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【番外編】ラストダンス〜元公爵夫人も離縁したい〜
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※セレンの兄クリスの失脚直後の話で、全三話になります。
※本編では題名に『離婚』と入れていましたが、こちらでは『離縁』としています。
深い意味はありませんが、なんとなくその方がしっくりしたからです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「どうか、私を離縁してくださいませ」
そう妻から告げられた時、テルル国の第一王子であり、昨日までアキテーク公爵であったクリスは絶望を隠しもせず顔を歪ませた。
妻サーシャはその美しい顔に疲れを滲ませ、しかし射抜くかのように真っ直ぐに夫を見つめている。
「やはり…、こんな夫について辺境の地に行くのは嫌か。憎んでいるのだろう?私を」
悲しげに目を伏せた夫に、サーシャは自嘲気味に笑った。
「そうではありませんわ。
叛逆者の娘である私がお側にいては閣下のお為になりません。ですから…」
「もう閣下と呼ぶな。
それに、頼むからそんなことは言わないでくれ」
クリスに言葉を遮られ、サーシャは軽く唇を噛んだ。
ここは、(元)アキテーク公爵邸。
派手好きな夫妻の趣味を反映し、煌びやかで豪華な邸である。
この邸で2人は、時に愛を語らい、時に反目し合いながらも優雅に暮らしていたはずだった。
つい、数日前までは。
サーシャの父ドウェイン公爵が、謀叛を起こした。
娘婿クリスを王位につけるために、王太子セレンに反旗を翻したのだ。
それはクリスのためと言うより、父自身が権力を握るための暴挙であったと、サーシャも理解している。
クリスは元々政治に無関心な体を装っていたし、王位につきたいと言葉に出したこともなかったから。
だから義父をはじめ第一王子派の面々に旗印として担ぎ出された時ものらりくらりとかわしていただろうし、セレン暗殺の計画を聞かされた時も反対していただろう。
憎んだこともある弟ではあるが、死んで欲しいとまでは思っていないと。
しかし積極的に暗殺計画を止めるための行動を起こしたわけでもなく、弟に計画を漏らして助けようとしたわけでもなかった。
だからドウェインらは、結局クリスに内密のまま暗殺計画を遂行し、それに失敗するとクーデターに切り替えた。
彼らが立てば、クリスも立たざるを得ないと考えていたのであろう。
そう、まさか、最後の最後までクリスが立たないとは思っていなかったのである。
サーシャは目の前の夫を見つめてため息をついた。
結局クリスはドウェイン公爵をはじめとする叛逆者を見捨てた。
そしてサーシャの父は、謀叛の首謀者として処刑された。
兄は罪一等を減じて終身刑に処されている。
ドウェイン公爵派は全く勝算が無いのに立つほど愚かではなかったはずだ。
そこには娘婿や義弟を信じる気持ちがあったのだろう。
それなのに…。
サーシャは夫であるクリスのことも嫌というほどよくわかっていた。
彼は、本気で王位など狙ってはいなかった。
それに王に向いていないことは、彼自身が一番よくわかっている。
派手好きで、享楽主義で。
王族として持ち上げられるのは好きだが、面倒な政治や矢面に立つのは嫌いで。
政治の表舞台に立つ弟に服従するわけでもなく、何かしら民のために動くわけでもない。
父は、こんな人物を王にしようとしたのだ。
大方、傀儡の国王を担ぎ上げて、自らが権力を握るつもりであったのだろう。
すぐに自分の孫にあたるクリスの嫡男に、王の首を挿げ替えるつもりだったのかもしれない。
アキテーク公クリスは自らはクーデターに加担しなかったが、旗印として担がれていたのは確かである。
変後、クリスは公爵位を取り上げられ、新たに伯爵位を授けられた。
処分が甘いという批判もあったが、セレンは兄の命までとることは望まなかった。
それに、クリスが生きていたとしても、もう再び彼を担ぐ者はないだろうという判断もあった。
自国の貴族だけでなく、周辺国も全てセレンの王権を支持していたからである。
明朝、クリスは与えられた領地である辺境の地に赴く。
正夫人であるサーシャと、嫡男アンリを伴って。
※本編では題名に『離婚』と入れていましたが、こちらでは『離縁』としています。
深い意味はありませんが、なんとなくその方がしっくりしたからです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「どうか、私を離縁してくださいませ」
そう妻から告げられた時、テルル国の第一王子であり、昨日までアキテーク公爵であったクリスは絶望を隠しもせず顔を歪ませた。
妻サーシャはその美しい顔に疲れを滲ませ、しかし射抜くかのように真っ直ぐに夫を見つめている。
「やはり…、こんな夫について辺境の地に行くのは嫌か。憎んでいるのだろう?私を」
悲しげに目を伏せた夫に、サーシャは自嘲気味に笑った。
「そうではありませんわ。
叛逆者の娘である私がお側にいては閣下のお為になりません。ですから…」
「もう閣下と呼ぶな。
それに、頼むからそんなことは言わないでくれ」
クリスに言葉を遮られ、サーシャは軽く唇を噛んだ。
ここは、(元)アキテーク公爵邸。
派手好きな夫妻の趣味を反映し、煌びやかで豪華な邸である。
この邸で2人は、時に愛を語らい、時に反目し合いながらも優雅に暮らしていたはずだった。
つい、数日前までは。
サーシャの父ドウェイン公爵が、謀叛を起こした。
娘婿クリスを王位につけるために、王太子セレンに反旗を翻したのだ。
それはクリスのためと言うより、父自身が権力を握るための暴挙であったと、サーシャも理解している。
クリスは元々政治に無関心な体を装っていたし、王位につきたいと言葉に出したこともなかったから。
だから義父をはじめ第一王子派の面々に旗印として担ぎ出された時ものらりくらりとかわしていただろうし、セレン暗殺の計画を聞かされた時も反対していただろう。
憎んだこともある弟ではあるが、死んで欲しいとまでは思っていないと。
しかし積極的に暗殺計画を止めるための行動を起こしたわけでもなく、弟に計画を漏らして助けようとしたわけでもなかった。
だからドウェインらは、結局クリスに内密のまま暗殺計画を遂行し、それに失敗するとクーデターに切り替えた。
彼らが立てば、クリスも立たざるを得ないと考えていたのであろう。
そう、まさか、最後の最後までクリスが立たないとは思っていなかったのである。
サーシャは目の前の夫を見つめてため息をついた。
結局クリスはドウェイン公爵をはじめとする叛逆者を見捨てた。
そしてサーシャの父は、謀叛の首謀者として処刑された。
兄は罪一等を減じて終身刑に処されている。
ドウェイン公爵派は全く勝算が無いのに立つほど愚かではなかったはずだ。
そこには娘婿や義弟を信じる気持ちがあったのだろう。
それなのに…。
サーシャは夫であるクリスのことも嫌というほどよくわかっていた。
彼は、本気で王位など狙ってはいなかった。
それに王に向いていないことは、彼自身が一番よくわかっている。
派手好きで、享楽主義で。
王族として持ち上げられるのは好きだが、面倒な政治や矢面に立つのは嫌いで。
政治の表舞台に立つ弟に服従するわけでもなく、何かしら民のために動くわけでもない。
父は、こんな人物を王にしようとしたのだ。
大方、傀儡の国王を担ぎ上げて、自らが権力を握るつもりであったのだろう。
すぐに自分の孫にあたるクリスの嫡男に、王の首を挿げ替えるつもりだったのかもしれない。
アキテーク公クリスは自らはクーデターに加担しなかったが、旗印として担がれていたのは確かである。
変後、クリスは公爵位を取り上げられ、新たに伯爵位を授けられた。
処分が甘いという批判もあったが、セレンは兄の命までとることは望まなかった。
それに、クリスが生きていたとしても、もう再び彼を担ぐ者はないだろうという判断もあった。
自国の貴族だけでなく、周辺国も全てセレンの王権を支持していたからである。
明朝、クリスは与えられた領地である辺境の地に赴く。
正夫人であるサーシャと、嫡男アンリを伴って。
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