17 / 101
第一章 セドリック
二度目の晩餐③
しおりを挟む
「王女殿下」
セドリックが呼びかけると、アメリアは顔を上げて真っ直ぐに彼を見た。
「閣下、私はもう王女ではありませんわ。どうぞアメリアとお呼びください」
「では、アメリア様」
「様もいりません」
「…では…、アメリア」
「はい、閣下」
「貴女はご自分の噂のことをどこまで知っているんですか?」
セドリックがそう唐突にたずねると、アメリアは大きな瞳をさらに大きくした。
そして、小さく笑った。
「もちろん知っていますわ、自分のことですもの。でもそれが根も葉もない噂だということも、私は知っています」
「ただの噂だという根拠は?世間の者は、貴女は国王陛下の恋人で、陛下から私に下げ渡された女性だと噂しているのですよ?」
「私は潔白です。閣下にはそれを信じていただくしかありません」
その答えにセドリックは眉をひそめる。
「では何故陛下は貴女を養女にされたのですか?」
セドリックはとうとう核心に触れた。
本当に一番知りたかったことは最初からこれだ。
そもそも国王とアメリアの関係が明らかになっていれば…、いや、国王が彼女を養女になど迎えなければ、おかしな噂が立つこともなかった。
しかしアメリアは申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめんなさい、私の口からは何も申せません」
「では私の口から言いましょう。陛下は人目を気にせず恋人である貴女を囲うため養女にしたんだ」
「違います。私は陛下の恋人なんかじゃありません。家族です」
「家族ですって?貴女は陛下に捨てられたのですよ?何故庇うのです?」
「違います。陛下はそんな方じゃありません。清廉潔白な方です」
「はっ…、清廉潔白?」
この期に及んでクラーク王を庇うアメリアに、セドリックは舌打ちした。
「では、何故貴女の夫に私が選ばれたのでしょう?」
「それも私にもわかりません。ただ、貴方を巻き込んでしまったのは本当に申し訳なく思っています」
アメリアのなんとも要領を得ない回答にセドリックは苛立った。
「私は貴女の夫になったのですよ?私にくらい真実を教えてくれてもよろしいのでは?陛下はいずれ貴女の口から聞くようにと申されました。それは、夫婦になったら隠し事はしないようにということではないのですか⁈」
問いただしながらもセドリックは自分の矛盾に気づいてはいた。
そもそも自分たちは式を挙げただけで未だ夫婦としての生活など送っていない。
二ヶ月間も新妻を放置していたくせにどの口が言うのかと思う。
だが、振り上げた拳はなかなか下ろせない。
「貴女は矛盾だらけだ!噂は嘘だ、信じろと言いながら真実を話さない。そんな人間を、誰が信じますか⁈」
たまらずセドリックが声を荒げた時、アメリアの瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。
ハッと息を飲む暇もなく、次々と涙は彼女の頬を伝っていく。
それは胸を衝かれるような美しい涙だったが、セドリックの胸はかえってスッと冷えた。
「女はいいですね。泣けば、全て許されると思っている」
「違います!私はただ閣下に申し訳なくて…!」
「言い訳はもういい」
セドリックは冷たく言い放った。
「貴女を信じることは出来ない。だが、最初に言ったとおり、義務は果たしてもらいましょう」
その夜、セドリックはアメリアの寝室を訪れた。
あの夜以来、初めての訪問だった。
セドリックが呼びかけると、アメリアは顔を上げて真っ直ぐに彼を見た。
「閣下、私はもう王女ではありませんわ。どうぞアメリアとお呼びください」
「では、アメリア様」
「様もいりません」
「…では…、アメリア」
「はい、閣下」
「貴女はご自分の噂のことをどこまで知っているんですか?」
セドリックがそう唐突にたずねると、アメリアは大きな瞳をさらに大きくした。
そして、小さく笑った。
「もちろん知っていますわ、自分のことですもの。でもそれが根も葉もない噂だということも、私は知っています」
「ただの噂だという根拠は?世間の者は、貴女は国王陛下の恋人で、陛下から私に下げ渡された女性だと噂しているのですよ?」
「私は潔白です。閣下にはそれを信じていただくしかありません」
その答えにセドリックは眉をひそめる。
「では何故陛下は貴女を養女にされたのですか?」
セドリックはとうとう核心に触れた。
本当に一番知りたかったことは最初からこれだ。
そもそも国王とアメリアの関係が明らかになっていれば…、いや、国王が彼女を養女になど迎えなければ、おかしな噂が立つこともなかった。
しかしアメリアは申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめんなさい、私の口からは何も申せません」
「では私の口から言いましょう。陛下は人目を気にせず恋人である貴女を囲うため養女にしたんだ」
「違います。私は陛下の恋人なんかじゃありません。家族です」
「家族ですって?貴女は陛下に捨てられたのですよ?何故庇うのです?」
「違います。陛下はそんな方じゃありません。清廉潔白な方です」
「はっ…、清廉潔白?」
この期に及んでクラーク王を庇うアメリアに、セドリックは舌打ちした。
「では、何故貴女の夫に私が選ばれたのでしょう?」
「それも私にもわかりません。ただ、貴方を巻き込んでしまったのは本当に申し訳なく思っています」
アメリアのなんとも要領を得ない回答にセドリックは苛立った。
「私は貴女の夫になったのですよ?私にくらい真実を教えてくれてもよろしいのでは?陛下はいずれ貴女の口から聞くようにと申されました。それは、夫婦になったら隠し事はしないようにということではないのですか⁈」
問いただしながらもセドリックは自分の矛盾に気づいてはいた。
そもそも自分たちは式を挙げただけで未だ夫婦としての生活など送っていない。
二ヶ月間も新妻を放置していたくせにどの口が言うのかと思う。
だが、振り上げた拳はなかなか下ろせない。
「貴女は矛盾だらけだ!噂は嘘だ、信じろと言いながら真実を話さない。そんな人間を、誰が信じますか⁈」
たまらずセドリックが声を荒げた時、アメリアの瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。
ハッと息を飲む暇もなく、次々と涙は彼女の頬を伝っていく。
それは胸を衝かれるような美しい涙だったが、セドリックの胸はかえってスッと冷えた。
「女はいいですね。泣けば、全て許されると思っている」
「違います!私はただ閣下に申し訳なくて…!」
「言い訳はもういい」
セドリックは冷たく言い放った。
「貴女を信じることは出来ない。だが、最初に言ったとおり、義務は果たしてもらいましょう」
その夜、セドリックはアメリアの寝室を訪れた。
あの夜以来、初めての訪問だった。
11
お気に入りに追加
1,229
あなたにおすすめの小説
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
私、女王にならなくてもいいの?
gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる