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回想、オレリアン
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結婚式を終えた俺たちは、その日のうちに王都を発ち、ヒース侯爵領に向かった。
新妻をしばらく領地の邸宅で過ごさせるためだ。
それは、婚約中に俺から提案し、公爵家でも受け入れていたことである。
義母を王都の邸から移そうとしたが、なんだかんだと駄々を捏ねてなかなか出て行かないのも原因の一つだ。
だがそれより大きな理由は、コンスタンス自身王都を離れた方がゆっくり出来るだろうとの判断だった。
王太子との婚約解消からあまり時を置かずに他の男と婚約・結婚した公爵令嬢は、社交界の格好の噂の的になっている。
悲劇の主人公として同情的な声もあれば、節操がないと蔑む声もある。
どちらにしてもコンスタンスにとって社交界は針の筵のようで、当然足は遠のいていた。
できれば王家や社交界から距離を置いて、静かな暮らしをさせてやりたいー。
それは、ルーデル公爵家と俺の、共通の思いだった。
侯爵領に向かう馬車で、俺たちは向かい合って座った。
彼女は相変わらず背筋をしゃんと伸ばして行儀良く座ってはいるが、その顔にはだいぶ疲れが滲んでいる。
結婚式を挙げたその日のうちにこうして王都を発つのだから、当然と言えば当然だ。
「疲れたでしょう?
ヒース領までまだかなりかかります。
少し眠られてはいかがですか?」
そう声をかけてはみたが、コンスタンスは小さく首を横に振り、「大丈夫です」と答えた。
まぁ、婚約中に何度か顔を合わせているとは言え名ばかりの夫に、寝顔を見せるほど気を許しているわけもない。
彼女からしたら、こんな騎士風情と狭い馬車の中に2人きりでいること自体恐ろしいのかもしれないから。
ヒース領の邸宅に到着したのは、かなり夜も更けてからのことだ。
しかし、執事のマテオをはじめ、使用人たちは皆あたたかく迎えてくれた。
コンスタンスは新婦のために設えられた部屋に案内され、俺も自室へ行って風呂に入った。
時間を見計らって、新婦の部屋を訪ねる。
いくら気が染まぬ結婚だと言っても、さすがに新婚初夜に花嫁を一人きりで放っておくような男にはなりたくない。
彼女はこれから侯爵家の女主人になるのだから、使用人の手前、恥をかかせるわけにもいかなかった。
初夜に放っておかれた花嫁を、誰が女主人として認めるだろうか。
部屋を訪ねると、コンスタンスはベッドの上に座って待っていた。
侍女たちの手によるものであろう、薄く化粧を施され、薄手の、真っ白な寝間着を着せられている。
正直、息を飲むほど美しいと思った。
いつも高く結い上げらている銀色の髪は腰に向かって流れるようにおろされている。
病的なほど青白い肌は、風呂上がりのせいか僅かに薄桃色に上気している。
透けて見えるのではないかと思えるほどの薄衣を纏い、微かに潤んだ翠の瞳で見上げてくるコンスタンスは、たしかに、言葉を失うほどに美しかった。
だが、気丈に俺を見上げてはいるものの、唇を噛み、体を強張らせ、その指先が僅かに震えているのを、見逃しはしなかった。
まるで、戦に臨む騎士のようだなー。
なんだか可笑しくなって、俺は僅かに口角を上げた。
「今日は疲れたでしょう?
私はそちらのソファで眠りますから、どうぞゆっくりお休みください」
それだけ言うと、俺は彼女に背を向けた。
「え?あの…!」
彼女の戸惑ったような声が聞こえる。
「さすがにすぐに出て行くわけにはいきませんから。
どうか、朝まで隣室にいることはお許しください」
この言葉を言った時、彼女はどんな顔をしていたのだろう。
俺はそれを確かめることもなく、足早に寝室を出た。
寝室の隣は居間になっていて、ソファセットが置いてある。
俺はソファにどかっと腰をおろすと、そのまますぐに横になった。
朝まで彼女の部屋にいれば、初夜は滞りなく済んだと思われるだろう。
これで、彼女も使用人たちに面目が立つだろう。
愚かにも、俺はそんな風にしか考えなかった。
俺には、心の中で全く別の男を想っている女を抱く趣味はない。
いつもすました貴婦人を組み敷きたいとか、貼り付けた微笑が乱れるところを見たいとか、あいにくそんな変態じみた趣味嗜好もない。
ただ王命に従い、望まぬ相手に嫁がされた哀れな女が穏やかに暮らせればいい…、そんなことを考えていたのだ。
新妻をしばらく領地の邸宅で過ごさせるためだ。
それは、婚約中に俺から提案し、公爵家でも受け入れていたことである。
義母を王都の邸から移そうとしたが、なんだかんだと駄々を捏ねてなかなか出て行かないのも原因の一つだ。
だがそれより大きな理由は、コンスタンス自身王都を離れた方がゆっくり出来るだろうとの判断だった。
王太子との婚約解消からあまり時を置かずに他の男と婚約・結婚した公爵令嬢は、社交界の格好の噂の的になっている。
悲劇の主人公として同情的な声もあれば、節操がないと蔑む声もある。
どちらにしてもコンスタンスにとって社交界は針の筵のようで、当然足は遠のいていた。
できれば王家や社交界から距離を置いて、静かな暮らしをさせてやりたいー。
それは、ルーデル公爵家と俺の、共通の思いだった。
侯爵領に向かう馬車で、俺たちは向かい合って座った。
彼女は相変わらず背筋をしゃんと伸ばして行儀良く座ってはいるが、その顔にはだいぶ疲れが滲んでいる。
結婚式を挙げたその日のうちにこうして王都を発つのだから、当然と言えば当然だ。
「疲れたでしょう?
ヒース領までまだかなりかかります。
少し眠られてはいかがですか?」
そう声をかけてはみたが、コンスタンスは小さく首を横に振り、「大丈夫です」と答えた。
まぁ、婚約中に何度か顔を合わせているとは言え名ばかりの夫に、寝顔を見せるほど気を許しているわけもない。
彼女からしたら、こんな騎士風情と狭い馬車の中に2人きりでいること自体恐ろしいのかもしれないから。
ヒース領の邸宅に到着したのは、かなり夜も更けてからのことだ。
しかし、執事のマテオをはじめ、使用人たちは皆あたたかく迎えてくれた。
コンスタンスは新婦のために設えられた部屋に案内され、俺も自室へ行って風呂に入った。
時間を見計らって、新婦の部屋を訪ねる。
いくら気が染まぬ結婚だと言っても、さすがに新婚初夜に花嫁を一人きりで放っておくような男にはなりたくない。
彼女はこれから侯爵家の女主人になるのだから、使用人の手前、恥をかかせるわけにもいかなかった。
初夜に放っておかれた花嫁を、誰が女主人として認めるだろうか。
部屋を訪ねると、コンスタンスはベッドの上に座って待っていた。
侍女たちの手によるものであろう、薄く化粧を施され、薄手の、真っ白な寝間着を着せられている。
正直、息を飲むほど美しいと思った。
いつも高く結い上げらている銀色の髪は腰に向かって流れるようにおろされている。
病的なほど青白い肌は、風呂上がりのせいか僅かに薄桃色に上気している。
透けて見えるのではないかと思えるほどの薄衣を纏い、微かに潤んだ翠の瞳で見上げてくるコンスタンスは、たしかに、言葉を失うほどに美しかった。
だが、気丈に俺を見上げてはいるものの、唇を噛み、体を強張らせ、その指先が僅かに震えているのを、見逃しはしなかった。
まるで、戦に臨む騎士のようだなー。
なんだか可笑しくなって、俺は僅かに口角を上げた。
「今日は疲れたでしょう?
私はそちらのソファで眠りますから、どうぞゆっくりお休みください」
それだけ言うと、俺は彼女に背を向けた。
「え?あの…!」
彼女の戸惑ったような声が聞こえる。
「さすがにすぐに出て行くわけにはいきませんから。
どうか、朝まで隣室にいることはお許しください」
この言葉を言った時、彼女はどんな顔をしていたのだろう。
俺はそれを確かめることもなく、足早に寝室を出た。
寝室の隣は居間になっていて、ソファセットが置いてある。
俺はソファにどかっと腰をおろすと、そのまますぐに横になった。
朝まで彼女の部屋にいれば、初夜は滞りなく済んだと思われるだろう。
これで、彼女も使用人たちに面目が立つだろう。
愚かにも、俺はそんな風にしか考えなかった。
俺には、心の中で全く別の男を想っている女を抱く趣味はない。
いつもすました貴婦人を組み敷きたいとか、貼り付けた微笑が乱れるところを見たいとか、あいにくそんな変態じみた趣味嗜好もない。
ただ王命に従い、望まぬ相手に嫁がされた哀れな女が穏やかに暮らせればいい…、そんなことを考えていたのだ。
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