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第八章 拉致、そして帰還
傷②
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「ところで、お戻りになられたということは、戦は終わったのですね?無事のご帰還、嬉しく思います」
アメリアはそう言うと、深々と頭を下げた。
本当は一番にその言葉を告げたかったのに、やれ湯浴みだ傷の手当てだと騒がれて、そんな隙がなかったのだ。
「ああ、ただいまアメリア」
そう言うとセドリックは嬉しそうに微笑んだ。
「とりあえずノートン軍は撃退した。『王国の盾』の面目は守れたと思う」
「おめでとうございます」
「しかし、俺たちが戦っている間に貴女がこんな目に遭っていたなんてな…」
セドリックはそう言うと、再び手首に付いた縄の跡を確認した。
丸2日間縛られていた跡は痛々しく、容易に元には戻らないだろうと思われる。
「本当にすまない、もっと早く助けてやれなくて…」
「そんな。閣下はお国のために戦っていらしたのに、私なんかのために、」
「ダメだアメリア。もう二度と、私なんかのためになんて言わないでくれ。『王国の盾』だなどと言われても、妻一人守れなくて何が盾だ。貴女は俺が一番に守るべき人だったのに」
「…閣下…」
一番に守るべき人と言われ、アメリアはきょとんと首を傾げた。
いくら責任感の強いセドリックではあっても、それは少し大袈裟に言い過ぎているように思う。
「もっと自覚してくれ。貴女はランドル王国の王女であり、サラトガ公爵夫人…、俺の、大切な妻だ」
セドリックはそう言うとアメリアの手首付近に額を寄せた。
「怖かったな…。こんな、痕がつくくらい縛られて、閉じ込められて…。目隠しもされていたんだろう?」
「あ…」
たしかに、本当はものすごく怖かった。
眠らなきゃ、体を動かしておかなくちゃと必死になっていたけれど、昼も夜もわからない暗闇の中は本当に怖かった。
絶対助かる、助けに来てくれると信じていても、不安な気持ちはどうしたって消えてくれなかった。
それに…。
セドリックに告げるつもりはないが、アメリアは賊の男たちに襲われかけたのだ。
幸い『傷一つつけずに引き渡す』という約定があるため助かったようだが、あのまま穢されていたら、自分はきっと死を選んでいたことだろう。
「……怖かった…、です……」
ポロリと、アメリアの瞳から涙が一筋こぼれた。
「ああ、怖かったな」
セドリックの大きな手が、アメリアの頭を優しく撫でる。
「何も、見えなくて。手も縛られて、動かせなくて」
「ああ。貴女はよく頑張った」
「絶対助けに来てくれるって、信じてたけど、でも、やっぱり怖くて、」
「ああ、ごめん、ごめんな。もう二度と、こんな怖い目にあわせないと誓うから」
「ゔーー」
両目からポロポロと涙が溢れ出し、とうとうアメリアの顔はぐしゃぐしゃになった。
セドリックはアメリアの頭をそっと抱き寄せると、優しくその体を抱きしめた。
セドリックの胸元はアメリアの涙でびしょ濡れになってしまったが、彼は彼女が泣き止むまで背中を撫で続けた。
◇◇◇
泣き疲れたアメリアが眠ってしまうと、セドリックはそっと部屋を出た。
そして、公爵邸の一角に設けられた貴賓室に向かう。
貴賓室には、国王クラークが待っているのだ。
アメリアはそう言うと、深々と頭を下げた。
本当は一番にその言葉を告げたかったのに、やれ湯浴みだ傷の手当てだと騒がれて、そんな隙がなかったのだ。
「ああ、ただいまアメリア」
そう言うとセドリックは嬉しそうに微笑んだ。
「とりあえずノートン軍は撃退した。『王国の盾』の面目は守れたと思う」
「おめでとうございます」
「しかし、俺たちが戦っている間に貴女がこんな目に遭っていたなんてな…」
セドリックはそう言うと、再び手首に付いた縄の跡を確認した。
丸2日間縛られていた跡は痛々しく、容易に元には戻らないだろうと思われる。
「本当にすまない、もっと早く助けてやれなくて…」
「そんな。閣下はお国のために戦っていらしたのに、私なんかのために、」
「ダメだアメリア。もう二度と、私なんかのためになんて言わないでくれ。『王国の盾』だなどと言われても、妻一人守れなくて何が盾だ。貴女は俺が一番に守るべき人だったのに」
「…閣下…」
一番に守るべき人と言われ、アメリアはきょとんと首を傾げた。
いくら責任感の強いセドリックではあっても、それは少し大袈裟に言い過ぎているように思う。
「もっと自覚してくれ。貴女はランドル王国の王女であり、サラトガ公爵夫人…、俺の、大切な妻だ」
セドリックはそう言うとアメリアの手首付近に額を寄せた。
「怖かったな…。こんな、痕がつくくらい縛られて、閉じ込められて…。目隠しもされていたんだろう?」
「あ…」
たしかに、本当はものすごく怖かった。
眠らなきゃ、体を動かしておかなくちゃと必死になっていたけれど、昼も夜もわからない暗闇の中は本当に怖かった。
絶対助かる、助けに来てくれると信じていても、不安な気持ちはどうしたって消えてくれなかった。
それに…。
セドリックに告げるつもりはないが、アメリアは賊の男たちに襲われかけたのだ。
幸い『傷一つつけずに引き渡す』という約定があるため助かったようだが、あのまま穢されていたら、自分はきっと死を選んでいたことだろう。
「……怖かった…、です……」
ポロリと、アメリアの瞳から涙が一筋こぼれた。
「ああ、怖かったな」
セドリックの大きな手が、アメリアの頭を優しく撫でる。
「何も、見えなくて。手も縛られて、動かせなくて」
「ああ。貴女はよく頑張った」
「絶対助けに来てくれるって、信じてたけど、でも、やっぱり怖くて、」
「ああ、ごめん、ごめんな。もう二度と、こんな怖い目にあわせないと誓うから」
「ゔーー」
両目からポロポロと涙が溢れ出し、とうとうアメリアの顔はぐしゃぐしゃになった。
セドリックはアメリアの頭をそっと抱き寄せると、優しくその体を抱きしめた。
セドリックの胸元はアメリアの涙でびしょ濡れになってしまったが、彼は彼女が泣き止むまで背中を撫で続けた。
◇◇◇
泣き疲れたアメリアが眠ってしまうと、セドリックはそっと部屋を出た。
そして、公爵邸の一角に設けられた貴賓室に向かう。
貴賓室には、国王クラークが待っているのだ。
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