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回想、オレリアン
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しおりを挟む「シャーロット!」
ジャックは転びそうになりながら、シャーロットの馬車に捕まった。
シャーロットは窓から顔を出して命令した。
「離れて!」
「ダメだ! いや、いやだ!」
「けがをするわ。手を放して」
「乗せてくれ! 頼む」
御者がチラリとシャーロットの顔を見た。
「止めますよ。どこかの令息におけがをさせるわけにはいきません」
車を歩道に寄せて、御者は冷たく言った。
「離れてくださいますか? 危険ですから。でないと車を出せませんので」
御者の言葉の冷たさに、ジャックは思わず車から手を放した。
もう関係がないのか。
そうだ。彼女は、もうあの公爵から解放された。
すぐに社交界に復帰するだろう。
若くて美人の彼女はキラキラと光を放つようだ。
裕福な跡取り娘の社交界復帰は誰にとっても歓迎だ。ピアでの出来事は、モンゴメリ卿やハミルトン嬢、ボードヒル子爵たちが、細心の注意を払って人目につかないように苦労していた。知る者はほとんどいないし、実際、何もなかった。
なんにもなかった。
「シャーロット嬢……」
『はっきり伝えないと……』
「僕はあなたが好きだ……」
窓からのぞいた愛らしい顔に向かって、ジャックは言った。
「車を出しますよ」
御者が注意した。どこの馬の骨だ。この若造は。うちのお嬢様に路上で何言ってんだ。
馬車はゆっくり離れて行く。
通行人がジャックの顔を見て、笑っていた。
走り出した馬車に突進していくなんて、気がおかしいとでも思われたのだろう。
シャーロットは自邸に帰ったとたん、フレデリックに迎え入れられた。
彼は真紅のバラの花束をシャーロットに押し付けた。
「よかった。本当に良かった」
両親も安堵していた。
客間に入るとフレデリックは真剣な表情を浮かべて尋ねた。
「もしかしてジャックと何かあったとか?」
「どうして?」
「だって、ピアでは偽装結婚していたろう? ジャックを信じてはいたが、本当は心配で気が狂いそうだったよ」
「そんな心配は要らないわ。ジャック様には本命がいるみたいですもの」
「え? 誰?」
フレデリックはびっくりしたようで聞いてきた。
「モンゴメリ卿のところにお礼に伺っていたの。でも、ジャックとシルビア・ハミルトン嬢が親密そうに話しているところへ行ってしまって」
フレデリックは相当驚いたようだった。
「ああ、君を助けようとジャックは、モンゴメリ卿やボードヒル子爵やハミルトン嬢としょっちゅう一緒にいたから」
シャーロットの心はズキンと痛んだ。
「どうしてあなたは一緒じゃなかったの?」
「え? だって、あの人たちが呼んでくれなかったから。それに、父があまり表立って出ない方がいいと言ったので。もちろん、今はロストフ公爵がいないから、何も言わないけど」
シャーロットはフレデリックの整った顔を眺めた。フレデリックは愉快そうに見えた。
「ジャックが君のことを好きそうにしてたからね。心配だったんだ。もしかしてって思うとね。しかし、まさかハミルトン嬢狙いだったとはね。彼女はとても美人で淑やかだが、ジャックよりだいぶ年上だと思うよ」
シャーロットはびっくりした。
「女性のお年を聞くのはどうかと思うけれど、おいくつくらいなのかしら?」
「さあ? 僕も正確なところは知らないけど、三十代半ばじゃないかな? 僕たちとは違うよ」
それではむしろモンゴメリ卿とお似合いではないか。
「今度こそ、本当に承諾して欲しい」
シャーロットは返事を保留した。
「やっと本格的に社交界デビューできる気がするわ。これまではロストフ公爵に邪魔されて、ずいぶん制限されてきたけれど、いろんなパーティにも出たいわ」
ふとフレデリックの顔を見ると、彼は怒っていた。
「シャーロット嬢、僕は名前まで貸したんだ。君の婚約者と言うことで。それなのに、その返事なのか? もっと遊びたいと」
シャーロットはその剣幕にびっくりした。
「だって、婚約は元々決まっていたわけではないわ」
「だが、ほぼ決まっていたようなものではないか。違うか? 君は僕を婚約者としてロストフ公爵に紹介したろう。あの場の全員に」
「でも、仕方がなかったのよ。そうしないとロストフ公爵に連れ去られてしまう。あの場にいた人たちは、みんなそのことをわかってくれていたわ」
「もちろんそうだろうが、だから僕との婚約がなくなったわけではない」
「婚約した覚えはないわ」
フレデリックは表情が変わった。
「はっきり婚約したわけじゃない。僕は公表したかったのに、父が難色を示したのだ。あのロストフ公爵の騒ぎの中では、うちの家に不利に働くかもしれないからってね。でも、今はそんな心配は要らない。だから、結婚になんの問題もなくなった。いつ結婚してくれますか? シャーロット?」
シャーロットは立ち上がった。
「あなたと婚約した覚えはないわ」
「なんだと?」
ジャックは転びそうになりながら、シャーロットの馬車に捕まった。
シャーロットは窓から顔を出して命令した。
「離れて!」
「ダメだ! いや、いやだ!」
「けがをするわ。手を放して」
「乗せてくれ! 頼む」
御者がチラリとシャーロットの顔を見た。
「止めますよ。どこかの令息におけがをさせるわけにはいきません」
車を歩道に寄せて、御者は冷たく言った。
「離れてくださいますか? 危険ですから。でないと車を出せませんので」
御者の言葉の冷たさに、ジャックは思わず車から手を放した。
もう関係がないのか。
そうだ。彼女は、もうあの公爵から解放された。
すぐに社交界に復帰するだろう。
若くて美人の彼女はキラキラと光を放つようだ。
裕福な跡取り娘の社交界復帰は誰にとっても歓迎だ。ピアでの出来事は、モンゴメリ卿やハミルトン嬢、ボードヒル子爵たちが、細心の注意を払って人目につかないように苦労していた。知る者はほとんどいないし、実際、何もなかった。
なんにもなかった。
「シャーロット嬢……」
『はっきり伝えないと……』
「僕はあなたが好きだ……」
窓からのぞいた愛らしい顔に向かって、ジャックは言った。
「車を出しますよ」
御者が注意した。どこの馬の骨だ。この若造は。うちのお嬢様に路上で何言ってんだ。
馬車はゆっくり離れて行く。
通行人がジャックの顔を見て、笑っていた。
走り出した馬車に突進していくなんて、気がおかしいとでも思われたのだろう。
シャーロットは自邸に帰ったとたん、フレデリックに迎え入れられた。
彼は真紅のバラの花束をシャーロットに押し付けた。
「よかった。本当に良かった」
両親も安堵していた。
客間に入るとフレデリックは真剣な表情を浮かべて尋ねた。
「もしかしてジャックと何かあったとか?」
「どうして?」
「だって、ピアでは偽装結婚していたろう? ジャックを信じてはいたが、本当は心配で気が狂いそうだったよ」
「そんな心配は要らないわ。ジャック様には本命がいるみたいですもの」
「え? 誰?」
フレデリックはびっくりしたようで聞いてきた。
「モンゴメリ卿のところにお礼に伺っていたの。でも、ジャックとシルビア・ハミルトン嬢が親密そうに話しているところへ行ってしまって」
フレデリックは相当驚いたようだった。
「ああ、君を助けようとジャックは、モンゴメリ卿やボードヒル子爵やハミルトン嬢としょっちゅう一緒にいたから」
シャーロットの心はズキンと痛んだ。
「どうしてあなたは一緒じゃなかったの?」
「え? だって、あの人たちが呼んでくれなかったから。それに、父があまり表立って出ない方がいいと言ったので。もちろん、今はロストフ公爵がいないから、何も言わないけど」
シャーロットはフレデリックの整った顔を眺めた。フレデリックは愉快そうに見えた。
「ジャックが君のことを好きそうにしてたからね。心配だったんだ。もしかしてって思うとね。しかし、まさかハミルトン嬢狙いだったとはね。彼女はとても美人で淑やかだが、ジャックよりだいぶ年上だと思うよ」
シャーロットはびっくりした。
「女性のお年を聞くのはどうかと思うけれど、おいくつくらいなのかしら?」
「さあ? 僕も正確なところは知らないけど、三十代半ばじゃないかな? 僕たちとは違うよ」
それではむしろモンゴメリ卿とお似合いではないか。
「今度こそ、本当に承諾して欲しい」
シャーロットは返事を保留した。
「やっと本格的に社交界デビューできる気がするわ。これまではロストフ公爵に邪魔されて、ずいぶん制限されてきたけれど、いろんなパーティにも出たいわ」
ふとフレデリックの顔を見ると、彼は怒っていた。
「シャーロット嬢、僕は名前まで貸したんだ。君の婚約者と言うことで。それなのに、その返事なのか? もっと遊びたいと」
シャーロットはその剣幕にびっくりした。
「だって、婚約は元々決まっていたわけではないわ」
「だが、ほぼ決まっていたようなものではないか。違うか? 君は僕を婚約者としてロストフ公爵に紹介したろう。あの場の全員に」
「でも、仕方がなかったのよ。そうしないとロストフ公爵に連れ去られてしまう。あの場にいた人たちは、みんなそのことをわかってくれていたわ」
「もちろんそうだろうが、だから僕との婚約がなくなったわけではない」
「婚約した覚えはないわ」
フレデリックは表情が変わった。
「はっきり婚約したわけじゃない。僕は公表したかったのに、父が難色を示したのだ。あのロストフ公爵の騒ぎの中では、うちの家に不利に働くかもしれないからってね。でも、今はそんな心配は要らない。だから、結婚になんの問題もなくなった。いつ結婚してくれますか? シャーロット?」
シャーロットは立ち上がった。
「あなたと婚約した覚えはないわ」
「なんだと?」
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