さげわたし

凛江

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第二章 アメリア

黒い噂

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結局クラーク王は、カルヴァン公爵の反対を押し切ってアメリアを自身の養女に迎えた。
突然『遠縁の娘』が王家に迎えられたのだから、当然のように貴族たちはざわついた。

貴族は遡れば少なからず王家と血縁があることも多いため、『遠縁の娘』というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
しかし近々きんきんでグレイ子爵家と王家との血縁関係などなく、王に血の近い貴族令嬢なら他にもたくさんいるはずだ。

世間は皆当然ながら国王と養女の関係に疑惑の目を向けた。
『王は愛人を手元に置きたいがために養女にしたのだろう』と。
しかし国王の耳にその噂が入ってきたのは、しばらく経ってからのことだった。

若くして王位につき周りから大事に育てられたクラーク王は、ある意味純粋過ぎるきらいがある。
この、『遠縁の娘を養女に迎える』という選択がここまで悪意に満ちた噂を生むなど、思ってもいなかったのだろう。
王妃以外の女性を近づけず身綺麗に生きてきた自分に、愛人の噂が立つとは露ほども思わなかったのだ。
要するに、クラーク王は考えが甘すぎたし、それを止められなかったカルヴァン公爵もまた甘かったのだ。

結局、しばらく噂も知らず世間の目も気にならなかったクラーク王は、まるでアメリアとの空白の時間を埋めるかのように彼女と共に過ごし、溺愛した。
元々愛妻家で子煩悩な国王だったが、今まで以上に家族団欒の時間を持つ姿が見られるようになった。

まだ幼い王子や王女もすぐにアメリアに懐き本当の姉のように慕うようになっていたし、アメリアもまた実際は甥姪である王子と王女をとても可愛がった。
肉親からの愛情に飢えていたアメリアは、初めて味わう家族愛に酔いしれていたのだ。
王宮で勤める者たちの冷たい視線も気にならないほどに。

まだ未成年であるアメリアは王女としての公務もなく、表面上は王宮の中で大事に扱われていた。
アメリアが王女である以上、侍女たちは王女として接し、淡々と仕事をこなさなければならないのだから。

もちろんクラーク王は王妃には真実を告げていて、それ故王妃はアメリアの存在を受け入れていた。
表立っては義娘だが、夫のたった一人の妹として、王妃自身もアメリアを可愛がった。
それは、ちらほらと流れ出していた『王の愛人』説を一蹴する意味合いもあっただろう。

しかしすでに色眼鏡でアメリアを見てしまっている世間ではそうとらない。
それは図らずも、夫の愛人さえ受け入れる心の広い王妃として王妃を賞賛するものとなる。
王妃がアメリアを可愛がれば可愛がるほど王妃に同情と賞賛が集まり、アメリアへの批判は拍車がかかるだけとなるのだ。

そうして王家が気づいた時、『突然王家の養女に迎えられた遠縁の娘』は『国王の秘密の恋人』と広く周知され、取り返しがつかないほど大きな噂になっていた。
下世話な噂話などわざわざ王の耳に入れる者はおらず、正に『はだかの王様』状態だったのだ。

噂を知った王は深く悲しみ、自らの浅はかさを後悔した。
そして、せめてアメリアの名誉を守るためと、母の醜聞を曝すことも覚悟した。
だがそれは死んだ母の名誉を傷つけるだけではなく、父である先王、母の実家であるカルヴァン公爵家、アメリアの本当の父の実家グレイ子爵家と全てを巻き込み、醜聞に曝すことであって、現国王の愛人説などよりよほど大きなスキャンダルとなる。

当然アメリアはそれを望まないし、それだけは阻止したいと願った。
今圧倒的に醜聞に曝されているのは自分であって、自分さえ我慢すればいいのだと、アメリアはそう思っていたのだ。

自分は子爵邸でだってだったし、愛されないのも、冷たくされるのも慣れている。
短い間だけでも王室に引き取られて実の兄とその妻、子供たちとあたたかい家庭を味わえたのだから、それだけでもう幸せだったと。
いずれはひっそりと修道院に入り、兄の治めるランドル王国の平和と幸福を祈る人生を送ろうと、そこまで思いつめていたのだ。

そうこうするうち、アメリアが王室に来て三年の月日が流れた。
その間世間に流れる噂はそのままに、アメリアは未成人を理由に公務も社交もないまま王宮で暮らしていた。
兄であるクラーク王に何度も修道院行きを打診してはいたが、その度却下されていた。

そんな中、隣国ソルベンティアが国境を越えて攻めてきたと報告があり、ランドル国は俄かに騒がしくなった。
国境では『王国の盾』サラトガ公爵軍が戦っていると聞く。
アメリアはサラトガ公爵の無事を願って、毎日お祈りをした。
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