60 / 100
16歳、やり直し
3
しおりを挟む
「父上、このこと、フィリップ殿下には?」
エリアスは父ルーデル公爵にたずねた。
泣き疲れて眠ってしまったコンスタンスに付き添い母も部屋を出たので、今は父とエリアスの2人きりである。
父はほとんど正直な事実をコンスタンスに伝えていたが、あえて伏せていたこともあったように思う。
例えば、事故の理由。
コンスタンスはオレリアンの元恋人を庇って事故に遭ったが、公爵はその事実を話さなかった。
それから、フィリップがコンスタンスを側妃に望んでいる事実。
それにはオレリアンの背景も、2人が1年間どのような夫婦だったのかも説明が必要だから割愛したのだろうが。
今夜のコンスタンスはもうキャパオーバーで、壊れてしまいそうなほどだから。
「もちろん殿下に話すつもりはない。
また側妃になどと騒がれては厄介だ」
そう言ってルーデル公爵は眉間に皺を寄せた。
どうあっても、可愛い愛娘を側妃に差し出すなど、承服できるわけがない。
権力欲しさに娘を後宮に上げて王子を産ませたがる輩もいるだろうが、ルーデル公爵家にそんな必要はない。
ずっと昔から王家と縁を結び、一番の忠臣であったルーデル公爵家は、かえって王家に頼られる存在であるのだから。
公爵家に見限られないようにといつも気を使っているのは王家の方で、婚約解消後のコンスタンスに躍起になって結婚相手を探したのもそんな背景もある。
「オレリアンには…」
「気の毒だが、しばらく会わせるわけにはいかないだろう。
今のコニーの精神状態では耐えられまい」
慕っていた王太子との婚約解消で打ちのめされているコンスタンスに、赤の他人同然の夫など、会わせるわけにはいかない。
本当は事実だって教えたくなかったくらいだ。
耳を塞ぎ、部屋に閉じ込めて、大事に守ってやりたかった。
だが聡いコンスタンスのことだ、隠されたり、また、別のルートで耳に入ったりしたら、それもまた彼女を傷つける。
歪んだ噂を耳にするよりは、と、断腸の思いで伝えたのだ。
「とにかくしばらくはこの公爵邸で静養させ、本人が望めば公爵領に行かせることも考えよう。そしていずれは…」
離縁も考えるようだろう…、という言葉を、公爵は飲み込んだ。
オレリアンには悪いが、今回のコンスタンスがオレリアンの存在を受け入れるのは相当厳しいだろう。
最近では娘に対する彼の愛情深さと誠実さを認めていたので残念だが、コンスタンス自身のメンタルが最優先だ。
「…そうですね。
しばらくこちらには来ないように連絡しましょう」
エリアスもそう言うと唇を噛んだ。
エリアス自身、最近のオレリアンを気に入り、義弟として認め始めたところだったから。
あの不器用な男は悲しみ、また自分を責めるのだろうな…、と、そう思うと、エリアスはやるせなかった。
エリアスは父ルーデル公爵にたずねた。
泣き疲れて眠ってしまったコンスタンスに付き添い母も部屋を出たので、今は父とエリアスの2人きりである。
父はほとんど正直な事実をコンスタンスに伝えていたが、あえて伏せていたこともあったように思う。
例えば、事故の理由。
コンスタンスはオレリアンの元恋人を庇って事故に遭ったが、公爵はその事実を話さなかった。
それから、フィリップがコンスタンスを側妃に望んでいる事実。
それにはオレリアンの背景も、2人が1年間どのような夫婦だったのかも説明が必要だから割愛したのだろうが。
今夜のコンスタンスはもうキャパオーバーで、壊れてしまいそうなほどだから。
「もちろん殿下に話すつもりはない。
また側妃になどと騒がれては厄介だ」
そう言ってルーデル公爵は眉間に皺を寄せた。
どうあっても、可愛い愛娘を側妃に差し出すなど、承服できるわけがない。
権力欲しさに娘を後宮に上げて王子を産ませたがる輩もいるだろうが、ルーデル公爵家にそんな必要はない。
ずっと昔から王家と縁を結び、一番の忠臣であったルーデル公爵家は、かえって王家に頼られる存在であるのだから。
公爵家に見限られないようにといつも気を使っているのは王家の方で、婚約解消後のコンスタンスに躍起になって結婚相手を探したのもそんな背景もある。
「オレリアンには…」
「気の毒だが、しばらく会わせるわけにはいかないだろう。
今のコニーの精神状態では耐えられまい」
慕っていた王太子との婚約解消で打ちのめされているコンスタンスに、赤の他人同然の夫など、会わせるわけにはいかない。
本当は事実だって教えたくなかったくらいだ。
耳を塞ぎ、部屋に閉じ込めて、大事に守ってやりたかった。
だが聡いコンスタンスのことだ、隠されたり、また、別のルートで耳に入ったりしたら、それもまた彼女を傷つける。
歪んだ噂を耳にするよりは、と、断腸の思いで伝えたのだ。
「とにかくしばらくはこの公爵邸で静養させ、本人が望めば公爵領に行かせることも考えよう。そしていずれは…」
離縁も考えるようだろう…、という言葉を、公爵は飲み込んだ。
オレリアンには悪いが、今回のコンスタンスがオレリアンの存在を受け入れるのは相当厳しいだろう。
最近では娘に対する彼の愛情深さと誠実さを認めていたので残念だが、コンスタンス自身のメンタルが最優先だ。
「…そうですね。
しばらくこちらには来ないように連絡しましょう」
エリアスもそう言うと唇を噛んだ。
エリアス自身、最近のオレリアンを気に入り、義弟として認め始めたところだったから。
あの不器用な男は悲しみ、また自分を責めるのだろうな…、と、そう思うと、エリアスはやるせなかった。
52
お気に入りに追加
2,705
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

騎士の妻ではいられない
Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。
全23話。
2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。
イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる