さげわたし

凛江

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第一章 セドリック

義母と弟妹

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翌日、セドリックは約束通りアメリアを本邸に住む義母と弟妹に紹介した。
セドリックの父親はニ年前に亡くなっており、彼は二十二歳でサラトガ公爵家の当主になっている。
また実母は幼い頃に亡くしていて、今本邸にいるのは父の後妻と、後妻の生んだ弟妹だ。

義母とセドリックはなんというか、今は適度な距離を保っている関係だ。
義母はセドリックが七歳の時に嫁いできたのだが、継子であるセドリックを可愛がるようなタイプの女性ではなく、甘えることなど出来なかった。
実母が亡くなった時まだ祖母が健在だったため、セドリックの養育は主に祖母に委ねられ、そのおかげで継子いじめにあうようなこともなかったが、義母と馴染むこともなかったのだ。

その後続けて弟妹が生まれ、祖母が亡くなると、セドリックは疎外感を感じるようになった。
父は嫡男としてセドリックを大切にはしたが、国境を守るサラトガ公爵家を継ぐ者として厳しく接していた。
しかし弟妹に対しては甘く、セドリックからすると、後妻と四人で仲の良い家族に見えていた。
祖母を亡くして以来、家族に愛されている実感など、セドリックにはなかったのである。

しかしその代わりというか、家令のトマスは父のように、騎士団長のオスカーは兄のように、そして侍女長のソニアは母のように、セドリックを慈しんでくれた。
セドリックはこの絶対的に信用出来る三人に、家族以上の親しみを感じてきたのである。

義母は父が亡くなって以来、以前にも増して必要以上にセドリックと接することを避けているようだ。
伝え聞く義母の言動によると、本当は自分が生んだ、溺愛する息子マイロを後継にして欲しかったのだろう。
しかし父は、それだけは頑として受け入れず、セドリックを後継から外すことはなかった。
セドリックはすでに初陣で華々しい活躍をし、『王国の盾』であるサラトガ家の名をさらに挙げたのだから。

その後父が死んでセドリックが公爵家を継ぎ、今や国の英雄としてさらに名を挙げ、そして王女を妻に迎えたのだから、義母としては複雑なのだろう。
マイロは成人したら分家して、サラトガ家で持つ爵位の一つを継ぐ予定である。
この先義母が大人しくそれに従うのか、又はやはりマイロへの継承を諦めきれず虎視眈々と狙っているのか、セドリックにはわからない。

一方弟と妹に関しては、それなりに良い関係を保っているとセドリックは思う。

弟マイロは十五歳だが、英雄である兄を尊敬し、慕っている。
今はサラトガ家の男子として、サラトガ騎士団の訓練を受けているところだ。
マイロが騎士団に入ったのは父が亡くなる少し前。
幼い頃から見習い騎士として特訓を受け武勇の才を見出されたセドリックとは違い、マイロは義母に甘やかされ、危ないものからは遠ざけられて育てられた。
義母としては、戦いに出るのは下々の者の役割と思っていたのだろう。
父もなかなか義母の願いを拒否出来なかったのだろうが、しかしサラトガ家は武勇を誇る家門であって、避けて通る事は出来ない。
父は母の反対を押し切ってマイロを騎士団の見習い騎士としたのだ。
そのため今、マイロは自分よりも年下の者やずっと身分が下の者に教えを乞う立場なのだが、しかしなんとか尊敬する兄に少しでも近づきたいと歯を食いしばって頑張っている。

そして妹はイブリンといって、現在十二歳。
やはり義母に甘やかされて少々わがままな少女ではあるが、マイロと同様セドリックを慕っている。
セドリックも義母とは距離を置いているものの、血の繋がった妹を嫌ってはいない。
イブリンにしてみれば自分の兄が国の英雄であり、しかも眉目秀麗で令嬢たちの憧れの的なのだから、自慢に思いこそすれ嫌うはずはないのだろう。

セドリックが義母と弟妹たちにアメリアを紹介した時、義母は儀礼的に挨拶しただけであった。
歓迎の言葉も労いの言葉も、何も付け加えられることはなかった。
マイロもまた王家から降嫁した義姉に対して丁重な挨拶をしたが、その瞳は冷たいものであった。
噂通り、王家から兄に押し付けられた悪女とでも思っているのだろう。
そしてイブリンのそれは、二人よりもさらにあからさまな態度であった。
始終敵意のこもった目を向けられ、アメリアはさぞかし居心地が悪かったことであろう。

挨拶を終えて離れへ引き上げると、セドリックはアメリアにこう言った。
「あの三人とはこれから先関わらなくて結構です。まぁ、本邸に出向かなければ会うこともないでしょうし」
要するに、離れから出るなということなのだろう。
アメリアは「はい」とか細い声で答え、小さく頷いた。
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