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【番外編】Happy Wedding!! 〜隻眼王子は新妻とイチャイチャしたい〜
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「後悔してるの?俺と結婚すること」
「え…っ?」
ハロルドの言葉に、フレイアは驚いたように顔を上げた。
「でももう戻れないよ?だって俺たちには、」
「違うわ」
フレイアはハロルドの目に不安の色が滲んでいることに気づいて、一瞬にして自分の失言を悔やんだ。
彼をこんな顔にさせられるのは自分だけだとわかっているはずなのに、また彼を傷つけるようなことを言ってしまったから。
フレイアは慌てて否定の言葉を口にした。
「後悔なんてするはずないわ。ただ、ちょっと怖くなっちゃって。こんなに幸せでいいのかなって、」
「フレイア」
ハロルドはフレイアの唇に人差し指を押し当てた。
「間違ってるよ、フレイア。君が幸せだと思う以上に、絶対に俺の方が幸せだから」
言いながら、彼女の腰を抱き寄せる。
「こんな台詞聞き飽きてるかもしれないけど。こんなに可愛らしいのにカッコよくて、強くて優しくて優秀な君を妻に迎えられる俺は、多分この世で一番幸せな男だと思う」
「ハル…」
フレイアは頬を染めてハロルドを見上げた。
たしかに今までもハロルドは『可愛い』とか『綺麗だ』とか惜しげも無く言ってくれていたけど、今日はさらにパワーアップしている気がする。
でも、素直に嬉しいとは思う。
だって1度目の結婚式では、新郎に褒められることもなく、笑顔さえ、いや、笑うなとまで言われたのだから。
「あのね、ハル」
ハロルドに抱き寄せられたまま、フレイアは軽く首を傾げる。
「ん?」
「私たち、別居婚になるでしょう?」
「うん」
夫のハロルドはもう時期タンタルの宰相になる予定であり、一方妻のフレイアはビスマス領主である。
それぞれ仕事があるため、離れて暮らすのが前提の結婚だ。
「私は宰相夫人になるのに…、側で、宰相としてのハルを支えることは出来ないわ。それは、やっぱり申し訳ないと思ってるの」
「今さら何言ってるの?それはこの半年間話し合って、二人で決めたことだろ?」
「うん…、でもね、あらためて、ありがとうって言いたいの。こんな、全く王弟妃としても、宰相夫人としても役に立たない私をもらってくれてありがとう、ハル。私の我儘を聞いてくれてありがとう」
「違う。これは俺の望みでもあるんだから」
結婚したら一緒にタンタルで暮らし、ビスマスには代理領主を置く案もあった。
だが、却下したのはハロルドの方だ。
ハロルドは結婚するからといって、フレイアをただの妻にしてしまおうなどとは、最初から露ほども思っていなかった。
本音を言えば、愛おしい彼女を片時も離したくはない。
でも普通の王族や貴族のように、夫を支える妻になって欲しいわけではないのだ。
ハロルドは、領主として、経営者として、創作者としてのフレイアがいかに有能で、いかに輝いているのかを知っている。
そしてビスマス領の民がいかに彼女を信頼し、誇りに思っているのかも。
結婚してもそれぞれの場でそれぞれの役割を果たす。
それぞれの足で立って、その先で同じ方向を向いて行ければ、それが一番いいと思う。
「俺は、いつだって凛として前を向いてるフレイアが好きだ。それに…、君は、普通の奥様に出来ないことがたくさん出来るよね」
「そうね。私には速く走れる足があるし、馬に乗れる技術もあるし、敵と戦える剣の腕も、弓矢の心得もあるわ。万が一のことがあれば貴方と一緒に、貴方を守って戦う腕がある…って、なんだか奥さんて言うより傭兵みたいね」
「頼もしい奥様だね」
「そう?」
「じゃあ俺は、万が一にも君が戦うような事態にならないよう、君も、国も守るって約束するよ」
「ハル…」
見つめあい、さらに距離が近くなる二人。
ハロルドはフレイアの柔らかな頬に手を添える。
「フレイア…」
「おい」
ハロルドが顔を寄せた瞬間、突然背後から声がかけられた。
「そういうのは式が終わってからにしてくれないか?みんな待っているんだが」
仏頂面で仁王立ちしているのは、フレイアの兄でアルゴン王太子サイラスだ。
溺愛する妹の結婚式に駆けつけたサイラスは、これから式が始まるというのにいつまでも姿を現さない主役二人に焦れて迎えに来たようだ。
しかも当の二人は今にも唇が触れ合ってしまいそうな距離でイチャイチャしていて、サイラスは軽く苛立った。
「だいたい式もまだなのに、誓いのキスは早すぎるんじゃないか?」
「妬くなよ、サイラス。そういう自分は成婚式までキスもしなかったのか?ねぇ、義姉上」
キスを寸止めされて不機嫌顔のハロルドは、サイラスの妻で彼の後ろにいた王太子妃のソラリスに目を向ける。
フレイアの侍女であったソラリスをサイラスが何年もかけて口説き落としたのはすでに有名な話だ。
突然話を振られたソラリスはぽっと頬を染めると、ハロルドの問いには答えず俯いた。
そんな妻を見たサイラスは余計にムキになって、「うるさい」とハロルドの肩を軽く押した。
そしてフレイアの手を掴み、グイッと引っ張った。
「キャッ!お兄様!」
フレイアがよろけそうになるのを、サイラスが抱き止める。
そのままサイラスはフレイアを抱きしめ、ハロルドに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「式で宣誓するまではまだおまえのものじゃないぞ?俺の可愛い妹だ」
少々揶揄ってやるつもりだったのに、だがハロルドはそんなサイラスを見て本気で怒り出した。
「おい、乱暴にするなよサイラス!」
「なんだよ、大袈裟なヤツだな。ちょっと引いただけだろう?」
「ちょっとだと⁈フレイアの体に触るだろ!!」
「え…っ?」
ハロルドの言葉に、フレイアは驚いたように顔を上げた。
「でももう戻れないよ?だって俺たちには、」
「違うわ」
フレイアはハロルドの目に不安の色が滲んでいることに気づいて、一瞬にして自分の失言を悔やんだ。
彼をこんな顔にさせられるのは自分だけだとわかっているはずなのに、また彼を傷つけるようなことを言ってしまったから。
フレイアは慌てて否定の言葉を口にした。
「後悔なんてするはずないわ。ただ、ちょっと怖くなっちゃって。こんなに幸せでいいのかなって、」
「フレイア」
ハロルドはフレイアの唇に人差し指を押し当てた。
「間違ってるよ、フレイア。君が幸せだと思う以上に、絶対に俺の方が幸せだから」
言いながら、彼女の腰を抱き寄せる。
「こんな台詞聞き飽きてるかもしれないけど。こんなに可愛らしいのにカッコよくて、強くて優しくて優秀な君を妻に迎えられる俺は、多分この世で一番幸せな男だと思う」
「ハル…」
フレイアは頬を染めてハロルドを見上げた。
たしかに今までもハロルドは『可愛い』とか『綺麗だ』とか惜しげも無く言ってくれていたけど、今日はさらにパワーアップしている気がする。
でも、素直に嬉しいとは思う。
だって1度目の結婚式では、新郎に褒められることもなく、笑顔さえ、いや、笑うなとまで言われたのだから。
「あのね、ハル」
ハロルドに抱き寄せられたまま、フレイアは軽く首を傾げる。
「ん?」
「私たち、別居婚になるでしょう?」
「うん」
夫のハロルドはもう時期タンタルの宰相になる予定であり、一方妻のフレイアはビスマス領主である。
それぞれ仕事があるため、離れて暮らすのが前提の結婚だ。
「私は宰相夫人になるのに…、側で、宰相としてのハルを支えることは出来ないわ。それは、やっぱり申し訳ないと思ってるの」
「今さら何言ってるの?それはこの半年間話し合って、二人で決めたことだろ?」
「うん…、でもね、あらためて、ありがとうって言いたいの。こんな、全く王弟妃としても、宰相夫人としても役に立たない私をもらってくれてありがとう、ハル。私の我儘を聞いてくれてありがとう」
「違う。これは俺の望みでもあるんだから」
結婚したら一緒にタンタルで暮らし、ビスマスには代理領主を置く案もあった。
だが、却下したのはハロルドの方だ。
ハロルドは結婚するからといって、フレイアをただの妻にしてしまおうなどとは、最初から露ほども思っていなかった。
本音を言えば、愛おしい彼女を片時も離したくはない。
でも普通の王族や貴族のように、夫を支える妻になって欲しいわけではないのだ。
ハロルドは、領主として、経営者として、創作者としてのフレイアがいかに有能で、いかに輝いているのかを知っている。
そしてビスマス領の民がいかに彼女を信頼し、誇りに思っているのかも。
結婚してもそれぞれの場でそれぞれの役割を果たす。
それぞれの足で立って、その先で同じ方向を向いて行ければ、それが一番いいと思う。
「俺は、いつだって凛として前を向いてるフレイアが好きだ。それに…、君は、普通の奥様に出来ないことがたくさん出来るよね」
「そうね。私には速く走れる足があるし、馬に乗れる技術もあるし、敵と戦える剣の腕も、弓矢の心得もあるわ。万が一のことがあれば貴方と一緒に、貴方を守って戦う腕がある…って、なんだか奥さんて言うより傭兵みたいね」
「頼もしい奥様だね」
「そう?」
「じゃあ俺は、万が一にも君が戦うような事態にならないよう、君も、国も守るって約束するよ」
「ハル…」
見つめあい、さらに距離が近くなる二人。
ハロルドはフレイアの柔らかな頬に手を添える。
「フレイア…」
「おい」
ハロルドが顔を寄せた瞬間、突然背後から声がかけられた。
「そういうのは式が終わってからにしてくれないか?みんな待っているんだが」
仏頂面で仁王立ちしているのは、フレイアの兄でアルゴン王太子サイラスだ。
溺愛する妹の結婚式に駆けつけたサイラスは、これから式が始まるというのにいつまでも姿を現さない主役二人に焦れて迎えに来たようだ。
しかも当の二人は今にも唇が触れ合ってしまいそうな距離でイチャイチャしていて、サイラスは軽く苛立った。
「だいたい式もまだなのに、誓いのキスは早すぎるんじゃないか?」
「妬くなよ、サイラス。そういう自分は成婚式までキスもしなかったのか?ねぇ、義姉上」
キスを寸止めされて不機嫌顔のハロルドは、サイラスの妻で彼の後ろにいた王太子妃のソラリスに目を向ける。
フレイアの侍女であったソラリスをサイラスが何年もかけて口説き落としたのはすでに有名な話だ。
突然話を振られたソラリスはぽっと頬を染めると、ハロルドの問いには答えず俯いた。
そんな妻を見たサイラスは余計にムキになって、「うるさい」とハロルドの肩を軽く押した。
そしてフレイアの手を掴み、グイッと引っ張った。
「キャッ!お兄様!」
フレイアがよろけそうになるのを、サイラスが抱き止める。
そのままサイラスはフレイアを抱きしめ、ハロルドに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「式で宣誓するまではまだおまえのものじゃないぞ?俺の可愛い妹だ」
少々揶揄ってやるつもりだったのに、だがハロルドはそんなサイラスを見て本気で怒り出した。
「おい、乱暴にするなよサイラス!」
「なんだよ、大袈裟なヤツだな。ちょっと引いただけだろう?」
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