41 / 101
第三章 セドリック その二
贈り物
しおりを挟む
「ところで、貴女は王家からの持参金も、公爵夫人に当てられた費用も全く使っていないとお聞きしましたが」
セドリックが話題を変えると、途端にアメリアの顔が曇った。
「…いけませんでしたか?」
「いや、責めているわけではないのです。ただ、何か必要なものや、欲しいものなどはないのですか?」
「…欲しいもの…?」
アメリアは少し考え込む仕草をした。
多分すぐには思いつかないのだろうし、突然そんなことを聞かれて戸惑ってもいるのだろう。
「…何もありませんわ」
しばらく考えたあと、アメリアは申し訳なさそうにそう答えた。
「…たとえば、ドレスや宝飾品など…」
セドリックが伺うようにたずねると、アメリアは自嘲気味に小さく笑う。
「私は…、王家の養女とはいえ、元は田舎の子爵家の娘です。贅沢には慣れていませんし、お金の使い道もわかりません。それに、着飾る必要もないのに、どこで使うのでしょう?」
「…それは…」
アメリアの口調は決して責めるものではないのだが、セドリックは思わず言葉に詰まった。
アメリアはそんな彼を見て、突然慌て出す。
「あぁ、勘違いなさらないでください。今の暮らしを望んだのは私なのですから」
セドリックは金の話をするのはやめた。
金を上手に使うのも公爵夫人の役目だなどと言えば、またアメリアを追い詰めてしまうだけだろうから。
セドリックは扉の外に控えていた騎士に声をかけ、大きな箱をいくつか持って来させた。
そして何事かと目を丸くしているアメリアの前に箱を差し出した。
「アメリア、これは貴女への贈り物です」
「……え?」
「気に入るかどうかわかりませんが、貴女に着ていただきたいと思って用意したんです」
「…でも…」
アメリアは訝しげにセドリックを見上げた。
ドレスも宝飾品も、欲しいものは何もないと伝えたばかりなのに、何を考えているのかという顔だ。
そんなアメリアに、セドリックは困ったように小さく笑う。
「これは、その…、乗馬服なんです」
「…乗馬服?」
「準備期間がなかったので既製品を直しただけなのですが。貴女は、その…、馬には乗れますか?乗れなければもちろん、私と一緒に…」
「乗れます。きちんと教わったわけではありませんが、グレイ子爵領にいた時はよく乗っていました」
「そうですか。では、私と遠乗りに出かけませんか?」
「遠乗り?でも、閣下とご一緒しては…」
アメリアはそう言うと俯いた。
セドリックと馬を並べて出かけなどしたら、領民の目につくのは当たり前だ。
あれほど自分が領主夫人とバレてしまうのは嫌だと伝えたのに、やはり何も伝わっていないのかとがっかりしているのだろう。
しかしセドリックとて、これ以上彼女の意に染まぬことをするつもりはない。
「貴女が以前ハイキングに行った丘を超えると森があって、それを抜けるとうちの別邸があります。丘までは本宅の裏の森を抜ければ、多分領民とはほとんど会わないでしょう。それに、乗馬服はわざと華美でないものを選びましたから、そんな格好をしていれば貴女とはわからないはずです。サラトガ騎士団にはカリナのような女性騎士もいますから、私の護衛騎士くらいにしか見えないと思いますよ」
セドリックの話を黙って聞いていたアメリアは、そっとリボンを解き、箱を開けた。
そこには、青い乗馬服が入っていた。
セドリックが話題を変えると、途端にアメリアの顔が曇った。
「…いけませんでしたか?」
「いや、責めているわけではないのです。ただ、何か必要なものや、欲しいものなどはないのですか?」
「…欲しいもの…?」
アメリアは少し考え込む仕草をした。
多分すぐには思いつかないのだろうし、突然そんなことを聞かれて戸惑ってもいるのだろう。
「…何もありませんわ」
しばらく考えたあと、アメリアは申し訳なさそうにそう答えた。
「…たとえば、ドレスや宝飾品など…」
セドリックが伺うようにたずねると、アメリアは自嘲気味に小さく笑う。
「私は…、王家の養女とはいえ、元は田舎の子爵家の娘です。贅沢には慣れていませんし、お金の使い道もわかりません。それに、着飾る必要もないのに、どこで使うのでしょう?」
「…それは…」
アメリアの口調は決して責めるものではないのだが、セドリックは思わず言葉に詰まった。
アメリアはそんな彼を見て、突然慌て出す。
「あぁ、勘違いなさらないでください。今の暮らしを望んだのは私なのですから」
セドリックは金の話をするのはやめた。
金を上手に使うのも公爵夫人の役目だなどと言えば、またアメリアを追い詰めてしまうだけだろうから。
セドリックは扉の外に控えていた騎士に声をかけ、大きな箱をいくつか持って来させた。
そして何事かと目を丸くしているアメリアの前に箱を差し出した。
「アメリア、これは貴女への贈り物です」
「……え?」
「気に入るかどうかわかりませんが、貴女に着ていただきたいと思って用意したんです」
「…でも…」
アメリアは訝しげにセドリックを見上げた。
ドレスも宝飾品も、欲しいものは何もないと伝えたばかりなのに、何を考えているのかという顔だ。
そんなアメリアに、セドリックは困ったように小さく笑う。
「これは、その…、乗馬服なんです」
「…乗馬服?」
「準備期間がなかったので既製品を直しただけなのですが。貴女は、その…、馬には乗れますか?乗れなければもちろん、私と一緒に…」
「乗れます。きちんと教わったわけではありませんが、グレイ子爵領にいた時はよく乗っていました」
「そうですか。では、私と遠乗りに出かけませんか?」
「遠乗り?でも、閣下とご一緒しては…」
アメリアはそう言うと俯いた。
セドリックと馬を並べて出かけなどしたら、領民の目につくのは当たり前だ。
あれほど自分が領主夫人とバレてしまうのは嫌だと伝えたのに、やはり何も伝わっていないのかとがっかりしているのだろう。
しかしセドリックとて、これ以上彼女の意に染まぬことをするつもりはない。
「貴女が以前ハイキングに行った丘を超えると森があって、それを抜けるとうちの別邸があります。丘までは本宅の裏の森を抜ければ、多分領民とはほとんど会わないでしょう。それに、乗馬服はわざと華美でないものを選びましたから、そんな格好をしていれば貴女とはわからないはずです。サラトガ騎士団にはカリナのような女性騎士もいますから、私の護衛騎士くらいにしか見えないと思いますよ」
セドリックの話を黙って聞いていたアメリアは、そっとリボンを解き、箱を開けた。
そこには、青い乗馬服が入っていた。
12
お気に入りに追加
1,250
あなたにおすすめの小説
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

幼なじみの親が離婚したことや元婚約者がこぞって勘違いしていようとも、私にはそんなことより譲れないものが1つだけあったりします
珠宮さくら
恋愛
最近、色々とあったシュリティ・バッタチャルジーは何事もなかったように話しかけてくる幼なじみとその兄に面倒をかけられながら、一番手にしたかったもののために奮闘し続けた。
シュリティがほしかったものを幼なじみがもっていて、ずっと羨ましくて仕方がなかったことに気づいている者はわずかしかいなかった。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

私の、虐げられていた親友の幸せな結婚
オレンジ方解石
ファンタジー
女学院に通う、女学生のイリス。
彼女は、親友のシュゼットがいつも妹に持ち物や見せ場を奪われることに怒りつつも、何もできずに悔しい思いをしていた。
だがある日、シュゼットは名門公爵令息に見初められ、婚約する。
「もう、シュゼットが妹や両親に利用されることはない」
安堵したイリスだが、親友の言葉に違和感が残り…………。
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる