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【番外編】もう一度
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「この木が植樹されて…初めて蕾を見つけた時、隣に居たのは例の彼でしたの」
桜を見上げるエリザベットの横顔を見て、セレンは悟った。
『彼』というのはおそらく亡くなった婚約者のことだろう。
「…忘れられないのですね。たしか、病気で亡くなられたという…」
「いいえ」
セレンの言葉を遮り、エリザベットはキッパリと告げた。
「病気ではありませんわ。表向きそのように公表されましたが、病気ではないのです」
「どういう意味でしょう?」
セレンが訝しげにたずねる。
するとエリザベットはセレンに向き直り、自嘲するように小さく笑った。
「私の婚約者様は…、それはそれは、大変女性におモテになりましたの。私、とても苦労いたしましたわ。たくさんの令嬢たちから妬まれて、嫉まれて。あの方散々浮気を繰り返すくせに婚約解消には同意してくださらなくて。王女の身分を傘に来て、彼を縛り付けているとまで噂されましたわ」
エリザベットは記憶を手繰り寄せるようにポツポツと語る。
セレンは黙って彼女の話を聞いていた。
「ある日の夜会でのことなのですけど…。彼にのぼせ上がって袖にされた令嬢に逆恨みされまして、私襲われましたのよ、刃物で」
「それは…!お怪我はなかったのですか?」
「彼が…、私を庇って、彼が刺されましたの」
「まさか、それで?」
「そんな、亡くなるほどの大怪我だとは思わなかったのですが、怪我から菌が回ったのでしょう。八日後に容体が急変いたしまして。…そのまま儚くなってしまいましたわ。でも女に刺されて亡くなるなど不名誉なことですから、公爵家では病気による急死と公表いたしました。夜会での事件で多くの人が見ていましたから、隠し覆すのも困難でしたけれど。公然の秘密ということですかしらね」
エリザベットは淡々と語り続ける。
セレンはこれほど重い話だと思わず聞いてしまったことを後悔しそうになっていた。
彼女が婚約者を亡くしていることは事前に知っていたが、詳しいことまでは知らなかったからだ。
一度目の結婚で、妻になる人に会う前に仕入れた情報を鵜呑みにして失敗したセレンは、今回は相手に会うまで極力余計な情報は入れないようにしていた。
だから例え重い話であっても、彼女の口から最後まで聞かなくてはいけないと思う。
「あの方…、亡くなる前の晩も、笑っていたのです。もう女性は懲り懲りだと。これからは私に誠を尽くすから、今までのことは許して欲しいと。勝手ですわよね?」
セレンは耳が痛かった。
立場も境遇も全く違うが、つい自分と重ね合わせて聞いてしまう。
だが…。
「本当に馬鹿な人。遊んでいたのは、私を妬かせたかったなどと馬鹿なことを言っておりましたのよ?それが原因で死んでしまっては、元も子もないでしょうに」
違うのは、そんな酷い扱いをされていたにもかかわらず、王女がなんとも愛おしそうに話すことだ。
「あんなに遊んでいながら、私を愛してくれていたようなのです。そのことを、私はあの方に庇われて初めて知りましたの。ずっと信じてなんかいませんでしたわ。だってお互い割り切った政略結婚だと思っておりましたから」
「貴女も愛していたのですね?婚約者殿を」
「私が?まさか。だって、散々浮気されましたのよ?」
「では放っておかれたり蔑ろにされていたのですか?」
「いいえ、誕生日や記念日には必ず贈り物が届き、週に一度は顔を見にいらっしゃいましたわ。とても、マメな方でいらしたから」
彼女は今、自分がどんな顔をしているのかわかっているのだろうか。
だが…。
そう思って、セレンは苦笑した。
もしかしたら、フレイアを想う時の自分もこんな顔をしているのかもしれないのだから。
桜を見上げるエリザベットの横顔を見て、セレンは悟った。
『彼』というのはおそらく亡くなった婚約者のことだろう。
「…忘れられないのですね。たしか、病気で亡くなられたという…」
「いいえ」
セレンの言葉を遮り、エリザベットはキッパリと告げた。
「病気ではありませんわ。表向きそのように公表されましたが、病気ではないのです」
「どういう意味でしょう?」
セレンが訝しげにたずねる。
するとエリザベットはセレンに向き直り、自嘲するように小さく笑った。
「私の婚約者様は…、それはそれは、大変女性におモテになりましたの。私、とても苦労いたしましたわ。たくさんの令嬢たちから妬まれて、嫉まれて。あの方散々浮気を繰り返すくせに婚約解消には同意してくださらなくて。王女の身分を傘に来て、彼を縛り付けているとまで噂されましたわ」
エリザベットは記憶を手繰り寄せるようにポツポツと語る。
セレンは黙って彼女の話を聞いていた。
「ある日の夜会でのことなのですけど…。彼にのぼせ上がって袖にされた令嬢に逆恨みされまして、私襲われましたのよ、刃物で」
「それは…!お怪我はなかったのですか?」
「彼が…、私を庇って、彼が刺されましたの」
「まさか、それで?」
「そんな、亡くなるほどの大怪我だとは思わなかったのですが、怪我から菌が回ったのでしょう。八日後に容体が急変いたしまして。…そのまま儚くなってしまいましたわ。でも女に刺されて亡くなるなど不名誉なことですから、公爵家では病気による急死と公表いたしました。夜会での事件で多くの人が見ていましたから、隠し覆すのも困難でしたけれど。公然の秘密ということですかしらね」
エリザベットは淡々と語り続ける。
セレンはこれほど重い話だと思わず聞いてしまったことを後悔しそうになっていた。
彼女が婚約者を亡くしていることは事前に知っていたが、詳しいことまでは知らなかったからだ。
一度目の結婚で、妻になる人に会う前に仕入れた情報を鵜呑みにして失敗したセレンは、今回は相手に会うまで極力余計な情報は入れないようにしていた。
だから例え重い話であっても、彼女の口から最後まで聞かなくてはいけないと思う。
「あの方…、亡くなる前の晩も、笑っていたのです。もう女性は懲り懲りだと。これからは私に誠を尽くすから、今までのことは許して欲しいと。勝手ですわよね?」
セレンは耳が痛かった。
立場も境遇も全く違うが、つい自分と重ね合わせて聞いてしまう。
だが…。
「本当に馬鹿な人。遊んでいたのは、私を妬かせたかったなどと馬鹿なことを言っておりましたのよ?それが原因で死んでしまっては、元も子もないでしょうに」
違うのは、そんな酷い扱いをされていたにもかかわらず、王女がなんとも愛おしそうに話すことだ。
「あんなに遊んでいながら、私を愛してくれていたようなのです。そのことを、私はあの方に庇われて初めて知りましたの。ずっと信じてなんかいませんでしたわ。だってお互い割り切った政略結婚だと思っておりましたから」
「貴女も愛していたのですね?婚約者殿を」
「私が?まさか。だって、散々浮気されましたのよ?」
「では放っておかれたり蔑ろにされていたのですか?」
「いいえ、誕生日や記念日には必ず贈り物が届き、週に一度は顔を見にいらっしゃいましたわ。とても、マメな方でいらしたから」
彼女は今、自分がどんな顔をしているのかわかっているのだろうか。
だが…。
そう思って、セレンは苦笑した。
もしかしたら、フレイアを想う時の自分もこんな顔をしているのかもしれないのだから。
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