さげわたし

凛江

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第一章 セドリック

アメリアの日常③

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そして今日の報告。

「釣った魚を食べた…、だと?」
女性騎士カリナの言葉に、セドリックは耳を疑った。

セドリックとアメリアが結婚して、早二ヶ月が過ぎた。
その間アメリアは度々公爵邸を出て、虫捕りやらハイキングやらに出かけている。
どう見ても公爵夫人とは見えない格好だから領民にバレる心配はしていないが、それでも危ない目に合わぬよう、セドリックはそれなりに気を配っている。
常に護衛に付いているカリナ以外にも、陰でアメリアを見守る護衛を付けているのだ。

「そんなに奥様が気になるなら会いに行かれたらよろしいのに」
そうトマスやソニアに言われるが、セドリックは断じてアメリアのことが気になるのではない。
王家からの預かり人…、そう、国王陛下の大事な女性だから気を配らなくてはならないのだ。

そして朝から晴天の今日、アメリアはまたハンナとカリナを伴ってハイキングに出かけた。
公爵邸からはかなり歩くが、初心者が登るのにはちょうど良い山がある。

「今日の奥様はハイキングの途中、川で釣りをするとおっしゃいまして」
カリナの報告にセドリックは目を丸くした。
「釣りだと?ハイキングではなかったのか?」
「最初から釣りが目的だったらしく、釣竿を持参されておりました。私たちは全く釣れないのに、奥様は釣りの名人なのか五匹も釣られまして。おかげでハンナも私も、バートとエイベルまで美味しく川魚をいただきました」

「待て。バートとエイベルと言ったか?」
「はい。奥様は慣れた手付きで魚に串を刺すと、河原で火をおこし、塩焼きにしてくれまして、」
「バートとエイベルも食べたのか?」
「ええ。あの二人もこんな美味い魚の塩焼きを食べたのは初めてだと、それは喜んでおりました」
「………」
セドリックは呆れ果て、怒る気も失せた。

バートとエイベルは、カリナの他に付けたアメリアの陰の護衛だ。
二人とも当然最初からアメリアに対して良い感情は持っておらず、アメリア付きに指名された時は不満を隠そうともしていなかった。
仕事と割り切って任務に当たるよう指示し、仕方なく付いていたはずが、いつの間にか表に出て馴染んでいるなどと。

カリナといいバートとエイベルといい、皆何故かアメリアに絆されていくのだ。
「因みに、旦那様の分はございません」
カリナはそう言うとジトッとした目で、目の前の執務机に座るセドリックを見下ろした。

以前のカリナの眼差しにセドリックは尊敬と憧れを感じていたのだが、最近の彼女は時々こんな目で主人を見る。
毎日報告してもアメリアに対する態度を変えない主人に呆れているのだろう。
セドリックはもう二ヶ月もの間、離れに新妻を放置したままなのだ。

いい加減顔くらい出さなければとは自分でも思うのだが、どうしても忘れられないのだ。
あの、例の初夜の晩、彼女に吐き気さえ覚えたことを。

だが、セドリックの記憶の中のアメリアとカリナたちの目を通して見る彼女があまりにも違いすぎて、セドリックは戸惑っていた。
噂の中の、彼が思っていた『国王の秘密の恋人アメリア』と全く違うのだから。
いや、アウトドア好きな令嬢でも道ならぬ恋に走ることはあるだろうし、国王が変わった趣味を持つ彼女に惹かれたというのも十分あり得る話ではあるが。

「明日はいよいよ蔓なし豆の収穫なんです。採れたてはさぞ美味しいでしょうね。本当に楽しみです」
ジト目をやめて朗らかに報告するカリナに、セドリックは複雑な目を向けていた。
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