さげわたし

凛江

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第一章 セドリック

アメリアの日常②

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それから数日後の家令トマスの報告。
アメリアはハンナと一緒に数種類の液体を混ぜ合わせて何やら怪しげなものを作っていたらしい。
一体何をしているのか気になったトマスはを兼ねて手伝っていたのだが、どうやらそれは人間に害は無いが害虫駆除の効用がある液体ということだった。
アメリアはその完成した液体を器に入れると、丁寧に野菜の葉に吹きかけていたという。
「奥様はか弱そうな方なのに、虫が平気なのですね。それにとても賢い方です。あんな液体が虫除けになるなど、感動いたしました」
そう言ってトマスはしきりに感心していた。
アメリアが熱心に図書室で調べていたのも、こういった野菜作りのためだったのかもしれないというのだ。
セドリックは「トマス、おまえもか」と呟くと頭を抱えた。

一ヶ月近く離れで農作業ばかりしていたアメリアは、公爵邸の外に出たいとソニアを通じて伝えてきた。
別にセドリックは、アメリアが公爵邸から出ることを禁じてはいない。
観劇などの娯楽や、買い物をするために街に出たいと彼女が言えばそれも許すつもりだった。
お披露目も社交もさせてはいないが、それでも領民はアメリアを見れば公爵夫人だと気づくかもしれない。
だがセドリックにそこまでアメリアを縛る権限はないし、もし身元がバレて彼女が嫌な思いをすることになっても、それは仕方がないことだろうと思う。
そういうわけでセドリックは、カリナという女性騎士をアメリアの護衛騎士に指名し、外出を許可した。
カリナはサラトガ公爵家の騎士団に所属する、二十歳の若き女性騎士である。
このカリナに、セドリックは絆されてしまったソニアに変わってアメリアの生活を報告させることにしたのである。

カリナがアメリアの護衛騎士についてすぐの、天気の良いある日のこと。
アメリアはハンナとカリナを伴って、公爵邸を出て少し離れた場所にある草原に向かった。
その外出の報告に来たカリナな開口一番。
「奥様は本当に楽しそうで、とても演技をされているようには見えません。王都での悪い噂も、何かの間違いなのではないでしょうか」
(カリナ、おまえまで…)
セドリックは開いた口が塞がらなかった。
セドリックがカリナをアメリア付きに指名したのは、これまでの彼女を見て、彼女は他人に左右されることなく公平な目を持っていると思ったからである。
しかしいくら公正なカリナでも、アメリアの悪い噂を耳にして彼女に良い感情を持っていたとは思えない。
そのカリナが、アメリア付きになって時が経たないうちに噂の真偽に疑問を投げかけてきたのだ。
アメリアに関わると、何故か皆絆される。
セドリックは余計な先入観を入れずに報告だけするようカリナに念を押した。

公爵邸を出て草原に向かったアメリアだが、やはりいつものように質素な格好をしていたため、領民にすれ違っても誰からも公爵夫人だとは気づかれなかった。
アメリアが草原に行きたがったのは、てんとう虫を探すためだったという。
てんとう虫は野菜に付く害虫アブラ虫などを食べてくれるのだ。
報告を聞きながら、そう言えばサラトガ領に入ってすぐ麦畑を見た時のアメリアもてんとう虫を見て微笑んでいたと、セドリックは思い出した。
しばらく虫捕りを楽しんだアメリアは、次にもう農地として使用されていない耕作放棄地に向かった。
そこに着くと地面にからしを混ぜた水を撒いたらしい。
そうすると、ミミズを捕りやすいらしいのだ。
ミミズは土を良くしてくれる。
アメリアはそう言って微笑んだという。
虫捕りに疲れた三人はそこで持参した弁当を食べた。
簡素なサンドイッチだったらしいが、青空の下、程よく疲れた体を休めながら食べるサンドイッチはそれは美味しかったという。
たった数日のうちにかなりアメリアと仲良くなっているカリナに、セドリックは何故か少しイラッとした。
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