さげわたし

凛江

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第一章 セドリック

初夜?①

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晩餐後、公爵家の侍女たちはアメリアの夜の準備を整えた。
侍女たちは黙々と、だが丁寧に仕事を熟しこなていく。
時々アメリアが何気ない雑談をしようとしても、彼女たちは返事はするが一切無駄口をきかない。
無視はしないが親しくするつもりもないという気配が公爵家の使用人皆から感じられ、アメリアの侍女ハンナは唇を噛んだ。

侍女たちの手で磨き上げられ真っ白な薄絹の寝衣を纏ったアメリアは、正直息を呑むほど美しかった。
侍女たちも『これでは旦那様も絆されてしまうのではないか』と心配になるほどに。
でも実際、セドリックの心はともかく『その気』になってもらうようにはしなければならない。
王家から降嫁してきた妻である以上、旦那様の後継を生んでもらわなくてはならないのだから。

セドリックは夜の支度が整うと、妻の部屋へ向かった。
いくら気に入らない妻でも初夜に放っておくわけにはいかないし、話さなければならないこともある。
扉を軽く叩くと中から「はい」と小さな声が聞こえ、扉を開けるとアメリアは立ち上がってこちらに向き直ったところだった。

『王家の盾』であり剛毅な家風を持つサラトガ家は、全体的に質実剛健でシンプルなものを好む。
この離れももちろんそうなのだが、公爵夫人の部屋として設えられたこの部屋は違っていた。
優美な形の照明器具やフリルがふんだんに使われたカーテンなど、可愛らしく優雅な雰囲気に仕上がっている。

そんな中に所在無さげに立っている妻に、セドリックは目を見張った。
透けて見えてしまうのではないかと思うような薄衣を纏ったアメリアは、まるでセドリックの視線から逃れるように両腕を胸の前で組み、恥ずかしそうに立っていた。
その姿は官能的と言うよりは清らかで儚げで、思わず庇護欲を掻き立てられてしまいそうなほどだ。

でもこのいかにも初々しい様子に騙されてはいけない。
おそらくこの清楚な色気に、国王も惑わされたのだろうから。
この少女のような雰囲気の陰で彼女は国王の愛人だったのだ。
処女おとめでもないだろうに恥じらう素ぶりを見せるとは、なんとしたたかな女なのだろう。
そう思うと、セドリックの心は冷水をかけられたようにスッと冷えた。

セドリックは黙って歩み寄るとベッドに座り、手でアメリアにも座るよう促した。
アメリアは恥ずかしそうに頷くと、セドリックの隣に半身分くらい間を空けて腰をおろす。
セドリックが要件を伝えようと隣を見下ろすと、アメリアは潤んだ目で彼を見上げていた。

(まさか、期待しているのか?)
ベッドに並んで腰かけたりしたから、勘違いさせたのかもしれない。
それにしても先日まで散々クラーク王に愛されていただろうに、平然と違う男を寝室に迎え入れるとはー。
(吐き気がするー)
セドリックは目を逸らすと、アメリアからさらに距離をとった。
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