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【番外編】タンタル王宮で〜王太女は叔父の幸せを願う〜
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ハロルドがフレイアの元を去ってタンタルに戻り、彼女と再会する前の話になります。
よかったらお付き合いください。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
陽射しの柔らかな、暖かい日だった。
タンタル王女、いや…、タンタル王太女コーディリアは、王宮の庭を小走りに進んでいた。
視線の先には、上半身剥き出しで、剣を片手に激しく動き回る青年がいる。
「精が出ますわね、ハルおじさま」
そう声をかけると、青年は振り返ってニッコリ笑った。
「やぁ、コーディリア」
その人好きのする笑顔は、とても昨今クールな切れ者宰相補佐で通っている男と同一人物とは思えない。
タンタル王室に多い漆黒の黒髪に黒曜石のような瞳を持つこの男は、現タンタル王の末弟で、コーディリアには叔父にあたるハロルドである。
「俺に用があったの?
よくここがわかったね」
ニコニコとお気に入りの姪に話しかけるハロルドには、本当にクールさの欠片もない。
「わかるわよ。おじさまってば暇さえあれば剣を振り回しているんだもの。まるで子供みたい」
コーディリアは汗だくの叔父を見やって、少し眉をひそめた。
叔父ハロルドは、4年前に大怪我をしていた。
一時は体に麻痺が残るだろうと言われるほど酷い状態だったのに、今ではこうして剣を振り、弓を射ることも出来る。
それは、彼が並大抵ではないリハビリに励んだ結果だと、コーディリアは知っている。
ハロルドは剣を腰におさめると、流れる汗を拭い始めた。
引き締まった肉体は日頃の鍛錬を物語り、キラキラ輝く玉のような汗を弾く肌は美しい。
血の繋がった叔父ではあるが、コーディリアは思わず見惚れてしまい、顔を赤らめた。
だが、叔父の左上腕には矢に射抜かれた痕が今も痛々しく残っているし、よく見ればその他にも細かい傷はある。
「おじさま、もう無理はしないでよ?」
「はいはい」
ハロルドはいかにも愛おしそうに姪の頭をワシャワシャと撫でた。
こうして姪を可愛がる時、彼の目尻は思い切り下がる。
だがそれは左目だけで、彼の右目は黒い眼帯に覆われている。
傷つけられたこの目は、彼の兄がタンタル中の名医に診せても結局治らなかった。
だから、いくらリハビリに励んだと言っても、いくら体に麻痺が残らなかったと言っても、片目で鍛錬し続けるのはとても疲れることだろう。
コーディリアはこのストイックな叔父が心配だった。
だってコーディリアはこの叔父が大好きなのだ。
宰相補佐としての辣腕ぶりから世間では近寄りがたく思われているが、本当の叔父は穏やかでよく笑う人だ。
冷徹宰相補佐などと呼ばれているのは、政治、経済においての改革で自分が矢面に立つためだし、全ては、国王である兄と、王太女であるコーディリアを守るため。
タンタル王はこの末弟を次期国王にとも考えたが、ハロルドはそれを固辞し、兄と姪に生涯仕えることを望んだ。
それ以来、ハロルドは言葉通り二人の盾となっている。
年齢も10歳しか違わないハロルドは、コーディリアにとって叔父と言うより兄のようなものだ。
弟妹のいないハロルドにとっても彼女は妹のようなものであろう。
実際愛情深く優しい叔父は、姪であるコーディリアをとても可愛がってくれている。
だからこんな風に髪をくしゃくしゃにされたってコーディリアは怒らず、しばらくハロルドにワシャワシャと撫でられるままにしておいた。
しかしハロルドは急に何か思い出したように、パッと手を離した。
「悪い悪い。もう婚約者がいるレディにこんなことしちゃダメだったね」
気まずそうに謝るハロルドに、コーディリアはちょっと唇を尖らせた。
「おじさまってば、今さらよ」
コーディリアの黒い艶やかな髪はすでに乱れてしまっていて、ハロルドは「ごめん」と眉尻を下げた。
よかったらお付き合いください。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
陽射しの柔らかな、暖かい日だった。
タンタル王女、いや…、タンタル王太女コーディリアは、王宮の庭を小走りに進んでいた。
視線の先には、上半身剥き出しで、剣を片手に激しく動き回る青年がいる。
「精が出ますわね、ハルおじさま」
そう声をかけると、青年は振り返ってニッコリ笑った。
「やぁ、コーディリア」
その人好きのする笑顔は、とても昨今クールな切れ者宰相補佐で通っている男と同一人物とは思えない。
タンタル王室に多い漆黒の黒髪に黒曜石のような瞳を持つこの男は、現タンタル王の末弟で、コーディリアには叔父にあたるハロルドである。
「俺に用があったの?
よくここがわかったね」
ニコニコとお気に入りの姪に話しかけるハロルドには、本当にクールさの欠片もない。
「わかるわよ。おじさまってば暇さえあれば剣を振り回しているんだもの。まるで子供みたい」
コーディリアは汗だくの叔父を見やって、少し眉をひそめた。
叔父ハロルドは、4年前に大怪我をしていた。
一時は体に麻痺が残るだろうと言われるほど酷い状態だったのに、今ではこうして剣を振り、弓を射ることも出来る。
それは、彼が並大抵ではないリハビリに励んだ結果だと、コーディリアは知っている。
ハロルドは剣を腰におさめると、流れる汗を拭い始めた。
引き締まった肉体は日頃の鍛錬を物語り、キラキラ輝く玉のような汗を弾く肌は美しい。
血の繋がった叔父ではあるが、コーディリアは思わず見惚れてしまい、顔を赤らめた。
だが、叔父の左上腕には矢に射抜かれた痕が今も痛々しく残っているし、よく見ればその他にも細かい傷はある。
「おじさま、もう無理はしないでよ?」
「はいはい」
ハロルドはいかにも愛おしそうに姪の頭をワシャワシャと撫でた。
こうして姪を可愛がる時、彼の目尻は思い切り下がる。
だがそれは左目だけで、彼の右目は黒い眼帯に覆われている。
傷つけられたこの目は、彼の兄がタンタル中の名医に診せても結局治らなかった。
だから、いくらリハビリに励んだと言っても、いくら体に麻痺が残らなかったと言っても、片目で鍛錬し続けるのはとても疲れることだろう。
コーディリアはこのストイックな叔父が心配だった。
だってコーディリアはこの叔父が大好きなのだ。
宰相補佐としての辣腕ぶりから世間では近寄りがたく思われているが、本当の叔父は穏やかでよく笑う人だ。
冷徹宰相補佐などと呼ばれているのは、政治、経済においての改革で自分が矢面に立つためだし、全ては、国王である兄と、王太女であるコーディリアを守るため。
タンタル王はこの末弟を次期国王にとも考えたが、ハロルドはそれを固辞し、兄と姪に生涯仕えることを望んだ。
それ以来、ハロルドは言葉通り二人の盾となっている。
年齢も10歳しか違わないハロルドは、コーディリアにとって叔父と言うより兄のようなものだ。
弟妹のいないハロルドにとっても彼女は妹のようなものであろう。
実際愛情深く優しい叔父は、姪であるコーディリアをとても可愛がってくれている。
だからこんな風に髪をくしゃくしゃにされたってコーディリアは怒らず、しばらくハロルドにワシャワシャと撫でられるままにしておいた。
しかしハロルドは急に何か思い出したように、パッと手を離した。
「悪い悪い。もう婚約者がいるレディにこんなことしちゃダメだったね」
気まずそうに謝るハロルドに、コーディリアはちょっと唇を尖らせた。
「おじさまってば、今さらよ」
コーディリアの黒い艶やかな髪はすでに乱れてしまっていて、ハロルドは「ごめん」と眉尻を下げた。
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