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第八章 拉致、そして帰還
帰還(セドリックside)
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◇◇◇
国境の砦でアメリア拉致の報せを受け取ったセドリックは、直ちに全軍をもってノートン軍の本陣を攻めていた。
敵が疲弊して降参してくるのを待っていたのだが、そうも言っていられなくなったのだ。
「無事で、無事でいてくれ、アメリア…」
セドリックはアメリアにもらった守り袋を握りしめ、そう呟いた。
とにかく一刻も早くこんな無駄な戦は終わらせて、アメリア救出に向かわねばならない。
この手に、我が妻を取り戻さなければ。
自ら先頭に立って気を吐く主に呼応して、配下も我先にと敵陣を攻める。
そうして猛り狂うサラトガ騎士団の猛攻に屈したノートン軍は、将数名を差し出して白旗をあげたのだった。
ひとまず戦にかたがつくと、後始末は騎士団長オスカーに任せ、セドリックは即座に領都にとって返した。
一刻も早く、妻アメリアを取り戻すためだ。
◇◇◇
セドリックがサラトガ公爵邸に帰着したのは、アメリアが拉致されてから2日目の夜のことである。
いざ邸に帰着してみれば、なんとたった今クラーク国王が到着したところだと聞かされ、セドリックは大いに驚いた。
今ここに国王がいるということは、おそらく5日前には王都を発っているはず。
しかし、その理由がわからないのだ。
国王が王都を発つ頃には、まだアメリアは拉致されていない。
例えばアメリアに会いに来たのだとしても、主が出征して不在の邸を、国王がわざわざ訪ねたりするだろうか。
国王は、今初めてアメリアの拉致を知ったことだろう。
愛する妹を拉致され、どれほど怒り狂っていることだろうか。
しかし今のセドリックには国王の怒りを鎮めることも、相手をする時間さえ惜しまれた。
とにかく一刻も早く妻の捜索に行きたいのだ。
セドリックが邸に足を踏み入れる暇もなく、国王はエントランスに走り出て来たところだった。
アメリアの拉致を知り、すぐに出立するところだったのだろう。
「サラトガ公爵、この度の戦勝、ご苦労だった」
急いでいた国王ではあるが、彼は足を止め、目の前に跪いたセドリックに労りの声をかけた。
今回もサラトガ騎士団がソルベンティアの侵攻を食い止め、国境を守ったのは本当なのだから。
しかしセドリックはそれには応えず、国王に向かって深く頭を垂れた。
「申し訳ありません陛下、アメリアが、」
「ああ、わかっている。こちらに向かう途中、アメリアの影から報せがあったからな」
「アメリアの…、影ですって?」
驚いたセドリックが顔を上げると、国王は目を眇めて彼を見下ろした。
「アメリアは王族なのだ。影をつけないわけがないだろう?」
ーーたしかに。
今ならわかる。
彼女は下げ渡された『国王の情婦』ではなく『国王の実の妹』なのだ。
本来守るべき夫の自分が知らないうちに、妻は王家に守られていたーー。
その事実は、セドリックの矜持を少なからず傷つけた。
英雄だなんだともてはやされながら、王家の影にも気付かなかった自分に反吐が出る。
自分自身は妻に数名の護衛しか付けず、しかもそれさえ油断を突かれ、まんまと連れ去られたのだから。
唇を噛むセドリックを冷めた目で見下ろし、クラークはこう言った。
「影は1人ではない。1人は賊に紛れてアジトに潜り込んでいたが、アメリアを助け出すまでには至らなかったようだ」
「…アジトに⁈そこはどこですか⁈」
屈辱ではあるが、今は王家の影とやらに縋るしか無い。
アメリア拉致の報を聞いてこちらに急行したセドリックにとっては、それ以上の情報が何も無いのだから。
「影からの繋ぎによると、どうやらアメリアは北の山中に囚われているようだ」
「北の山中…、ですか?」
「ああ。私は今からアメリアの救出に向かうつもりだ」
「お、お待ちください!どうかその役目は私に!我がサラトガ騎士団にお任せください!」
「ならぬ。確かにそなたたちは強い。しかし、アメリアにはもう関与するな」
クラークは話している時間も惜しいとばかりに邸を出て行こうとしている。
しかしセドリックはその前に回り込んで頭を下げた。
「お願い申し上げます、陛下!どうか、どうか私に我が妻の救出を!」
「我が妻だと…?影からの報告によって、アメリアがここでどのような扱いを受けていたかは知っているんだ。その上でなお、その方はアメリアを妻と申すのか?」
国王にじろりと睨まれ、セドリックは一瞬だけ怯んだ。
しかしここで引くわけにはいかない。
「アメリアを無事に救出した後は、どのような罰でもお受けします!どうか、どうか救出の役目は私に!」
「そうか。では救出後アメリアを王都に連れ帰っても、文句はないな?」
「…王都に…?」
「ああ、私はアメリアを迎えに来たんだ。そなたにアメリアを預けた、私が愚かだった。そのせいであの子にはいらぬ苦労をさせてしまった」
セドリックは国王を見上げた。
その目は真剣で、怒りを含んでいる。
「…わかりました。文句は申しません」
とにかく今は、アメリア救出が先だ。
ここで問答をしている時間はない。
しかしそうしているところへ、アメリアの護衛の1人エイベルが飛び込んで来た。
国王と公爵が会談している最中に入ってくるなど不敬以外の何者でもないが、エイベルは焦った様子でこう告げた。
「閣下!敵のアジトが判明しました!」
騎士団も必死にアメリアの行方を追っていたのだ。
「陛下…!」
懇願するようなセドリックの瞳に、クラークは頷いた。
「…わかった。ここは、土地勘のあるサラトガ騎士団に任せる方が良いのだろう。私は後方に回ることにする」
「はっ!」
国王のその言葉を聞いて、セドリックは直ちに立ち上がった。
そしてたった今帰還したばかりの騎士団を励まし、即刻公爵邸を発ったのだった。
「頼んだぞ、セドリック…。必ずアメリアを連れ帰ってくれ」
クラークはセドリックの後ろ姿を見送ってそう呟いた。
クラークとしても、セドリックばかりを責められない負い目があった。
アメリアがこんな目に遭っている深淵には、『国王の情婦』という根も葉もない噂がある。
そしてアメリアの悪評は全て、クラークが母の晩節を汚すことを恐れ、真実を隠したことが原因なのだ。
そのことを忘れてはいけない。
クラークは自らも馬に跨ると近衛騎士に命じ、サラトガ騎士団の後を追った。
◇◇◇
賊のアジトは、領都の郊外をかなり北へ向かった先の、山の中だということだった。
鬱蒼と木が生い茂った森は昼間でも暗く、獣を追う漁師くらいしか訪れないような山だ。
そこには、かなり昔に廃坑になった鉱山があり、坑夫たちの暮らした集落もあった。
賊たちは、そんな見捨てられた集落の中の一軒に身を潜めているという。
セドリックは隊を3つに分け、三方から山に入ることにした。
もちろん麓にも兵を配置している。
そして集落に近づくにつれ、足音を忍ばせ、静かに近づくよう指令を出した。
賊に勘づかれては、アメリアの身が危なくなる。
賊は何かしらアメリアを利用するつもりで拉致したのだろうが、いざ自分たちの身が危うくなれば彼女を切り捨てることも考えられる。
「…何か、騒がしいですね」
部下の1人にそう言われ、セドリックは耳を澄ませた。
暗闇の中、男たちの怒鳴るような声が聞こえてくる。
「アメリアが危ない!」
セドリックはそう叫ぶと自ら先頭に立ち、アジトと思しき小屋へ向かって真っしぐらに駆けた。
もう、静かに近づくとか、敵の隙を突くなどということは頭から消えている。
今この瞬間、アメリアが危険に晒されているのかもしれないのだから。
「閣下!」
部下たちが必死で追ってくる。
しかし誰もセドリックの速さには追いつけない。
視界の先に、月明かりに照らされる大きな岩を見つけた。
そしてその周辺には、賊と見られる数人の男たちがいる。
賊はセドリックたちの来襲に気づき、皆散り散りに逃げ出した。
残ったのは、短剣を掲げて戦闘意欲剥き出しの男のみ。
そしてセドリックは、その男に見覚えがあった。
「おまえは…、もしや、影か?」
セドリックに問われ、すぐさま賊を追おうとしていた男は振り返った。
「…公爵閣下…⁈今、アメリア殿下が…!」
「わかった!」
シオンが指し示した方向に馬を向けると、セドリックは間髪入れずに駆け出した。
(頼むアメリア!間に合ってくれ…!!)
国境の砦でアメリア拉致の報せを受け取ったセドリックは、直ちに全軍をもってノートン軍の本陣を攻めていた。
敵が疲弊して降参してくるのを待っていたのだが、そうも言っていられなくなったのだ。
「無事で、無事でいてくれ、アメリア…」
セドリックはアメリアにもらった守り袋を握りしめ、そう呟いた。
とにかく一刻も早くこんな無駄な戦は終わらせて、アメリア救出に向かわねばならない。
この手に、我が妻を取り戻さなければ。
自ら先頭に立って気を吐く主に呼応して、配下も我先にと敵陣を攻める。
そうして猛り狂うサラトガ騎士団の猛攻に屈したノートン軍は、将数名を差し出して白旗をあげたのだった。
ひとまず戦にかたがつくと、後始末は騎士団長オスカーに任せ、セドリックは即座に領都にとって返した。
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今ここに国王がいるということは、おそらく5日前には王都を発っているはず。
しかし、その理由がわからないのだ。
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例えばアメリアに会いに来たのだとしても、主が出征して不在の邸を、国王がわざわざ訪ねたりするだろうか。
国王は、今初めてアメリアの拉致を知ったことだろう。
愛する妹を拉致され、どれほど怒り狂っていることだろうか。
しかし今のセドリックには国王の怒りを鎮めることも、相手をする時間さえ惜しまれた。
とにかく一刻も早く妻の捜索に行きたいのだ。
セドリックが邸に足を踏み入れる暇もなく、国王はエントランスに走り出て来たところだった。
アメリアの拉致を知り、すぐに出立するところだったのだろう。
「サラトガ公爵、この度の戦勝、ご苦労だった」
急いでいた国王ではあるが、彼は足を止め、目の前に跪いたセドリックに労りの声をかけた。
今回もサラトガ騎士団がソルベンティアの侵攻を食い止め、国境を守ったのは本当なのだから。
しかしセドリックはそれには応えず、国王に向かって深く頭を垂れた。
「申し訳ありません陛下、アメリアが、」
「ああ、わかっている。こちらに向かう途中、アメリアの影から報せがあったからな」
「アメリアの…、影ですって?」
驚いたセドリックが顔を上げると、国王は目を眇めて彼を見下ろした。
「アメリアは王族なのだ。影をつけないわけがないだろう?」
ーーたしかに。
今ならわかる。
彼女は下げ渡された『国王の情婦』ではなく『国王の実の妹』なのだ。
本来守るべき夫の自分が知らないうちに、妻は王家に守られていたーー。
その事実は、セドリックの矜持を少なからず傷つけた。
英雄だなんだともてはやされながら、王家の影にも気付かなかった自分に反吐が出る。
自分自身は妻に数名の護衛しか付けず、しかもそれさえ油断を突かれ、まんまと連れ去られたのだから。
唇を噛むセドリックを冷めた目で見下ろし、クラークはこう言った。
「影は1人ではない。1人は賊に紛れてアジトに潜り込んでいたが、アメリアを助け出すまでには至らなかったようだ」
「…アジトに⁈そこはどこですか⁈」
屈辱ではあるが、今は王家の影とやらに縋るしか無い。
アメリア拉致の報を聞いてこちらに急行したセドリックにとっては、それ以上の情報が何も無いのだから。
「影からの繋ぎによると、どうやらアメリアは北の山中に囚われているようだ」
「北の山中…、ですか?」
「ああ。私は今からアメリアの救出に向かうつもりだ」
「お、お待ちください!どうかその役目は私に!我がサラトガ騎士団にお任せください!」
「ならぬ。確かにそなたたちは強い。しかし、アメリアにはもう関与するな」
クラークは話している時間も惜しいとばかりに邸を出て行こうとしている。
しかしセドリックはその前に回り込んで頭を下げた。
「お願い申し上げます、陛下!どうか、どうか私に我が妻の救出を!」
「我が妻だと…?影からの報告によって、アメリアがここでどのような扱いを受けていたかは知っているんだ。その上でなお、その方はアメリアを妻と申すのか?」
国王にじろりと睨まれ、セドリックは一瞬だけ怯んだ。
しかしここで引くわけにはいかない。
「アメリアを無事に救出した後は、どのような罰でもお受けします!どうか、どうか救出の役目は私に!」
「そうか。では救出後アメリアを王都に連れ帰っても、文句はないな?」
「…王都に…?」
「ああ、私はアメリアを迎えに来たんだ。そなたにアメリアを預けた、私が愚かだった。そのせいであの子にはいらぬ苦労をさせてしまった」
セドリックは国王を見上げた。
その目は真剣で、怒りを含んでいる。
「…わかりました。文句は申しません」
とにかく今は、アメリア救出が先だ。
ここで問答をしている時間はない。
しかしそうしているところへ、アメリアの護衛の1人エイベルが飛び込んで来た。
国王と公爵が会談している最中に入ってくるなど不敬以外の何者でもないが、エイベルは焦った様子でこう告げた。
「閣下!敵のアジトが判明しました!」
騎士団も必死にアメリアの行方を追っていたのだ。
「陛下…!」
懇願するようなセドリックの瞳に、クラークは頷いた。
「…わかった。ここは、土地勘のあるサラトガ騎士団に任せる方が良いのだろう。私は後方に回ることにする」
「はっ!」
国王のその言葉を聞いて、セドリックは直ちに立ち上がった。
そしてたった今帰還したばかりの騎士団を励まし、即刻公爵邸を発ったのだった。
「頼んだぞ、セドリック…。必ずアメリアを連れ帰ってくれ」
クラークはセドリックの後ろ姿を見送ってそう呟いた。
クラークとしても、セドリックばかりを責められない負い目があった。
アメリアがこんな目に遭っている深淵には、『国王の情婦』という根も葉もない噂がある。
そしてアメリアの悪評は全て、クラークが母の晩節を汚すことを恐れ、真実を隠したことが原因なのだ。
そのことを忘れてはいけない。
クラークは自らも馬に跨ると近衛騎士に命じ、サラトガ騎士団の後を追った。
◇◇◇
賊のアジトは、領都の郊外をかなり北へ向かった先の、山の中だということだった。
鬱蒼と木が生い茂った森は昼間でも暗く、獣を追う漁師くらいしか訪れないような山だ。
そこには、かなり昔に廃坑になった鉱山があり、坑夫たちの暮らした集落もあった。
賊たちは、そんな見捨てられた集落の中の一軒に身を潜めているという。
セドリックは隊を3つに分け、三方から山に入ることにした。
もちろん麓にも兵を配置している。
そして集落に近づくにつれ、足音を忍ばせ、静かに近づくよう指令を出した。
賊に勘づかれては、アメリアの身が危なくなる。
賊は何かしらアメリアを利用するつもりで拉致したのだろうが、いざ自分たちの身が危うくなれば彼女を切り捨てることも考えられる。
「…何か、騒がしいですね」
部下の1人にそう言われ、セドリックは耳を澄ませた。
暗闇の中、男たちの怒鳴るような声が聞こえてくる。
「アメリアが危ない!」
セドリックはそう叫ぶと自ら先頭に立ち、アジトと思しき小屋へ向かって真っしぐらに駆けた。
もう、静かに近づくとか、敵の隙を突くなどということは頭から消えている。
今この瞬間、アメリアが危険に晒されているのかもしれないのだから。
「閣下!」
部下たちが必死で追ってくる。
しかし誰もセドリックの速さには追いつけない。
視界の先に、月明かりに照らされる大きな岩を見つけた。
そしてその周辺には、賊と見られる数人の男たちがいる。
賊はセドリックたちの来襲に気づき、皆散り散りに逃げ出した。
残ったのは、短剣を掲げて戦闘意欲剥き出しの男のみ。
そしてセドリックは、その男に見覚えがあった。
「おまえは…、もしや、影か?」
セドリックに問われ、すぐさま賊を追おうとしていた男は振り返った。
「…公爵閣下…⁈今、アメリア殿下が…!」
「わかった!」
シオンが指し示した方向に馬を向けると、セドリックは間髪入れずに駆け出した。
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