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16歳、やり直し
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丸三日間眠り続けたコンスタンスの記憶は、15歳に戻っていた。
あの、馬車の事故に遭った時の19歳に戻ったわけではない。
ましてや、三日前までの7歳とも違う。
コンスタンスは前日の夜、国王の即位10周年記念の舞踏会に、王太子フィリップの婚約者として参加したのだと言う。
そしてフィリップに送られて帰宅し、その後、疲れてぐっすり眠っただけなのだと言う。
目が覚めたら母の部屋で寝ていて、何故か目の前には王宮で見たことがある騎士の顔があったと。
当然ながら王太子と婚約解消したことも、オレリアンと結婚したことも覚えていない。
そして、記憶を失っている間7歳の少女として楽しい生活を送っていたことも、もちろん覚えていないのだ。
医者もこんな事象は今まで見たことがないと首を傾げた。
記憶を取り戻すならいざ知らず、途中の年齢になって、しかも記憶を失っていた間のことも全く覚えていないなんて。
「何故?どうして15歳なんだ?」
エリアスからその事実を聞いた時、オレリアンはがっくりと膝をつき、頭を抱えた。
コンスタンスが15歳の頃といえば、公式の場にフィリップ殿下と2人揃って出ることが多くなってきた頃だ。
オレリアンが騎士として王宮の警護にあたるようになった時期とも重なる。
だからコンスタンスは、時々見かける騎士くらいの認識で、オレリアンの顔を見知っていたのだろう。
片や王太子の婚約者の公爵令嬢として。
そして片や王族に仕える近衛騎士の1人として。
あの頃の王太子と婚約者は、オレリアンから見ても仲睦まじく、お互いを想いあっているように見えた。
王太子に寄り添って微笑む彼女を何度目にしたことか。
「…コニーの中に、もう私はいないんですね?」
オレリアンが自嘲気味にそう言うと、エリアスは気まずそうに目を伏せた。
「コニーには、父から説明するそうだ。
だが、今日はまだ…」
「ええ、わかっています。
今日はもう自邸の方に帰ります。
私を見たら、コニーは混乱するでしょうから」
「すまない、オレリアン」
エリアスは本当に申し訳なさそうにオレリアンに頭を下げた。
正直、ルーデル公爵家でもこの先どうしたらいいのか途方に暮れている状態だった。
コンスタンスにいつ、どのタイミングで事実を伝えればいいのかと。
前回の記憶喪失…、つまり7歳の少女の時はまだ良かった。
王太子と婚約したばかりでまだそれほどの思い入れもなかったため、わりとすぐ事実を受け入れたから。
だが15歳のコンスタンスでは、事実をどう受け止められるかわからない。
その頃と言えば、お妃教育も終了に差しかかり、本格的に王太子と共に公式の場に顔を出し始めた頃だ。
幼馴染だった2人が長い時間をかけて愛情を育んでいたのを、側で見ていた家族は知っている。
事実を知っての彼女の嘆きを思ったら、口が重くなるのは当然だ。
父は『時期を見て伝える』と言った。
だが、15歳のコンスタンスにいつまでも隠しおおせるわけもない。
「リアはどう思う?」
エリアスはいつも妹の側にいる侍女リアにたずねた。
リアは「恐れながら…」と言いながら重い口を開いた。
「お嬢様は、17歳の時に一度婚約解消を言い渡されています。
あの時は冷静に自国のこと、王家のこと、そしてフィリップ殿下のお立場を思い、何一つ反論することなく受け入れていらっしゃいました。
でも今のお嬢様は15歳とのこと。
その頃のお嬢様はフィリップ殿下の婚約者としてデビューされた頃です。
側から見ておりましても、殿下とお嬢様の仲は良好で、相思相愛のご様子でした。
今のお嬢様に婚約解消と、すでに人妻であることを告げて、どれほど取り乱されるのか想像もつきません」
リアは淡々と言い切ったが、オレリアンの顔を見れなかった。
オレリアンは青ざめ、唇を噛んで立ち尽くしている。
「オレリアン、本当にすまない」
エリアスはもう一度、オレリアンに向かって頭を下げた。
今の状態では、しばらく妹に会わせることは出来ないだろう。
だがオレリアンはそれを遮り、自分の方が深々と頭を下げた。
「いえ、自業自得です。
全て私のせいですから。
私のせいなのに、あんなにコニーを苦しめてしまって…、本当に、私の方こそ申し訳ありません」
「違う、オレリアン…、頭を上げてくれ」
「しかし、元々事故にさえ遭わなければ…。
いや、やはり最初から、私が…」
エリアスはオレリアンの肩に手を置いた。
これは、誰が悪いわけでもない。
あの事故は不幸な偶然だった。
あの日オレリアンは、夫婦関係を改善したくてコンスタンスを王都に連れ戻したと、今のエリアスは理解している。
事故の原因になった女はオレリアンの強い抗議で、夫の手で軟禁状態になっている。
コンスタンスを自領に置き去りにし、放置していたオレリアンを恨んでいた時もあったが、それもこの不器用な男が良かれと思ってしていたことだということも理解している。
婚約解消で傷ついたコンスタンスを王都から離し、また、未だに王太子を想っている妻を慮ってのことだったということも。
あの、馬車の事故に遭った時の19歳に戻ったわけではない。
ましてや、三日前までの7歳とも違う。
コンスタンスは前日の夜、国王の即位10周年記念の舞踏会に、王太子フィリップの婚約者として参加したのだと言う。
そしてフィリップに送られて帰宅し、その後、疲れてぐっすり眠っただけなのだと言う。
目が覚めたら母の部屋で寝ていて、何故か目の前には王宮で見たことがある騎士の顔があったと。
当然ながら王太子と婚約解消したことも、オレリアンと結婚したことも覚えていない。
そして、記憶を失っている間7歳の少女として楽しい生活を送っていたことも、もちろん覚えていないのだ。
医者もこんな事象は今まで見たことがないと首を傾げた。
記憶を取り戻すならいざ知らず、途中の年齢になって、しかも記憶を失っていた間のことも全く覚えていないなんて。
「何故?どうして15歳なんだ?」
エリアスからその事実を聞いた時、オレリアンはがっくりと膝をつき、頭を抱えた。
コンスタンスが15歳の頃といえば、公式の場にフィリップ殿下と2人揃って出ることが多くなってきた頃だ。
オレリアンが騎士として王宮の警護にあたるようになった時期とも重なる。
だからコンスタンスは、時々見かける騎士くらいの認識で、オレリアンの顔を見知っていたのだろう。
片や王太子の婚約者の公爵令嬢として。
そして片や王族に仕える近衛騎士の1人として。
あの頃の王太子と婚約者は、オレリアンから見ても仲睦まじく、お互いを想いあっているように見えた。
王太子に寄り添って微笑む彼女を何度目にしたことか。
「…コニーの中に、もう私はいないんですね?」
オレリアンが自嘲気味にそう言うと、エリアスは気まずそうに目を伏せた。
「コニーには、父から説明するそうだ。
だが、今日はまだ…」
「ええ、わかっています。
今日はもう自邸の方に帰ります。
私を見たら、コニーは混乱するでしょうから」
「すまない、オレリアン」
エリアスは本当に申し訳なさそうにオレリアンに頭を下げた。
正直、ルーデル公爵家でもこの先どうしたらいいのか途方に暮れている状態だった。
コンスタンスにいつ、どのタイミングで事実を伝えればいいのかと。
前回の記憶喪失…、つまり7歳の少女の時はまだ良かった。
王太子と婚約したばかりでまだそれほどの思い入れもなかったため、わりとすぐ事実を受け入れたから。
だが15歳のコンスタンスでは、事実をどう受け止められるかわからない。
その頃と言えば、お妃教育も終了に差しかかり、本格的に王太子と共に公式の場に顔を出し始めた頃だ。
幼馴染だった2人が長い時間をかけて愛情を育んでいたのを、側で見ていた家族は知っている。
事実を知っての彼女の嘆きを思ったら、口が重くなるのは当然だ。
父は『時期を見て伝える』と言った。
だが、15歳のコンスタンスにいつまでも隠しおおせるわけもない。
「リアはどう思う?」
エリアスはいつも妹の側にいる侍女リアにたずねた。
リアは「恐れながら…」と言いながら重い口を開いた。
「お嬢様は、17歳の時に一度婚約解消を言い渡されています。
あの時は冷静に自国のこと、王家のこと、そしてフィリップ殿下のお立場を思い、何一つ反論することなく受け入れていらっしゃいました。
でも今のお嬢様は15歳とのこと。
その頃のお嬢様はフィリップ殿下の婚約者としてデビューされた頃です。
側から見ておりましても、殿下とお嬢様の仲は良好で、相思相愛のご様子でした。
今のお嬢様に婚約解消と、すでに人妻であることを告げて、どれほど取り乱されるのか想像もつきません」
リアは淡々と言い切ったが、オレリアンの顔を見れなかった。
オレリアンは青ざめ、唇を噛んで立ち尽くしている。
「オレリアン、本当にすまない」
エリアスはもう一度、オレリアンに向かって頭を下げた。
今の状態では、しばらく妹に会わせることは出来ないだろう。
だがオレリアンはそれを遮り、自分の方が深々と頭を下げた。
「いえ、自業自得です。
全て私のせいですから。
私のせいなのに、あんなにコニーを苦しめてしまって…、本当に、私の方こそ申し訳ありません」
「違う、オレリアン…、頭を上げてくれ」
「しかし、元々事故にさえ遭わなければ…。
いや、やはり最初から、私が…」
エリアスはオレリアンの肩に手を置いた。
これは、誰が悪いわけでもない。
あの事故は不幸な偶然だった。
あの日オレリアンは、夫婦関係を改善したくてコンスタンスを王都に連れ戻したと、今のエリアスは理解している。
事故の原因になった女はオレリアンの強い抗議で、夫の手で軟禁状態になっている。
コンスタンスを自領に置き去りにし、放置していたオレリアンを恨んでいた時もあったが、それもこの不器用な男が良かれと思ってしていたことだということも理解している。
婚約解消で傷ついたコンスタンスを王都から離し、また、未だに王太子を想っている妻を慮ってのことだったということも。
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