さげわたし

凛江

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第一章 セドリック

アメリアの日常①

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セドリックとアメリアが結婚し、サラトガ領に入ってから一週間が過ぎた。

話していた通りセドリックは仕事が忙しく、全く新婚拠点である離れには近づかない。
離れで寝ることはおろか、アメリアと一緒に食事をとることも、お茶の席さえ共にすることはなかった。

本来なら王都での結婚式だけではなく領地でも結婚式とお披露目をするべきなのだろうが、セドリックはそれさえも忙しさを理由に予定を立てていない。
そこにはただ面倒という理由もあるが、必要以上にアメリアを世間に晒したくないという配慮もあるのは確かだ。
アメリアの噂は貴族社会だけでなく、庶民にも浸透していたからだ。

王家のゴシップは庶民の格好の娯楽の一つである。
だからこんな王都から遠く離れたサラトガ領であっても、出入りの商人などを通じて噂はあっという間に広がっていく。
国の英雄セドリックはサラトガ領の誇りであり崇め奉る存在なのだから、余計に領民たちはアメリアを忌み嫌っているだろう。
セドリックにしてみれば、わざわざそんな中にアメリアを披露して見世物にするのも、国王のお古を押し付けられた領主と自分が憐れんだ目で見られるのも嫌だった。

そんな理由で領民たちにお披露目もされていないアメリアは、当然公爵夫人としての仕事も社交も何もしていなかった。
ただ毎日を離れでのんびりと過ごしていたのである。

侍女長ソニアの元、サラトガ公爵邸の侍女たちは教育が行き届いている。
非常に事務的ではあるが、公爵夫人となったアメリアを丁寧に世話しているはずだ。
だが一週間もするとアメリアは、離れにいるのは自分だけなのだから侍女は必要ないと、ソニアを通じて言ってきた。
ずっとアメリアに付き従ってきたハンナ一人で十分だと言うのだ。

いくら普通の夫婦生活を送る気がなくともアメリアは王家から預かった大事な王女なのだから、セドリックとしては不自由な生活をさせるわけにはいかない。
だが不遜にもアメリア自身が望むのだから仕方がないと、セドリックは要望を受け入れた。

次にアメリアは、公爵家の図書室への出入りを要求してきた。
図書室は本邸内にあるので出入りさせたくなかったセドリックは、アメリアのために離れにも図書室を作ることにした。

図書室が出来るまでのに合わせとして離れの一室に蔵書をかなり移したのだが、アメリアはほぼ毎日のように通い、天気の悪い日などは一日中こもっていることもあるという。
これは、監視するかのように毎日様子を見に行くソニアの報告だ。

そして半月ほど過ぎた頃、アメリアは離れの庭に畑を作る許可を、ソニアを通じて願い出てきた。
聞けば、自分で土を作り、種子から育てたいという。
王女が何故そんなことを…とまず驚いたが、とりあえず許可して様子を見ることにした。

ソニアの報告によると、アメリアは彼女付きの侍女ハンナと二人で、いつから用意していたのかわからないが農家の夫人が着るような質素な服を身につけているという。
そして土をおこし、鶏糞や牛糞などの堆肥を混ぜ、ならした土に種子を撒いていたというのだ。
鍬を振るう姿も堂に入っており、種子を撒く手付きも慣れたものだったらしい。

しかも鶏糞などはかなり匂いがキツいと思うが、嫌な顔もせず、楽しそうにしていたとのこと。
アメリアは国王の養女になる前は子爵令嬢だったはずだが、それでも畑を耕すのはおかしな話である。

数日後、ソニアからアメリアが蒔いた種子の一部から芽が出てきたと報告があった。
アメリアはハンナと手を取り合って喜んでいたという。

そしてさらに数日後。
「今日は間引きをお手伝いして参りました」
ソニアが楽しそうに報告してくるのを、セドリックは目眩を覚えそうになりながら聞いた。

ソニアはアメリアを敵視する最先鋒だったはずだ。
それがこの手のひらを返したような態度は何だろうか。
そんなセドリックを気にもとめず、ソニアは自慢気に報告する。
「芽をたくさん残しておくと、日が当たらず大きく育たないんだそうです」

最初ソニアは畑を耕す元王女など怪しく思っていたのだが、本当に鍬を振るうアメリアを見るうち、気になって気になって仕方がなくなった。
時間を見つけては見回りと称し離れに出向き、だんだん種蒔きなどを手伝うようになった。
そして今日は出てきた芽の間引きを手伝ってきたという。

「ソニア、おまえ、一体何をしている」
セドリックは額に手を当てた。
「陛下のお古を押し付けられたと一番息巻いていたのはおまえではないか」



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