45 / 53
【番外編】20年後のダンス
2
しおりを挟む
(宴の後:拗らせハロルドにご注意!)
「まだ拗ねてるの?ハル」
宴が終わって部屋へ戻ると、フレイアは夫ハロルドを見上げて首を傾げた。
そんなフレイアの仕草はものすごくものすごく可愛いのだが、今のハロルドは騙されない。
「あんな、これ見よがしにクルクル回りやがって…」
などと、いつもの冷徹宰相らしからぬ言葉を呟いている。
セレンが、フレイアをダンスに誘った。
ハロルドは快く妻の手を彼に預けた。
そう、快く。
妻の、元夫に。
セレンの洗練されたダンスにリードされ、フレイアはとても輝いて見えた。
いや、いつも綺麗で可愛い妻なのだが、着飾った今日はさらに輝いていたのだ。
特にフワリと舞った時なんて、ドレスの裾が広がって、なんていうか、こう、妖精みたいな…。
……いやいや、舞う必要なんかあったか?
でも、いや…、今日はセレンが主役だったからな。
花を持たせるのは仕方がない。
だいたい、ドレスの裾が広がったからってなんだ?
そのドレスを脱がせられるのは俺だけだし。
何やらどんどん違う方向に向かっていくハロルドの思考回路を知ってか知らずか、フレイアは呆れたようにため息をついた。
「だいたいダンスなんて嫌いじゃない、ハル」
たしかに。
ハロルドは武術の鍛錬で体を動かすのは好きだが、ダンスは正直不得意だ。
今までもフレイア以外の女性と踊ったことはない。
「でもハル、あれは好きよね?お祭りのダンス」
「うん」
お祭りというのは庶民の祭りで、今も時々お忍びで街に出かける二人は、踊りの輪に入ったりもする。
「来月ビスマスでお蚕様に感謝する祭りがあるわ。そこでまた一緒に踊りましょ?」
「うん。君を360°回してやる。
さっきは180°くらいだったから」
「ハル…、一体何と競ってるの?」
「君を輝かせるのはいつも俺でありたいと思って」
言ってしまって照れ臭くなったのか、ハロルドは頬を赤らめて明後日の方を向いた。
フレイアは両腕を伸ばして夫の頬に両手をやる。
そしてグイッと顔をこちらに向けた。
結婚して17年も経つのに、相変わらずハロルドはフレイアにべた惚れだ。
元騎士としても、また政治家としても有能で辣腕宰相と恐れられているこの人は、しかし愛妻家で子煩悩な父親であることを周囲に隠そうともしない。
そして小さなことに嫉妬するし、すぐに拗ねる。
仕事はさくさく熟すくせに、フレイアが絡むと途端に面倒臭い男になるのだ。
「そんなにまだ安心できないの?」
「…安心してるし信頼もしてる。
でもだから、そういうのじゃなくて、」
「ホント、可愛い人」
フレイアは爪先立ちをすると、グイッとハロルドの首を下に引いた。
自然、ハロルドは少し体を屈めたようになる。
フレイアは彼の眼帯の上にふわりと優しいキスをした。
「好きよ、ハル。何度だって言うわ。私には貴方だけよ」
「…俺も」
ハロルドはフレイアを抱きしめ、吸い寄せられるように口付けた。
もう慣れ親しんでいる唇だが、妻の唇は何度味わっても甘いと思う。
ハロルドは角度を変え、啄むようなキスを繰り返す。
家にいるとたいていこの辺で子どもたちの邪魔が入るのだが、今日は部屋に2人きりだ。
調子に乗ったハロルドはヒョイッとフレイアを抱き上げるとクルリと一回転した。
そして、トスンとベッドの上におろした。
「ちょっと、ハル⁈」
睨むように見上げる妻に覆いかぶさった夫は、満面の笑みで見下ろす。
「では俺への愛を確かめさせて?フレイア」
「なっ…!ここ、テルル王宮…!」
「うん。なんか燃えるよね」
「燃えるって…!それに、色々準備が…!(避妊とか避妊とか避妊とか…!)」
「いいだろ?別に。俺、もう1人欲しいと思ってたし」
「…バカハル…ッ!」
抗議の言葉はハロルドの唇に吸い込まれた。
その後タンタル宰相とビスマス領主の間には、年の離れた四人目の子供が生まれた……、らしい(笑)。
おしまい
またコメディになってしまいました。
ハロルドのキャラがどんどん崩壊していくような…?
「まだ拗ねてるの?ハル」
宴が終わって部屋へ戻ると、フレイアは夫ハロルドを見上げて首を傾げた。
そんなフレイアの仕草はものすごくものすごく可愛いのだが、今のハロルドは騙されない。
「あんな、これ見よがしにクルクル回りやがって…」
などと、いつもの冷徹宰相らしからぬ言葉を呟いている。
セレンが、フレイアをダンスに誘った。
ハロルドは快く妻の手を彼に預けた。
そう、快く。
妻の、元夫に。
セレンの洗練されたダンスにリードされ、フレイアはとても輝いて見えた。
いや、いつも綺麗で可愛い妻なのだが、着飾った今日はさらに輝いていたのだ。
特にフワリと舞った時なんて、ドレスの裾が広がって、なんていうか、こう、妖精みたいな…。
……いやいや、舞う必要なんかあったか?
でも、いや…、今日はセレンが主役だったからな。
花を持たせるのは仕方がない。
だいたい、ドレスの裾が広がったからってなんだ?
そのドレスを脱がせられるのは俺だけだし。
何やらどんどん違う方向に向かっていくハロルドの思考回路を知ってか知らずか、フレイアは呆れたようにため息をついた。
「だいたいダンスなんて嫌いじゃない、ハル」
たしかに。
ハロルドは武術の鍛錬で体を動かすのは好きだが、ダンスは正直不得意だ。
今までもフレイア以外の女性と踊ったことはない。
「でもハル、あれは好きよね?お祭りのダンス」
「うん」
お祭りというのは庶民の祭りで、今も時々お忍びで街に出かける二人は、踊りの輪に入ったりもする。
「来月ビスマスでお蚕様に感謝する祭りがあるわ。そこでまた一緒に踊りましょ?」
「うん。君を360°回してやる。
さっきは180°くらいだったから」
「ハル…、一体何と競ってるの?」
「君を輝かせるのはいつも俺でありたいと思って」
言ってしまって照れ臭くなったのか、ハロルドは頬を赤らめて明後日の方を向いた。
フレイアは両腕を伸ばして夫の頬に両手をやる。
そしてグイッと顔をこちらに向けた。
結婚して17年も経つのに、相変わらずハロルドはフレイアにべた惚れだ。
元騎士としても、また政治家としても有能で辣腕宰相と恐れられているこの人は、しかし愛妻家で子煩悩な父親であることを周囲に隠そうともしない。
そして小さなことに嫉妬するし、すぐに拗ねる。
仕事はさくさく熟すくせに、フレイアが絡むと途端に面倒臭い男になるのだ。
「そんなにまだ安心できないの?」
「…安心してるし信頼もしてる。
でもだから、そういうのじゃなくて、」
「ホント、可愛い人」
フレイアは爪先立ちをすると、グイッとハロルドの首を下に引いた。
自然、ハロルドは少し体を屈めたようになる。
フレイアは彼の眼帯の上にふわりと優しいキスをした。
「好きよ、ハル。何度だって言うわ。私には貴方だけよ」
「…俺も」
ハロルドはフレイアを抱きしめ、吸い寄せられるように口付けた。
もう慣れ親しんでいる唇だが、妻の唇は何度味わっても甘いと思う。
ハロルドは角度を変え、啄むようなキスを繰り返す。
家にいるとたいていこの辺で子どもたちの邪魔が入るのだが、今日は部屋に2人きりだ。
調子に乗ったハロルドはヒョイッとフレイアを抱き上げるとクルリと一回転した。
そして、トスンとベッドの上におろした。
「ちょっと、ハル⁈」
睨むように見上げる妻に覆いかぶさった夫は、満面の笑みで見下ろす。
「では俺への愛を確かめさせて?フレイア」
「なっ…!ここ、テルル王宮…!」
「うん。なんか燃えるよね」
「燃えるって…!それに、色々準備が…!(避妊とか避妊とか避妊とか…!)」
「いいだろ?別に。俺、もう1人欲しいと思ってたし」
「…バカハル…ッ!」
抗議の言葉はハロルドの唇に吸い込まれた。
その後タンタル宰相とビスマス領主の間には、年の離れた四人目の子供が生まれた……、らしい(笑)。
おしまい
またコメディになってしまいました。
ハロルドのキャラがどんどん崩壊していくような…?
124
お気に入りに追加
7,421
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」
伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。
そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。
アリアは喜んでその条件を受け入れる。
たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ!
などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。
いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね?
ふりですよね? ふり!!
なぜか侯爵さまが離してくれません。
※設定ゆるゆるご都合主義

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。