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【番外編】もう一度
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セレンが笑っている間にも歩みを止めなかったエリザベットだが、ふと足を止め、元来た方を振り返った。
「…そろそろ戻りましょうか」
話しながらもだいぶ歩いて来たようで、兄や義姉と別れたガゼボからはもう遠く離れている。
「いや…、私はもう少し貴女の話がお聞きしたいのですが」
セレンはそう言って先に進もうとするが、エリザベットは足を止めたままだ。
「私の話など面白くありませんわ。それに、やはり私はご辞退申し上げたいと思いますの。わざわざ来ていただいて失礼だとは思いますが、父や兄には私の思う通りにしていいと言われておりますので。それに…、そもそも私は王妃になど向いていないと思いますし」
はっきりと拒絶の言葉を口にしたエリザベットに対し、セレンは困ったように首を傾げた。
おそらく彼女は最初から縁談を断る気でいたのだろう。
それは仕方がないと思う。
勝手に興味を持って押しかけるように見合いに持ち込んだのはこちらの方なのだから。
でもセレンはここで引きたくはなかった。
何故かわからないが、彼女となら…、エリザベットとなら、分かり合えるような確信があったのだ。
フレイアと別れてからのセレンは、かつて彼女に言われたように、澄んだ目で物事を見るよう心がけている。
その目が、彼女がいいと告げている。
「私はやはり貴女がいいな、エリザベット王女」
セレンはそう言うと、来た道を戻ろうと向きを変えていたエリザベットの前に回り込んだ。
「だから何故、私なのでしょう?」
「貴女は最初から私を嫌っているでしょう?私の最初の妻…フレイア王女は、最初から私を想っていてくれました。でも愚かな私は誤解から彼女を傷つけ、虐げ、蔑んだ。彼女の心がどんどん自分から離れていくのをわかっていながら、私は自分が変わろうとは全く思わなかった。誤解が解け、自分の気持ちに気付いた時にはもう手遅れだったのです。私は彼女の好意を、真っ直ぐな想いを踏み躙った。だから…もし今度女性と縁があるなら、最初は自分を嫌っているくらいの方の方が良いと思ったのです」
セレンの少々意味不明な理由に、エリザベットは目を丸くした。
そこにいるのは、義姉に聞いていた傲慢な男とはかけ離れた、真摯に自分をさらけ出す男である。
「でも…、私にフレイア様の代わりはつとまりませんわ」
「貴女を彼女の代わりにしたいなどとは思いません。貴女は最初から素の自分で語ってくれた。そんな貴女が、私は好ましいと思ったのです」
真っ直ぐに見つめてくるセレンの視線を避け、エリザベットは庭に植えてある木に目をやった。
つられてセレンもその木に目をやる。
「これは…、桜ですか?」
セレンがたずねると、エリザベットは頷いた。
すでに花の季節は終わり青々とした葉をつけているが、この木の幹は間違いなく桜である。
「ベリンダお義姉さまがアルゴンから嫁がれた時、記念に植樹された木なのです」
なるほど、テルルの桜もアルゴンから贈られたものであった。
元妻フレイアとの数少ない会話の中でも、桜の話題が上がったことがある。
「私の…、一番好きな花ですわ」
エリザベットは桜の幹に触れ、広がる緑の葉を見上げた。
その目は懐かしむような、愛おしむよう色を帯びている。
セレンは思わず声をかけた。
「何か…思い出があるのですか?」
「…そろそろ戻りましょうか」
話しながらもだいぶ歩いて来たようで、兄や義姉と別れたガゼボからはもう遠く離れている。
「いや…、私はもう少し貴女の話がお聞きしたいのですが」
セレンはそう言って先に進もうとするが、エリザベットは足を止めたままだ。
「私の話など面白くありませんわ。それに、やはり私はご辞退申し上げたいと思いますの。わざわざ来ていただいて失礼だとは思いますが、父や兄には私の思う通りにしていいと言われておりますので。それに…、そもそも私は王妃になど向いていないと思いますし」
はっきりと拒絶の言葉を口にしたエリザベットに対し、セレンは困ったように首を傾げた。
おそらく彼女は最初から縁談を断る気でいたのだろう。
それは仕方がないと思う。
勝手に興味を持って押しかけるように見合いに持ち込んだのはこちらの方なのだから。
でもセレンはここで引きたくはなかった。
何故かわからないが、彼女となら…、エリザベットとなら、分かり合えるような確信があったのだ。
フレイアと別れてからのセレンは、かつて彼女に言われたように、澄んだ目で物事を見るよう心がけている。
その目が、彼女がいいと告げている。
「私はやはり貴女がいいな、エリザベット王女」
セレンはそう言うと、来た道を戻ろうと向きを変えていたエリザベットの前に回り込んだ。
「だから何故、私なのでしょう?」
「貴女は最初から私を嫌っているでしょう?私の最初の妻…フレイア王女は、最初から私を想っていてくれました。でも愚かな私は誤解から彼女を傷つけ、虐げ、蔑んだ。彼女の心がどんどん自分から離れていくのをわかっていながら、私は自分が変わろうとは全く思わなかった。誤解が解け、自分の気持ちに気付いた時にはもう手遅れだったのです。私は彼女の好意を、真っ直ぐな想いを踏み躙った。だから…もし今度女性と縁があるなら、最初は自分を嫌っているくらいの方の方が良いと思ったのです」
セレンの少々意味不明な理由に、エリザベットは目を丸くした。
そこにいるのは、義姉に聞いていた傲慢な男とはかけ離れた、真摯に自分をさらけ出す男である。
「でも…、私にフレイア様の代わりはつとまりませんわ」
「貴女を彼女の代わりにしたいなどとは思いません。貴女は最初から素の自分で語ってくれた。そんな貴女が、私は好ましいと思ったのです」
真っ直ぐに見つめてくるセレンの視線を避け、エリザベットは庭に植えてある木に目をやった。
つられてセレンもその木に目をやる。
「これは…、桜ですか?」
セレンがたずねると、エリザベットは頷いた。
すでに花の季節は終わり青々とした葉をつけているが、この木の幹は間違いなく桜である。
「ベリンダお義姉さまがアルゴンから嫁がれた時、記念に植樹された木なのです」
なるほど、テルルの桜もアルゴンから贈られたものであった。
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「私の…、一番好きな花ですわ」
エリザベットは桜の幹に触れ、広がる緑の葉を見上げた。
その目は懐かしむような、愛おしむよう色を帯びている。
セレンは思わず声をかけた。
「何か…思い出があるのですか?」
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