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第二章 アメリア
アメリアの秘密⑤
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王太后が生んだ子どもが元気でグレイ子爵家に預けられたことは、当時クラーク王には知らされなかった。
知れば愛情深く母の不貞さえ許す王は、なんとしても妹を引き取ろうとするだろう。
しかし有耶無耶にどこかに預けたなどと言えば、血眼になって探すかもしれない。
一計を案じた先代カルヴァン公爵は、赤子は母の後を追うように数日後に亡くなり、すでにカルヴァン家の墓地に密かに埋葬したと報告した。
クラーク王は慟哭したが、それ以上追求することはなかった。
祖父の話を素直に信じたのだ。
だが、その祖父も自分が死に直面した時、王を謀った良心の呵責に耐えられなくなったのだろう。
結局先代カルヴァン公爵は亡くなる前、クラーク王に全てを懺悔した。
王太后が生んだ子どもは生きていて、グレイ子爵家の末娘として育てられていると。
若いながらもクラーク王が英邁の誉れ高く、王権が落ち着いていたことも祖父の告白を後押ししたのだろう。
それが、つい半年前のことだ。
「そなたのことを知って以来、一日たりともそなたのことを考えない日はなかった。諦めていた妹が生きていたのだ。こんな嬉しいことはないだろう?そなたは母が命がけで生んだ、私のたった一人の妹だ」
クラーク王は真剣な目で、アメリアの目を真っ直ぐに見つめた。
この半年間、クラークはアメリアの現状を探ってきた。
仕方のないこととはいえ、グレイ子爵家で冷遇されている事実を知って憤りも覚えた。
このままでは、子爵家の冷遇された末娘として家格の下の貴族や平民に嫁がされるのが関の山だろう。
しかし、彼女は先王の血こそ流れていないものの、紛れもなく、現王であるクラークの実妹なのだ。
王女として遇され、王女として大切にされるべき人間だ。
母の名誉を守るために妹として発表するわけにはいかないが、遠縁の娘として養女に迎えるくらいなら許されるのではないだろうか。
もちろんそれを言い出した時、カルヴァン公爵を継いでいた伯父は思いとどまるよう進言した。
いつどのように秘密がばれ、また思いもよらない噂に発展するかもしれないと。
だが、クラーク王の気持ちはもう決まっていた。
「私には両親も、血が繋がった兄弟もいない。たしかに妻と子どもはいるが、たった一人の妹と、ほんの僅かな間だけでも家族の真似事をしたいのだ。どうか、せめてアメリアが嫁入るまで、家族として側にいさせてはくれないだろうか」
それは、国王の究極のわがままであった。
母が命がけで生んだ妹を、なんとしても手元に引き取りたい。
短い時間であっても家族として慈しみ、自分の眼鏡にかなった男に、王家から嫁がせる…、それが兄としての責務だと思ったのだ。
「父も母もそなたを愛し、そなたの行く末を案じて亡くなったという。私も兄として、そなたを愛しているんだ、アメリア」
クラーク王の愛おしげに自分を見る眼差しに、アメリアは心をうたれた。
今まで、乳母とハンナ以外でこんな風に自分を見てくれる人はいなかったから。
もちろんまだ戸惑いも不安もあるし、色々疑問もある。
だが、今目の前にいる、兄として『愛している』と言ってくれた王の目は本物だと思った。
「…行きます…」
気づけば、アメリアはそう答えていた。
そこには深い考えもなく、ただ感情で答えていた。
アメリアは物心ついた時から、家族に愛されていると実感したことはなかった。
でも、本当の母は自分を命がけで産んでくれていたのだ。
そして兄は見たこともない妹を愛し、迎えに来てくれた。
母と、兄と。
この世の中に自分をこんなに愛してくれる肉親がいたのだと、今初めて実感していた。
だから、思ってしまったのだ。
たった一人の血の繋がった兄と、少しでも一緒にいたいと。
それを望むくらい、許されるのではないだろうかと。
知れば愛情深く母の不貞さえ許す王は、なんとしても妹を引き取ろうとするだろう。
しかし有耶無耶にどこかに預けたなどと言えば、血眼になって探すかもしれない。
一計を案じた先代カルヴァン公爵は、赤子は母の後を追うように数日後に亡くなり、すでにカルヴァン家の墓地に密かに埋葬したと報告した。
クラーク王は慟哭したが、それ以上追求することはなかった。
祖父の話を素直に信じたのだ。
だが、その祖父も自分が死に直面した時、王を謀った良心の呵責に耐えられなくなったのだろう。
結局先代カルヴァン公爵は亡くなる前、クラーク王に全てを懺悔した。
王太后が生んだ子どもは生きていて、グレイ子爵家の末娘として育てられていると。
若いながらもクラーク王が英邁の誉れ高く、王権が落ち着いていたことも祖父の告白を後押ししたのだろう。
それが、つい半年前のことだ。
「そなたのことを知って以来、一日たりともそなたのことを考えない日はなかった。諦めていた妹が生きていたのだ。こんな嬉しいことはないだろう?そなたは母が命がけで生んだ、私のたった一人の妹だ」
クラーク王は真剣な目で、アメリアの目を真っ直ぐに見つめた。
この半年間、クラークはアメリアの現状を探ってきた。
仕方のないこととはいえ、グレイ子爵家で冷遇されている事実を知って憤りも覚えた。
このままでは、子爵家の冷遇された末娘として家格の下の貴族や平民に嫁がされるのが関の山だろう。
しかし、彼女は先王の血こそ流れていないものの、紛れもなく、現王であるクラークの実妹なのだ。
王女として遇され、王女として大切にされるべき人間だ。
母の名誉を守るために妹として発表するわけにはいかないが、遠縁の娘として養女に迎えるくらいなら許されるのではないだろうか。
もちろんそれを言い出した時、カルヴァン公爵を継いでいた伯父は思いとどまるよう進言した。
いつどのように秘密がばれ、また思いもよらない噂に発展するかもしれないと。
だが、クラーク王の気持ちはもう決まっていた。
「私には両親も、血が繋がった兄弟もいない。たしかに妻と子どもはいるが、たった一人の妹と、ほんの僅かな間だけでも家族の真似事をしたいのだ。どうか、せめてアメリアが嫁入るまで、家族として側にいさせてはくれないだろうか」
それは、国王の究極のわがままであった。
母が命がけで生んだ妹を、なんとしても手元に引き取りたい。
短い時間であっても家族として慈しみ、自分の眼鏡にかなった男に、王家から嫁がせる…、それが兄としての責務だと思ったのだ。
「父も母もそなたを愛し、そなたの行く末を案じて亡くなったという。私も兄として、そなたを愛しているんだ、アメリア」
クラーク王の愛おしげに自分を見る眼差しに、アメリアは心をうたれた。
今まで、乳母とハンナ以外でこんな風に自分を見てくれる人はいなかったから。
もちろんまだ戸惑いも不安もあるし、色々疑問もある。
だが、今目の前にいる、兄として『愛している』と言ってくれた王の目は本物だと思った。
「…行きます…」
気づけば、アメリアはそう答えていた。
そこには深い考えもなく、ただ感情で答えていた。
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でも、本当の母は自分を命がけで産んでくれていたのだ。
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たった一人の血の繋がった兄と、少しでも一緒にいたいと。
それを望むくらい、許されるのではないだろうかと。
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