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第一章 セドリック
後悔②
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カリナが出て行った後、セドリックは机に突っ伏したままだ。
それにしても、どうしてもわからない。
アメリアが国王の愛人ではなかったとしたら、何故彼女は王家に養女として迎えられたのか。
そしてその理由を、何故夫になったセドリックにまで頑なに隠すのか。
いや、自分たちは式を挙げただけで全く夫婦として心が通じ合ってはいないのだが。
思えば、アメリアは当初はセドリックに笑いかけたり、質問してきたり、サラトガ領での仕事を手伝わせて欲しいと言っていた。
少しずつ、歩み寄ろうとしてくれていたのだろう。
なのに、全て自分が壊した。
二ヶ月間も放置し、無視していたのは自分だ。
しかもこれほど放置しておきながら昨夜は絶望的に酷いことをしてしまった。
そして、あんな酷いことをしながらも、思い出すのはアメリアのきめ細やかな肌と、それから…。
「うわぁっ‼︎」
セドリックは両手で顔を覆った。
(私は、サイテーだ!)
カリナの言う通りだ。
夫婦という言葉を免罪符に、犯罪紛いのことをした。
だいたい彼女に隠し事があるからなんだと言うのだ。
自分にだって話したくない秘密の一つや二つある。
夫婦になったからといって、全て話す必要もないではないか。
アメリアは何度も、自分は国王の愛人ではないと訴えていた。
噂を信じ、アメリアの言葉を信じなかったのは自分だ。
ソニアも、カリナも、トマスも、みんなアメリアと接するうちに彼女を信じるようになったというのに、自分だけが頑なに信じなかったのだ。
そうだ、養女になった理由など、もうどうでもいいではないか。
「旦那様」
頭の上から声が落ちてきて、セドリックは顔を上げた。
いつの間に部屋に入ってきたのか、目の前に家令のトマスが立っている。
「トマス…」
「酷い顔ですね」
トマスは鼻で笑うように言うとセドリックをジロリと睨んだ。
「それで、奥様の潔白は証明されたのですよね」
どストレートに聞いてくるトマスにセドリックは顔を赤らめた。
思わず昨夜のアメリアを思い出したのだ。
「なんですか、その反応は。思春期ですか。それよりちゃんと奥様に謝罪したのですか?」
「それが…」
謝罪などしていない。
気を失うように眠ってしまったアメリアの体を清め、寝衣を着せたのは自分だ。
スヤスヤと眠る彼女はあどけなく、清らかで愛らしかった。
本当はずっと見つめていたかったのだが、彼女が目を覚ました時自分を見てどんな反応をするだろうと思ったら怖くなった。
結局彼女は朝まで一度も目を覚まさず、セドリックはそんな彼女を置いて執務室に逃げ込んできたのだ。
「まさか、散々好き放題した挙句、奥様を放置してきたとか言いませんよね?」
「トマス…」
助けを求めるかのように情け無い顔で見上げる主人に、トマスは吐き捨てるように言い放った。
「鬼畜ですね」
その日の夜、セドリックは重い足取りで離れを訪れた。
アメリアと、晩餐を共にするために。
まずは、昨夜のこと、そしてこれまでの自分の態度を謝るのだ。
そしてこれからやり直したいと告げよう。
誠実に接すると、大事にすると誓おう。
厨房からは今日もアメリアの明るい声が聞こえてきて、昨日と変わりがないことにホッとする。
そっと様子を伺えば、彼女のあどけない笑顔が見える。
(こんなまだ少女のような彼女に私は…)
セドリックは唇を噛み、拳を握りしめた。
今、猛烈に自分を殴り倒してやりたいと思う。
(大事にしたい)
心からそう思った。
彼女が許してくれるまで、何度でも謝ろう。
そして、もう自分からは触れないと誓おう。
セドリックは踵を返すと、ダイニングルームに向かって行った。
※胸糞展開すみません(>_<)!
次章はアメリア中心になりますので引き続きよろしくお願いします!
それにしても、どうしてもわからない。
アメリアが国王の愛人ではなかったとしたら、何故彼女は王家に養女として迎えられたのか。
そしてその理由を、何故夫になったセドリックにまで頑なに隠すのか。
いや、自分たちは式を挙げただけで全く夫婦として心が通じ合ってはいないのだが。
思えば、アメリアは当初はセドリックに笑いかけたり、質問してきたり、サラトガ領での仕事を手伝わせて欲しいと言っていた。
少しずつ、歩み寄ろうとしてくれていたのだろう。
なのに、全て自分が壊した。
二ヶ月間も放置し、無視していたのは自分だ。
しかもこれほど放置しておきながら昨夜は絶望的に酷いことをしてしまった。
そして、あんな酷いことをしながらも、思い出すのはアメリアのきめ細やかな肌と、それから…。
「うわぁっ‼︎」
セドリックは両手で顔を覆った。
(私は、サイテーだ!)
カリナの言う通りだ。
夫婦という言葉を免罪符に、犯罪紛いのことをした。
だいたい彼女に隠し事があるからなんだと言うのだ。
自分にだって話したくない秘密の一つや二つある。
夫婦になったからといって、全て話す必要もないではないか。
アメリアは何度も、自分は国王の愛人ではないと訴えていた。
噂を信じ、アメリアの言葉を信じなかったのは自分だ。
ソニアも、カリナも、トマスも、みんなアメリアと接するうちに彼女を信じるようになったというのに、自分だけが頑なに信じなかったのだ。
そうだ、養女になった理由など、もうどうでもいいではないか。
「旦那様」
頭の上から声が落ちてきて、セドリックは顔を上げた。
いつの間に部屋に入ってきたのか、目の前に家令のトマスが立っている。
「トマス…」
「酷い顔ですね」
トマスは鼻で笑うように言うとセドリックをジロリと睨んだ。
「それで、奥様の潔白は証明されたのですよね」
どストレートに聞いてくるトマスにセドリックは顔を赤らめた。
思わず昨夜のアメリアを思い出したのだ。
「なんですか、その反応は。思春期ですか。それよりちゃんと奥様に謝罪したのですか?」
「それが…」
謝罪などしていない。
気を失うように眠ってしまったアメリアの体を清め、寝衣を着せたのは自分だ。
スヤスヤと眠る彼女はあどけなく、清らかで愛らしかった。
本当はずっと見つめていたかったのだが、彼女が目を覚ました時自分を見てどんな反応をするだろうと思ったら怖くなった。
結局彼女は朝まで一度も目を覚まさず、セドリックはそんな彼女を置いて執務室に逃げ込んできたのだ。
「まさか、散々好き放題した挙句、奥様を放置してきたとか言いませんよね?」
「トマス…」
助けを求めるかのように情け無い顔で見上げる主人に、トマスは吐き捨てるように言い放った。
「鬼畜ですね」
その日の夜、セドリックは重い足取りで離れを訪れた。
アメリアと、晩餐を共にするために。
まずは、昨夜のこと、そしてこれまでの自分の態度を謝るのだ。
そしてこれからやり直したいと告げよう。
誠実に接すると、大事にすると誓おう。
厨房からは今日もアメリアの明るい声が聞こえてきて、昨日と変わりがないことにホッとする。
そっと様子を伺えば、彼女のあどけない笑顔が見える。
(こんなまだ少女のような彼女に私は…)
セドリックは唇を噛み、拳を握りしめた。
今、猛烈に自分を殴り倒してやりたいと思う。
(大事にしたい)
心からそう思った。
彼女が許してくれるまで、何度でも謝ろう。
そして、もう自分からは触れないと誓おう。
セドリックは踵を返すと、ダイニングルームに向かって行った。
※胸糞展開すみません(>_<)!
次章はアメリア中心になりますので引き続きよろしくお願いします!
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