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第五章 セドリック その三
ジャンの話①
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「先日は領都へ連れて行ってくださってありがとうございました、閣下」
そう言って微笑んだアメリアに、セドリックは目を見張った。
突然話題を変えてきたこともあるが、それよりも戸惑ったのは、どこか吹っ切れたようなアメリアの笑顔だ。
先日の領都行きは楽しいデートになるはずだったのに、最後に寄った食堂であのような悪意ある噂話を聞く羽目になった。
アメリアにしたらデートのことはあまり触れたくない話題のはずだ。
眉を寄せて黙ってしまったセドリックに、アメリアはちょっと困ったように小首を傾げた。
「実はあれから私なりに考えたことがあり、閣下に聞いていただきたいのです」
アメリアは、唐突にそう切り出した。
「…聞いてもらいたいこと?」
「…ええ。先日食堂にいたジャンという少年を覚えておいででしょうか?彼は私が領内を散策するうちに知り合った者の一人なんです」
「…ああ、たしかに親しそうでしたね」
二人は『エイミーさん』『ジャン』と名前で呼び合っていた。
それにアメリアは、普段セドリックとは交わさないような気軽な調子で彼と会話していた。
たしか彼は『サラトガ騎士団』に憧れているようだったから、彼が騎士になれるよう力添えして欲しいとかそんな話だろうか。
「ジャンをはじめ、サラトガ領の少年たちと話すと、彼らの多くは将来サラトガ騎士団に入るのが夢だと言っています」
(ああ、やはり)
アメリアの言葉に、セドリックは小さく頷いた。
しかしいくらアメリアの頼みでも、実力のない者を騎士団に入れることは出来ない。
命懸けで国境を守るサラトガ騎士団の騎士になるということは、生半可な覚悟でできることではないのだから。
「それが夢ならば、まずは夢を叶える努力をしなければなりません。まずは騎士団の予科に入り、それ相応の実力をつけるのです。先日彼にも言いましたが、サラトガ騎士団の予科は身分の上下なく、誰にでも門戸は開かれています。もちろん、彼にだって受験資格はあるはずですよ」
少々セドリックの言い方がきつかったのか、アメリアが眉根を寄せる。
「でも、その受験自体が難しいのでは?」
「いいえ、大変なのは入ってからです。夢を持って入っても、厳しさについていけず辞める者も多くいます。ただ、受験は基礎的な体力テストと学力テストですから、」
特に難しいことはない…と続けようとしたセドリックに、アメリアも眉を寄せる。
「だから、基礎的な学力が無ければ受験さえ難しいのですよね?」
「本当に基礎的なもので、義務教育レベルで十分です。幼年学校を終えれば12歳から受けられるはずですよ」
平民には義務教育しか受けられない者が多いのだから、それ以上難しくしては門戸を広くした意味がなくなってしまう。
「…でもそれでは、義務教育を受けていない者は受からないということですよね?」
「それは…」
畳みかけるように質問を繰り返すアメリアが一体何を言いたいのかわからず、セドリックは訝しげに彼女を見つめた。
サラトガ領では7歳から12歳の領民は身分・性別を問わず幼年学校に通う。
親は子供を学校に通わせる義務があり、そのためサラトガ領には文盲がいないはずだった。
訝しげにアメリアを見つめるセドリックに、彼女はこの三ヶ月余りの間に知り合った子供たちの話を始めた。
そう言って微笑んだアメリアに、セドリックは目を見張った。
突然話題を変えてきたこともあるが、それよりも戸惑ったのは、どこか吹っ切れたようなアメリアの笑顔だ。
先日の領都行きは楽しいデートになるはずだったのに、最後に寄った食堂であのような悪意ある噂話を聞く羽目になった。
アメリアにしたらデートのことはあまり触れたくない話題のはずだ。
眉を寄せて黙ってしまったセドリックに、アメリアはちょっと困ったように小首を傾げた。
「実はあれから私なりに考えたことがあり、閣下に聞いていただきたいのです」
アメリアは、唐突にそう切り出した。
「…聞いてもらいたいこと?」
「…ええ。先日食堂にいたジャンという少年を覚えておいででしょうか?彼は私が領内を散策するうちに知り合った者の一人なんです」
「…ああ、たしかに親しそうでしたね」
二人は『エイミーさん』『ジャン』と名前で呼び合っていた。
それにアメリアは、普段セドリックとは交わさないような気軽な調子で彼と会話していた。
たしか彼は『サラトガ騎士団』に憧れているようだったから、彼が騎士になれるよう力添えして欲しいとかそんな話だろうか。
「ジャンをはじめ、サラトガ領の少年たちと話すと、彼らの多くは将来サラトガ騎士団に入るのが夢だと言っています」
(ああ、やはり)
アメリアの言葉に、セドリックは小さく頷いた。
しかしいくらアメリアの頼みでも、実力のない者を騎士団に入れることは出来ない。
命懸けで国境を守るサラトガ騎士団の騎士になるということは、生半可な覚悟でできることではないのだから。
「それが夢ならば、まずは夢を叶える努力をしなければなりません。まずは騎士団の予科に入り、それ相応の実力をつけるのです。先日彼にも言いましたが、サラトガ騎士団の予科は身分の上下なく、誰にでも門戸は開かれています。もちろん、彼にだって受験資格はあるはずですよ」
少々セドリックの言い方がきつかったのか、アメリアが眉根を寄せる。
「でも、その受験自体が難しいのでは?」
「いいえ、大変なのは入ってからです。夢を持って入っても、厳しさについていけず辞める者も多くいます。ただ、受験は基礎的な体力テストと学力テストですから、」
特に難しいことはない…と続けようとしたセドリックに、アメリアも眉を寄せる。
「だから、基礎的な学力が無ければ受験さえ難しいのですよね?」
「本当に基礎的なもので、義務教育レベルで十分です。幼年学校を終えれば12歳から受けられるはずですよ」
平民には義務教育しか受けられない者が多いのだから、それ以上難しくしては門戸を広くした意味がなくなってしまう。
「…でもそれでは、義務教育を受けていない者は受からないということですよね?」
「それは…」
畳みかけるように質問を繰り返すアメリアが一体何を言いたいのかわからず、セドリックは訝しげに彼女を見つめた。
サラトガ領では7歳から12歳の領民は身分・性別を問わず幼年学校に通う。
親は子供を学校に通わせる義務があり、そのためサラトガ領には文盲がいないはずだった。
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