さげわたし

凛江

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第一章 セドリック

二度目の晩餐③

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「王女殿下」

セドリックが呼びかけると、アメリアは顔を上げて真っ直ぐに彼を見た。
「閣下、私はもう王女ではありませんわ。どうぞアメリアとお呼びください」
「では、アメリア様」
「様もいりません」
「…では…、アメリア」
「はい、閣下」
「貴女はご自分の噂のことをどこまで知っているんですか?」

セドリックがそう唐突にたずねると、アメリアは大きな瞳をさらに大きくした。
そして、小さく笑った。

「もちろん知っていますわ、自分のことですもの。でもそれが根も葉もない噂だということも、私は知っています」
「ただの噂だという根拠は?世間の者は、貴女は国王陛下の恋人で、陛下から私に下げ渡された女性だと噂しているのですよ?」
「私は潔白です。閣下にはそれを信じていただくしかありません」

その答えにセドリックは眉をひそめる。
「では何故陛下は貴女を養女にされたのですか?」
セドリックはとうとう核心に触れた。
本当に一番知りたかったことは最初からこれだ。
そもそも国王とアメリアの関係が明らかになっていれば…、いや、国王が彼女を養女になど迎えなければ、おかしな噂が立つこともなかった。

しかしアメリアは申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめんなさい、私の口からは何も申せません」
「では私の口から言いましょう。陛下は人目を気にせず恋人である貴女を囲うため養女にしたんだ」
「違います。私は陛下の恋人なんかじゃありません。家族です」
「家族ですって?貴女は陛下に捨てられたのですよ?何故庇うのです?」
「違います。陛下はそんな方じゃありません。清廉潔白な方です」
「はっ…、清廉潔白?」

この期に及んでクラーク王を庇うアメリアに、セドリックは舌打ちした。
「では、何故貴女の夫に私が選ばれたのでしょう?」
「それも私にもわかりません。ただ、貴方を巻き込んでしまったのは本当に申し訳なく思っています」

アメリアのなんとも要領を得ない回答にセドリックは苛立った。
「私は貴女の夫になったのですよ?私にくらい真実を教えてくれてもよろしいのでは?陛下はいずれ貴女の口から聞くようにと申されました。それは、夫婦になったら隠し事はしないようにということではないのですか⁈」

問いただしながらもセドリックは自分の矛盾に気づいてはいた。
そもそも自分たちは式を挙げただけで未だ夫婦としての生活など送っていない。
二ヶ月間も新妻を放置していたくせにどの口が言うのかと思う。
だが、振り上げた拳はなかなか下ろせない。

「貴女は矛盾だらけだ!噂は嘘だ、信じろと言いながら真実を話さない。そんな人間を、誰が信じますか⁈」
たまらずセドリックが声を荒げた時、アメリアの瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。
ハッと息を飲む暇もなく、次々と涙は彼女の頬を伝っていく。
それは胸を衝かれるような美しい涙だったが、セドリックの胸はかえってスッと冷えた。

「女はいいですね。泣けば、全て許されると思っている」
「違います!私はただ閣下に申し訳なくて…!」
「言い訳はもういい」
セドリックは冷たく言い放った。

「貴女を信じることは出来ない。だが、最初に言ったとおり、義務は果たしてもらいましょう」

その夜、セドリックはアメリアの寝室を訪れた。
あの夜以来、初めての訪問だった。
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