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第二章 アメリア
三度目の晩餐②
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晩餐が始まり、アメリアは黙々と目の前の料理を食べ続けた。
今日の料理にもアメリアが育てた野菜が使われていて、先程まで調理も手伝ってきた。
食事に夢中なっていたアメリアだが、ふと視線に気づき、顔を上げた。
見れば、セドリックが黙ってアメリアを見ている。
しかも食事にはあまり手をつけていなさそうだ。
「お口に合いませんか?」
アメリアがたずねると、セドリックは「いや」と言って一瞬視線を外しはするが、やはりすぐにまた見つめてくる。
正直、食べているところをジッと見られるのは居心地が悪い。
アメリアはそっとフォークを置くと、口を拭った。
そこでセドリックも自分の不躾な視線にやっと気づいたのだろう。
「いや、すまない」と小さく謝ると、やっと料理を食べ始めた。
セドリックはそら豆を口に入れると、「これも貴女が?」とアメリアに聞いてきた。
「ええ。それは今朝収穫しました」
「これは、そら豆ですよね?」
「ええ。そら豆は面白いのですよ?本当に空に向かって生えるのですから」
「そうしたら収穫するのですか?」
「いいえ。そのうちお辞儀するので、そうしたら摘むのです」
「そら豆が、お辞儀を?」
「ええ、お辞儀です」
得意げに話すアメリアを、セドリックは眩しげに見つめる。
しかしアメリアがその眩しげな視線に気づくことはなかった。
晩餐を終えると、セドリックはテーブルを回ってきてアメリアの椅子を引いた。
そして、アメリアに手を差し出してくる。
どうやらエスコートしようとしているようだが、突然紳士的な態度を取り出したセドリックに、アメリアは不審な目を向けた。
そして、手を出すのを躊躇し、目の前に差し出された彼の大きな手を見つめた。
そんなアメリアに、セドリックは手を取ろうとさらに自分の手を差し伸べた。
触れられそうになったアメリアの手が、びくりと震える。
ーパシンー!
乾いた音が響いて、セドリックの手が振り払われた。
いや、厳密に言うと振り払われたわけではなく、アメリアが手を引いたために当たって鳴った小さな音だ。
(昨夜、この手に)
そう思い出したらわけもなく怖くなったのだ。
「ごめんなさい」
怯えた顔のアメリアを見て、セドリックは酷く傷ついた顔をした。
怒るならともかく何故彼がこんな顔をするのか、アメリアにはわからなかった。
結局アメリアには触れないまま、セドリックはアメリアを部屋の前まで送ってくれた。
(もしかして、今夜も来るのだろうか)
伺うように見上げるアメリアに、セドリックは苦笑する。
「安心してください。今夜はこのまま本邸に戻ります。その…、私は貴女を怖がらせてしまいました。しばらくは貴女に触れないと約束しましょう」
セドリックの言葉に、アメリアはホッとした。
『妻のつとめ』と頭ではわかっているし、セドリックに対して怯えた態度をとりたくもない。
だがやっぱりまだ体は痛いし、今日は正直無理だと思う。
ただ…。
「しばらくというのは、具体的にいつですか?」
しばらくという言葉が、アメリアは気になった。
「いつ…、というのは?」
「閣下が次に私の寝室においでになる日ですわ」
アメリアは真顔でセドリックを見上げた。
「私は公爵家に嫁いだ身。必要以上のお気遣いは無用ですわ、閣下」
セドリックは驚いた顔で絶句した。
まるでアメリアの方から誘うような台詞だったからだろう。
だがそんなセドリックには構わず、アメリアは後ろに控えていたハンナに「ハンナ、あれを」と手を差し出した。
ハンナから手紙のようなものを受け取ると、それをセドリックに渡してくる。
「…これは?」
訝しげに手紙を見つめるセドリックに、アメリアは少し恥ずかしそうに目を泳がせた。
「あの、差し出がましいとは思うのですが、いちおう予定表を作ったんです」
「…予定表?」
「はい。私の、その…、月のものの期間や、もしかしたら『赤ちゃんができやすい日』も書き込んでおきました。閣下が寝室をおたずねくださっても無駄足になるかもしれないと思って…」
「……は?」
セドリックは今度こそ口をぽかんと開けた。
とても、戦場では鬼神とさえ呼ばれる彼のあり得ない顔だ。
「待ってください、アメリア」
セドリックは見るからに動揺したようにアメリアの手を掴もうとした。
しかしその手はまたしても空を切る。
これほど、触れられるのも怖がるくせにとんでもないことを言うアメリアに、セドリックはどうしたらいいかわからないというような顔をした。
※次章は再びセドリックのターンになります。
今日の料理にもアメリアが育てた野菜が使われていて、先程まで調理も手伝ってきた。
食事に夢中なっていたアメリアだが、ふと視線に気づき、顔を上げた。
見れば、セドリックが黙ってアメリアを見ている。
しかも食事にはあまり手をつけていなさそうだ。
「お口に合いませんか?」
アメリアがたずねると、セドリックは「いや」と言って一瞬視線を外しはするが、やはりすぐにまた見つめてくる。
正直、食べているところをジッと見られるのは居心地が悪い。
アメリアはそっとフォークを置くと、口を拭った。
そこでセドリックも自分の不躾な視線にやっと気づいたのだろう。
「いや、すまない」と小さく謝ると、やっと料理を食べ始めた。
セドリックはそら豆を口に入れると、「これも貴女が?」とアメリアに聞いてきた。
「ええ。それは今朝収穫しました」
「これは、そら豆ですよね?」
「ええ。そら豆は面白いのですよ?本当に空に向かって生えるのですから」
「そうしたら収穫するのですか?」
「いいえ。そのうちお辞儀するので、そうしたら摘むのです」
「そら豆が、お辞儀を?」
「ええ、お辞儀です」
得意げに話すアメリアを、セドリックは眩しげに見つめる。
しかしアメリアがその眩しげな視線に気づくことはなかった。
晩餐を終えると、セドリックはテーブルを回ってきてアメリアの椅子を引いた。
そして、アメリアに手を差し出してくる。
どうやらエスコートしようとしているようだが、突然紳士的な態度を取り出したセドリックに、アメリアは不審な目を向けた。
そして、手を出すのを躊躇し、目の前に差し出された彼の大きな手を見つめた。
そんなアメリアに、セドリックは手を取ろうとさらに自分の手を差し伸べた。
触れられそうになったアメリアの手が、びくりと震える。
ーパシンー!
乾いた音が響いて、セドリックの手が振り払われた。
いや、厳密に言うと振り払われたわけではなく、アメリアが手を引いたために当たって鳴った小さな音だ。
(昨夜、この手に)
そう思い出したらわけもなく怖くなったのだ。
「ごめんなさい」
怯えた顔のアメリアを見て、セドリックは酷く傷ついた顔をした。
怒るならともかく何故彼がこんな顔をするのか、アメリアにはわからなかった。
結局アメリアには触れないまま、セドリックはアメリアを部屋の前まで送ってくれた。
(もしかして、今夜も来るのだろうか)
伺うように見上げるアメリアに、セドリックは苦笑する。
「安心してください。今夜はこのまま本邸に戻ります。その…、私は貴女を怖がらせてしまいました。しばらくは貴女に触れないと約束しましょう」
セドリックの言葉に、アメリアはホッとした。
『妻のつとめ』と頭ではわかっているし、セドリックに対して怯えた態度をとりたくもない。
だがやっぱりまだ体は痛いし、今日は正直無理だと思う。
ただ…。
「しばらくというのは、具体的にいつですか?」
しばらくという言葉が、アメリアは気になった。
「いつ…、というのは?」
「閣下が次に私の寝室においでになる日ですわ」
アメリアは真顔でセドリックを見上げた。
「私は公爵家に嫁いだ身。必要以上のお気遣いは無用ですわ、閣下」
セドリックは驚いた顔で絶句した。
まるでアメリアの方から誘うような台詞だったからだろう。
だがそんなセドリックには構わず、アメリアは後ろに控えていたハンナに「ハンナ、あれを」と手を差し出した。
ハンナから手紙のようなものを受け取ると、それをセドリックに渡してくる。
「…これは?」
訝しげに手紙を見つめるセドリックに、アメリアは少し恥ずかしそうに目を泳がせた。
「あの、差し出がましいとは思うのですが、いちおう予定表を作ったんです」
「…予定表?」
「はい。私の、その…、月のものの期間や、もしかしたら『赤ちゃんができやすい日』も書き込んでおきました。閣下が寝室をおたずねくださっても無駄足になるかもしれないと思って…」
「……は?」
セドリックは今度こそ口をぽかんと開けた。
とても、戦場では鬼神とさえ呼ばれる彼のあり得ない顔だ。
「待ってください、アメリア」
セドリックは見るからに動揺したようにアメリアの手を掴もうとした。
しかしその手はまたしても空を切る。
これほど、触れられるのも怖がるくせにとんでもないことを言うアメリアに、セドリックはどうしたらいいかわからないというような顔をした。
※次章は再びセドリックのターンになります。
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