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第三章 セドリック その二
贈り物
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「ところで、貴女は王家からの持参金も、公爵夫人に当てられた費用も全く使っていないとお聞きしましたが」
セドリックが話題を変えると、途端にアメリアの顔が曇った。
「…いけませんでしたか?」
「いや、責めているわけではないのです。ただ、何か必要なものや、欲しいものなどはないのですか?」
「…欲しいもの…?」
アメリアは少し考え込む仕草をした。
多分すぐには思いつかないのだろうし、突然そんなことを聞かれて戸惑ってもいるのだろう。
「…何もありませんわ」
しばらく考えたあと、アメリアは申し訳なさそうにそう答えた。
「…たとえば、ドレスや宝飾品など…」
セドリックが伺うようにたずねると、アメリアは自嘲気味に小さく笑う。
「私は…、王家の養女とはいえ、元は田舎の子爵家の娘です。贅沢には慣れていませんし、お金の使い道もわかりません。それに、着飾る必要もないのに、どこで使うのでしょう?」
「…それは…」
アメリアの口調は決して責めるものではないのだが、セドリックは思わず言葉に詰まった。
アメリアはそんな彼を見て、突然慌て出す。
「あぁ、勘違いなさらないでください。今の暮らしを望んだのは私なのですから」
セドリックは金の話をするのはやめた。
金を上手に使うのも公爵夫人の役目だなどと言えば、またアメリアを追い詰めてしまうだけだろうから。
セドリックは扉の外に控えていた騎士に声をかけ、大きな箱をいくつか持って来させた。
そして何事かと目を丸くしているアメリアの前に箱を差し出した。
「アメリア、これは貴女への贈り物です」
「……え?」
「気に入るかどうかわかりませんが、貴女に着ていただきたいと思って用意したんです」
「…でも…」
アメリアは訝しげにセドリックを見上げた。
ドレスも宝飾品も、欲しいものは何もないと伝えたばかりなのに、何を考えているのかという顔だ。
そんなアメリアに、セドリックは困ったように小さく笑う。
「これは、その…、乗馬服なんです」
「…乗馬服?」
「準備期間がなかったので既製品を直しただけなのですが。貴女は、その…、馬には乗れますか?乗れなければもちろん、私と一緒に…」
「乗れます。きちんと教わったわけではありませんが、グレイ子爵領にいた時はよく乗っていました」
「そうですか。では、私と遠乗りに出かけませんか?」
「遠乗り?でも、閣下とご一緒しては…」
アメリアはそう言うと俯いた。
セドリックと馬を並べて出かけなどしたら、領民の目につくのは当たり前だ。
あれほど自分が領主夫人とバレてしまうのは嫌だと伝えたのに、やはり何も伝わっていないのかとがっかりしているのだろう。
しかしセドリックとて、これ以上彼女の意に染まぬことをするつもりはない。
「貴女が以前ハイキングに行った丘を超えると森があって、それを抜けるとうちの別邸があります。丘までは本宅の裏の森を抜ければ、多分領民とはほとんど会わないでしょう。それに、乗馬服はわざと華美でないものを選びましたから、そんな格好をしていれば貴女とはわからないはずです。サラトガ騎士団にはカリナのような女性騎士もいますから、私の護衛騎士くらいにしか見えないと思いますよ」
セドリックの話を黙って聞いていたアメリアは、そっとリボンを解き、箱を開けた。
そこには、青い乗馬服が入っていた。
セドリックが話題を変えると、途端にアメリアの顔が曇った。
「…いけませんでしたか?」
「いや、責めているわけではないのです。ただ、何か必要なものや、欲しいものなどはないのですか?」
「…欲しいもの…?」
アメリアは少し考え込む仕草をした。
多分すぐには思いつかないのだろうし、突然そんなことを聞かれて戸惑ってもいるのだろう。
「…何もありませんわ」
しばらく考えたあと、アメリアは申し訳なさそうにそう答えた。
「…たとえば、ドレスや宝飾品など…」
セドリックが伺うようにたずねると、アメリアは自嘲気味に小さく笑う。
「私は…、王家の養女とはいえ、元は田舎の子爵家の娘です。贅沢には慣れていませんし、お金の使い道もわかりません。それに、着飾る必要もないのに、どこで使うのでしょう?」
「…それは…」
アメリアの口調は決して責めるものではないのだが、セドリックは思わず言葉に詰まった。
アメリアはそんな彼を見て、突然慌て出す。
「あぁ、勘違いなさらないでください。今の暮らしを望んだのは私なのですから」
セドリックは金の話をするのはやめた。
金を上手に使うのも公爵夫人の役目だなどと言えば、またアメリアを追い詰めてしまうだけだろうから。
セドリックは扉の外に控えていた騎士に声をかけ、大きな箱をいくつか持って来させた。
そして何事かと目を丸くしているアメリアの前に箱を差し出した。
「アメリア、これは貴女への贈り物です」
「……え?」
「気に入るかどうかわかりませんが、貴女に着ていただきたいと思って用意したんです」
「…でも…」
アメリアは訝しげにセドリックを見上げた。
ドレスも宝飾品も、欲しいものは何もないと伝えたばかりなのに、何を考えているのかという顔だ。
そんなアメリアに、セドリックは困ったように小さく笑う。
「これは、その…、乗馬服なんです」
「…乗馬服?」
「準備期間がなかったので既製品を直しただけなのですが。貴女は、その…、馬には乗れますか?乗れなければもちろん、私と一緒に…」
「乗れます。きちんと教わったわけではありませんが、グレイ子爵領にいた時はよく乗っていました」
「そうですか。では、私と遠乗りに出かけませんか?」
「遠乗り?でも、閣下とご一緒しては…」
アメリアはそう言うと俯いた。
セドリックと馬を並べて出かけなどしたら、領民の目につくのは当たり前だ。
あれほど自分が領主夫人とバレてしまうのは嫌だと伝えたのに、やはり何も伝わっていないのかとがっかりしているのだろう。
しかしセドリックとて、これ以上彼女の意に染まぬことをするつもりはない。
「貴女が以前ハイキングに行った丘を超えると森があって、それを抜けるとうちの別邸があります。丘までは本宅の裏の森を抜ければ、多分領民とはほとんど会わないでしょう。それに、乗馬服はわざと華美でないものを選びましたから、そんな格好をしていれば貴女とはわからないはずです。サラトガ騎士団にはカリナのような女性騎士もいますから、私の護衛騎士くらいにしか見えないと思いますよ」
セドリックの話を黙って聞いていたアメリアは、そっとリボンを解き、箱を開けた。
そこには、青い乗馬服が入っていた。
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