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【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい
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ハロルドが無事タンタルに入った報告をうけたサイラスは、それをフレイアに伝え、やっと部屋に戻った。
テルル王太子夫妻が乗る馬車が襲撃を受けたという報告から、なんとも濃過ぎる三日間だった。
兵を掻き集めて砦に駆けつけ、敵を薙ぎ払い、テルル王太子を救った。
セレンが追撃に出ている間は砦の守りを固め、凱旋したセレンを迎え…、そしてハロルドがいなくなった。
「疲れたな…」
誰に言うともなく呟くと、サイラスは部屋からテラスに出た。
外は、満天の星空だ。
この星空の下、ハロルドはタンタルの王都に向かっていることだろう。
ハロルドの長兄である王太子はかなりハロルドを可愛がっているようだから、手厚い看護を受けられるに違いない。
『私にも貴方のような兄がいればな』
ふいに、そんな言葉が頭をよぎった。
先程、セレンが呟いた言葉だ。
終始フレイアを思って動くサイラスを見ての、率直な気持ちだったのだろう。
セレンは兄クリスと犬猿の仲と聞く。
今回のクーデターもクリスを担ぎ上げようとする第一王子派が起こしたものだった。
クリスがクーデターにどの程度関わっていたのかはこれからの調べによるが、これからの2人が兄弟と呼べる状態になることは、二度と無いのかもしれない。
(異腹とは言え、血の繋がった兄弟なのにな…)
気の毒だとは思う。
仲違いなど、ボタンのかけ違いみたいなものだ。
これほど拗れる前に仲をとりもつような人物がいれば、ここまでにはならなかったのではないだろうか。
サイラスとフレイアだって異腹の兄妹だが、こんなに思い合っているのだから。
生きてさえいれば、わかりあえる日もくる。
サイラスはそう信じている。
だって人は、変われるのだから。
「殿下」
突然背後から声をかけられ、振り返るとソラリスが立っていた。
そう言えば、ハロルドの安否がわかり一通り落ち着いた後、
「後でお茶をお持ちします」
と言っていた。
侍女姿で楚々として立っているソラリスは、とても昨日一緒に戦場を駆け回った騎士と同一人物とは思えない。
淑女然と立っている彼女を見て、サイラスは思わず苦笑を漏らした。
「…何か可笑しかったですか?」
少々不満顔のソラリスに、サイラスはゆっくり近づく。
「貴女は変幻自在だな」
ある時は頼もしい女騎士となって戦場を駆け回り、ある時は愛らしいレディとなってお茶を淹れてくれる。
彼女は際立った美女ではないが、その意思の強そうな切れ長の目は好ましいし、小さな薄めの唇も愛らしいと思う。
要するに、やはりサイラスはソラリスを愛おしいと思う。
「…貴女が無事で良かった」
サイラスが優しく見下ろせば、ソラリスも笑顔で答えた。
「私も…、殿下がご無事で本当に安堵致しました。
殿下はいつも先頭に立って行かれるから」
カイトたちが止めても、サイラスは攻め手の先頭に立ち続けた。
配下の者たちにとってはなんとも迷惑な王太子である。
「貴方はアルゴンの宝なのですから、もっとご自分の体を大切にしてくださいませ」
そう言ってソラリスが苦笑すれば、サイラスは徐に彼女の手を取った。
「殿下…⁈」
驚いたソラリスが手を引こうとしたが、サイラスはその手を離さずこう言った。
「では私が暴走しそうな時は貴女が止めてくれないか?
貴女がそばにいてくれるなら、私はもう少し自重するようにしよう」
「殿下⁈何を…!」
ソラリスが思い切り手を引こうとするが、それでもサイラスは離さない。
「私と一緒にアルゴンに帰ろう、ソラリス」
「ええもちろん。
私もアルゴンに帰りますわ」
主人であるフレイアがセレンと別れてアルゴンに帰るのだから、もちろんソラリスだって帰る。
一体この王太子は何を言っているのだろう?とソラリスは訝しげにサイラスを見上げた。
サイラスは掴んでいるソラリスの手を、両手で包み込んだ。
そして、真っ直ぐにソラリスの目を見つめた。
「結婚しよう」
テルル王太子夫妻が乗る馬車が襲撃を受けたという報告から、なんとも濃過ぎる三日間だった。
兵を掻き集めて砦に駆けつけ、敵を薙ぎ払い、テルル王太子を救った。
セレンが追撃に出ている間は砦の守りを固め、凱旋したセレンを迎え…、そしてハロルドがいなくなった。
「疲れたな…」
誰に言うともなく呟くと、サイラスは部屋からテラスに出た。
外は、満天の星空だ。
この星空の下、ハロルドはタンタルの王都に向かっていることだろう。
ハロルドの長兄である王太子はかなりハロルドを可愛がっているようだから、手厚い看護を受けられるに違いない。
『私にも貴方のような兄がいればな』
ふいに、そんな言葉が頭をよぎった。
先程、セレンが呟いた言葉だ。
終始フレイアを思って動くサイラスを見ての、率直な気持ちだったのだろう。
セレンは兄クリスと犬猿の仲と聞く。
今回のクーデターもクリスを担ぎ上げようとする第一王子派が起こしたものだった。
クリスがクーデターにどの程度関わっていたのかはこれからの調べによるが、これからの2人が兄弟と呼べる状態になることは、二度と無いのかもしれない。
(異腹とは言え、血の繋がった兄弟なのにな…)
気の毒だとは思う。
仲違いなど、ボタンのかけ違いみたいなものだ。
これほど拗れる前に仲をとりもつような人物がいれば、ここまでにはならなかったのではないだろうか。
サイラスとフレイアだって異腹の兄妹だが、こんなに思い合っているのだから。
生きてさえいれば、わかりあえる日もくる。
サイラスはそう信じている。
だって人は、変われるのだから。
「殿下」
突然背後から声をかけられ、振り返るとソラリスが立っていた。
そう言えば、ハロルドの安否がわかり一通り落ち着いた後、
「後でお茶をお持ちします」
と言っていた。
侍女姿で楚々として立っているソラリスは、とても昨日一緒に戦場を駆け回った騎士と同一人物とは思えない。
淑女然と立っている彼女を見て、サイラスは思わず苦笑を漏らした。
「…何か可笑しかったですか?」
少々不満顔のソラリスに、サイラスはゆっくり近づく。
「貴女は変幻自在だな」
ある時は頼もしい女騎士となって戦場を駆け回り、ある時は愛らしいレディとなってお茶を淹れてくれる。
彼女は際立った美女ではないが、その意思の強そうな切れ長の目は好ましいし、小さな薄めの唇も愛らしいと思う。
要するに、やはりサイラスはソラリスを愛おしいと思う。
「…貴女が無事で良かった」
サイラスが優しく見下ろせば、ソラリスも笑顔で答えた。
「私も…、殿下がご無事で本当に安堵致しました。
殿下はいつも先頭に立って行かれるから」
カイトたちが止めても、サイラスは攻め手の先頭に立ち続けた。
配下の者たちにとってはなんとも迷惑な王太子である。
「貴方はアルゴンの宝なのですから、もっとご自分の体を大切にしてくださいませ」
そう言ってソラリスが苦笑すれば、サイラスは徐に彼女の手を取った。
「殿下…⁈」
驚いたソラリスが手を引こうとしたが、サイラスはその手を離さずこう言った。
「では私が暴走しそうな時は貴女が止めてくれないか?
貴女がそばにいてくれるなら、私はもう少し自重するようにしよう」
「殿下⁈何を…!」
ソラリスが思い切り手を引こうとするが、それでもサイラスは離さない。
「私と一緒にアルゴンに帰ろう、ソラリス」
「ええもちろん。
私もアルゴンに帰りますわ」
主人であるフレイアがセレンと別れてアルゴンに帰るのだから、もちろんソラリスだって帰る。
一体この王太子は何を言っているのだろう?とソラリスは訝しげにサイラスを見上げた。
サイラスは掴んでいるソラリスの手を、両手で包み込んだ。
そして、真っ直ぐにソラリスの目を見つめた。
「結婚しよう」
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