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第二章 アメリア
朝
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カーテンの隙間から射す僅かな光で、アメリアは目を覚ました。
隣にもうセドリックの姿はなく、アメリアは怠い体を励ましてのろのろと起き上がった。
体にベタつきもなく清潔な寝衣を着ているが、昨夜気を失うように眠ってしまったアメリアに着替えた記憶はない。
誰かが眠ったままのアメリアにそうしてくれたのは明らかだ。
アメリアはたまらなく恥ずかしくなって、自分の体を隠すように抱きしめた。
昨夜のセドリックは恐ろしかった。
覚悟はしていたはずなのに、痛みと恐怖から何度も逃げ出したくなった。
でも、公爵家に嫁いだ以上後継を生むのは妻のつとめだ。
そう自分に言い聞かせて、あの嵐のような時間を耐えたのだ。
アメリアは自分の体を見下ろすと、そっと下腹部に手を当て、呟いた。
(赤ちゃん、きてくれるといいな)
もし赤ちゃんが生まれたら、自分の愛情全てを注いで、全身全霊で可愛がるだろう。
セドリックからは『貴女を愛することはない』とはっきり伝えられている。
それなのに彼は王命だからと、アメリアを娶ってくれたのだ。
そしてこうして、妻のつとめに協力してくれている。
実際、自分が後継を生む道具のように扱われていることは自覚している。
そのことにやり場のない切なさを感じはするが、『仕事』と割り切れば怒る気持ちもない。
アメリアを娶ったせいで自分の好みの女性を迎えられないセドリックの方が気の毒だと思う。
そうだ、好きでもない女を抱かなければならないセドリックはもっと可哀想だ。
感謝するならともかく怖がるなんて、申し訳ないと思う。
(本当は、少しずつ歩み寄れればいいと思っていたんだけど…)
その想いは砕けてしまったけれど、とにかくセドリックはアメリアに妻の役目を果たさせてくれたのだ。
セドリックはクラーク王に引き合わされた時がアメリアとの初対面だと思っているだろうが、実はアメリアにとってはそうではない。
セドリックは隣国ソルベンティアを追い払った英雄で、彼を知らない人間などこの国にはいないと思う。
そう、アメリアにとっても、セドリックはずっと憧れの人だったのだ。
だから多分アメリアは、セドリックを甘く見ていたのだと思う。
英雄セドリックであっても下世話な噂を信じるような普通の男であるとは、考えもしなかったのだ。
それに、自分の悪い噂が辺境にまで浸透しているとは思っていなかったのである。
(あの立派で実直そうな公爵様が、世間の噂など信じるはずがない)
それはアメリアの希望的観測でしかなかった。
セドリックはアメリアを国王の養女としてあたたかく迎えてくれると期待していたのだ。
だが、セドリックが噂を信じ、アメリアを国王から下げ渡された女だと蔑んでいるのはすぐに理解した。
国王を通じて紹介された時、彼の目には失望と落胆の色がありありと見えたからだ。
しかしそれでもまだ希望を失ってはいなかった。
結婚して王都を離れれば嫌な噂も落ち着くだろう。
彼の領地で、新しい気持ちで、公爵夫人として頑張ろう。
そして公爵様に誠を尽くし、領民にも公爵夫人として尽くせば、そうすればきっとセドリックも本当のアメリア自身を見てくれるはずだ。
しかし、期待は脆くも崩れ去った。
(噂の言い訳もできずに受け入れてもらおうなんて、本当に自分勝手な考えだったわね)
アメリアはそう自嘲するように笑い、鏡に目をやった。
そこには、昨日までとは違う自分が映っているような気がする。
アメリアが抱えている秘密は王家の醜聞で、いかに夫婦であろうとも簡単に話せることではない。
しかし、彼と気持ちが通じ合ったら…、そうしたら、秘密を打ち明けようと思っていた。
だが、そもそも気持ちが通じ合うはずがなかったのだ。
潔白を証明しないまま信じてもらおうなんて、とんでもなく虫のいい話だったのだから。
隣にもうセドリックの姿はなく、アメリアは怠い体を励ましてのろのろと起き上がった。
体にベタつきもなく清潔な寝衣を着ているが、昨夜気を失うように眠ってしまったアメリアに着替えた記憶はない。
誰かが眠ったままのアメリアにそうしてくれたのは明らかだ。
アメリアはたまらなく恥ずかしくなって、自分の体を隠すように抱きしめた。
昨夜のセドリックは恐ろしかった。
覚悟はしていたはずなのに、痛みと恐怖から何度も逃げ出したくなった。
でも、公爵家に嫁いだ以上後継を生むのは妻のつとめだ。
そう自分に言い聞かせて、あの嵐のような時間を耐えたのだ。
アメリアは自分の体を見下ろすと、そっと下腹部に手を当て、呟いた。
(赤ちゃん、きてくれるといいな)
もし赤ちゃんが生まれたら、自分の愛情全てを注いで、全身全霊で可愛がるだろう。
セドリックからは『貴女を愛することはない』とはっきり伝えられている。
それなのに彼は王命だからと、アメリアを娶ってくれたのだ。
そしてこうして、妻のつとめに協力してくれている。
実際、自分が後継を生む道具のように扱われていることは自覚している。
そのことにやり場のない切なさを感じはするが、『仕事』と割り切れば怒る気持ちもない。
アメリアを娶ったせいで自分の好みの女性を迎えられないセドリックの方が気の毒だと思う。
そうだ、好きでもない女を抱かなければならないセドリックはもっと可哀想だ。
感謝するならともかく怖がるなんて、申し訳ないと思う。
(本当は、少しずつ歩み寄れればいいと思っていたんだけど…)
その想いは砕けてしまったけれど、とにかくセドリックはアメリアに妻の役目を果たさせてくれたのだ。
セドリックはクラーク王に引き合わされた時がアメリアとの初対面だと思っているだろうが、実はアメリアにとってはそうではない。
セドリックは隣国ソルベンティアを追い払った英雄で、彼を知らない人間などこの国にはいないと思う。
そう、アメリアにとっても、セドリックはずっと憧れの人だったのだ。
だから多分アメリアは、セドリックを甘く見ていたのだと思う。
英雄セドリックであっても下世話な噂を信じるような普通の男であるとは、考えもしなかったのだ。
それに、自分の悪い噂が辺境にまで浸透しているとは思っていなかったのである。
(あの立派で実直そうな公爵様が、世間の噂など信じるはずがない)
それはアメリアの希望的観測でしかなかった。
セドリックはアメリアを国王の養女としてあたたかく迎えてくれると期待していたのだ。
だが、セドリックが噂を信じ、アメリアを国王から下げ渡された女だと蔑んでいるのはすぐに理解した。
国王を通じて紹介された時、彼の目には失望と落胆の色がありありと見えたからだ。
しかしそれでもまだ希望を失ってはいなかった。
結婚して王都を離れれば嫌な噂も落ち着くだろう。
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しかし、期待は脆くも崩れ去った。
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アメリアはそう自嘲するように笑い、鏡に目をやった。
そこには、昨日までとは違う自分が映っているような気がする。
アメリアが抱えている秘密は王家の醜聞で、いかに夫婦であろうとも簡単に話せることではない。
しかし、彼と気持ちが通じ合ったら…、そうしたら、秘密を打ち明けようと思っていた。
だが、そもそも気持ちが通じ合うはずがなかったのだ。
潔白を証明しないまま信じてもらおうなんて、とんでもなく虫のいい話だったのだから。
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