はガーベラですか」
一輪挿しに花を飾る主人を見て、リアは声をかけた。
「ええ。可愛いでしょう?」
花を見て微笑むコンスタンスに、リアの頬も思わず緩む。
リアから見ても、オレリアンの公爵家訪問が再開してからのコンスタンスは目に見えて明るくなった。
本人は気づいていないようだが、いつもオレリアンが訪ねてくる時間帯になると明らかにそわそわしている。
「いただくばかりでなんだか申し訳ないわ。
何かお返しはできないかしら」
花を見つめながら、コンスタンスは首を傾げた。
オレリアンは毎日コンスタンスの顔を見られるだけで満足なようで、お茶や夕食に誘っても邸に上がらないで帰って行く。
彼はお付き合いから…と言っていたが、普通の男女の付き合いとは一体どういうものなのだろう。
幼い頃から王太子と婚約していて、彼と会うのも全て王室からお膳立てされていたコンスタンスにはよくわからない。
「そうですねぇ。
お名前でも呼んで差し上げたらいかがですか?」
「お名前を?」
そう言えば15歳として目覚めたばかりの時、覚えていなかったとは言え、彼に名前を呼ぶなと告げた。
その後名前で呼ぶことを許して『コンスタンス嬢』と呼ばれているが、オレリアンのことは相変わらず『侯爵様』と呼んでいる。
「そう…、お名前…」
コンスタンスは考え込むように呟いた。
翌日は非番だということで、オレリアンは昼間に公爵邸を訪ねてきた。
コンスタンスは邸に上がるよう誘ったが、オレリアンが庭を見たいと言ったため、2人で庭を散歩することになった。
庭の花壇には様々な花が咲き乱れ、オレリアンは少し恥ずかしそうに口を開いた。
「私が贈らなくても…、色々な花があるのですね。
何か、余計なことをしていたようだ」
「とんでもございませんわ。
侯爵様の真心が込められたお花に、私は毎日癒されておりました。
でもこれからは、こうしてお話をして、少しでも貴方のことを知っていきたいと思います」
「ええ。知られて嫌われないよう、頑張りますね」
「まぁ、それは私の方ですわ」
「貴女を嫌うなどありえません。
私はこうして毎日貴女に会えるだけで夢のようなのですから」
柔らかな微笑みを見せるオレリアンに、コンスタンスは少々戸惑ってしまう。
直接言葉を交わすようになったオレリアンは、こうして普通に甘い言葉を吐く。
とても素直で正直な人なのだと思うが、彼と夫婦だった頃を知らないコンスタンスにとっては、むずがゆく、面映ゆい感じがするのだ。
一方オレリアンも、「こんな歯も浮くような台詞を口にしているのをダレルが見たら大笑いするだろうな」と苦笑した。
本当は、それほど口が上手い人間ではないのだから。
だが、少しずつ、少しずつではあっても、こうして言葉を交わし、微笑み合い、打ち解けていけたらと思う。
ダレルは馬上で鼻歌まで歌い出しそうなほどご機嫌な主人を見て苦笑した。
コンスタンスがヒース侯爵邸を訪ねた翌日から、またオレリアンのルーデル公爵邸通いが始まった。
彼は以前と同じように仕事帰りに花を一輪だけ買って、公爵邸に寄るのだ。
しかし以前と違うのは、毎日コンスタンス自身がエントランスまで出てきて、直接花を受け取ることである。
コンスタンスは上がってお茶でも、と誘うが、オレリアンはエントランスで花を渡し、少し言葉を交わしただけで帰って行く。
「結婚までしている男女が奥ゆかしいことだ…」とダレルは呆れたような目を向けるが、オレリアンはまたコンスタンスが頭痛を起こしたりしないように、少しずつ、少しずつ距離を縮めていきたいと思っている。
「まぁ、気長にいくさ」
と言うオレリアンの声は明るく爽やかだ。
「今日はガーベラですか」
一輪挿しに花を飾る主人を見て、リアは声をかけた。
「ええ。可愛いでしょう?」
花を見て微笑むコンスタンスに、リアの頬も思わず緩む。
リアから見ても、オレリアンの公爵家訪問が再開してからのコンスタンスは目に見えて明るくなった。
本人は気づいていないようだが、いつもオレリアンが訪ねてくる時間帯になると明らかにそわそわしている。
「いただくばかりでなんだか申し訳ないわ。
何かお返しはできないかしら」
花を見つめながら、コンスタンスは首を傾げた。
オレリアンは毎日コンスタンスの顔を見られるだけで満足なようで、お茶や夕食に誘っても邸に上がらないで帰って行く。
彼はお付き合いから…と言っていたが、普通の男女の付き合いとは一体どういうものなのだろう。
幼い頃から王太子と婚約していて、彼と会うのも全て王室からお膳立てされていたコンスタンスにはよくわからない。
「そうですねぇ。
お名前でも呼んで差し上げたらいかがですか?」
「お名前を?」
そう言えば15歳として目覚めたばかりの時、覚えていなかったとは言え、彼に名前を呼ぶなと告げた。
その後名前で呼ぶことを許して『コンスタンス嬢』と呼ばれているが、オレリアンのことは相変わらず『侯爵様』と呼んでいる。
「そう…、お名前…」
コンスタンスは考え込むように呟いた。
翌日は非番だということで、オレリアンは昼間に公爵邸を訪ねてきた。
コンスタンスは邸に上がるよう誘ったが、オレリアンが庭を見たいと言ったため、2人で庭を散歩することになった。
庭の花壇には様々な花が咲き乱れ、オレリアンは少し恥ずかしそうに口を開いた。
「私が贈らなくても…、色々な花があるのですね。
何か、余計なことをしていたようだ」
「とんでもございませんわ。
侯爵様の真心が込められたお花に、私は毎日癒されておりました。
でもこれからは、こうしてお話をして、少しでも貴方のことを知っていきたいと思います」
「ええ。知られて嫌われないよう、頑張りますね」
「まぁ、それは私の方ですわ」
「貴女を嫌うなどありえません。
私はこうして毎日貴女に会えるだけで夢のようなのですから」
柔らかな微笑みを見せるオレリアンに、コンスタンスは少々戸惑ってしまう。
直接言葉を交わすようになったオレリアンは、こうして普通に甘い言葉を吐く。
とても素直で正直な人なのだと思うが、彼と夫婦だった頃を知らないコンスタンスにとっては、むずがゆく、面映ゆい感じがするのだ。
一方オレリアンも、「こんな歯も浮くような台詞を口にしているのをダレルが見たら大笑いするだろうな」と苦笑した。
本当は、それほど口が上手い人間ではないのだから。
だが、少しずつ、少しずつではあっても、こうして言葉を交わし、微笑み合い、打ち解けていけたらと思う。
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