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【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい
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王太子襲撃の知らせ、並びに東の砦での籠城の知らせを受けた国境の指揮官は、ソラリスから届けられた王太子妃と親衛隊長の手紙を、そして援護に向かうというアルゴン王太子の話を信じるしかなかった。
そうして国境を超えたサイラスは、一年ぶりにソラリスと再会した。
しかし二人に再会を喜ぶ時間などもちろんない。
久しぶりに見る愛おしい女性に感慨を抱く暇もないのだ。
「殿下!東の砦にご案内いたします!」
「頼むぞ、ソラリス!」
馬に跨ったソラリスは、サイラス率いるアルゴン軍を先導した。
馬を駆って必死に走る二人には、当然かわす言葉などない。
先を行くソラリスの颯爽とした姿を、サイラスは眩しそうに見つめる。
戦に向かう自分が不謹慎ではあるが、やはりソラリスは強く美しく、格好いい女性だと、サイラスは思う。
馬を励まして東の砦に着いた時、そこはもう凄惨な戦場と化していた。
しかも反乱軍は次々と門を破り、砦の頂上にまで迫る勢いだ。
「続け!」
普通ならあり得ないことではあるが、サイラスは先頭に立って隊を指揮している。
カイトはサイラスに、
「殿下は後方で守られてください」
と懇願しているが、そんなことを聞くサイラスではない。
サイラスは常々言っている。
『頭が動けば、下の者もついてくる』と。
それから、
『万が一のことがあれば、弟のライリーがいるから』と。
一の門、二の門、と破られた門を抜けて行く。
だが三の門をくぐるに至って、サイラスはソラリスに
「貴女はここにいろ!」
と怒鳴った。
本当はずっと手前に彼女を残して来たかった。
そんなことを聞くようなソラリスではないとわかっているが。
せめて戦闘が激しくなるこの先には連れて行きたくない。
しかしソラリスは返事もせず、当然のようにサイラスの斜め後ろに馬をつけて砦を駆け上がる。
「ソラリス!止まれ!」
「聞こえません!」
「ソラリス!」
「殿下は私が足手まといになるとお思いですか⁈」
「それは…!」
そうではない。
そうではないのだ。
武に秀でた、もしかしたらサイラスと同等に闘えるソラリスが足手まといになるとは思わない。
だが、これは愛しい女性を想う男の気持ちだ。
「ここに置いて行かれたら殿下を一生お恨みします!」
「一生…っ⁈」
言い合っているうちに、馬は四の門近くまで辿り着いた。
そこでは激しい戦闘が繰り広げられ、セレン軍はここを死守しようとしているのがわかる。
その時、馬上から剣を振るう女性騎士の姿が目に入った。
一つに纏めたスロトベリーブロンドの髪を靡かせながら、正に戦の女神よろしく戦っている。
(フレイアだ!!)
サイラスは戦闘の中に突っ込んで行った。
兵を薙ぎ倒しながら、愛しい妹の元へ急ぐ。
「カイト!ソラリス!
あそこにフレイアがいる!援護を!」
「「承知!!」」
フレイアの前で彼女を守りながら戦っているのはハロルドだ。
(もうすぐだ!もうすぐフレイアの元に!)
その時。
「ハルッ!!!」
フレイアの悲痛な叫び声が聞こえた。
サイラスも目の前の敵と戦っていたため何が起きたのかはわからない。
しかし敵を斬り伏せて妹の方を見れば、ハロルドが馬から転がり落ちるのが見えた。
(まずい!)
サイラスは馬を駆ってフレイアとハロルドの元へ急いだ。
ハロルドはあちこちから血を流しながら、それでもフレイアの前に立とうとする。
フレイアに襲い来る敵を相手に、こちらも軍神よろしく暴れ回る。
「ハル!危ない!」
深傷のハロルドに敵が襲いかかる。
ザクッ!!!
敵の刃より、一瞬早くサイラスの刃が動いた。
「すまないハル!遅くなった!」
馬上から、サイラスはハロルドの前の敵を斬り伏せた。
「お兄様!!」
「もう大丈夫だ!フレイア」
サイラスに続けと、アルゴン軍が次々と敵を薙ぎ払っている。
「ハル!よくフレイアを守ってくれた」
馬上から声をかければ、
「遅いぞ、サイラス」
とハロルドは笑って見せた。
だが、その顔も体も血だらけだ。
そして親友の顔を見て気が緩んだのか、ハロルドはガクリとその場に膝を着いた。
「ハル!!」
駆け寄ったフレイアがハロルドを支える。
「フレイア、ハルをここへ」
サイラスはハロルドを引き上げて馬に乗せると、四の門へ向けて走り出した。
その馬を守るようにカイトとソラリスが両脇を固める。
「お兄様!」
急いで馬に跨ったフレイアはサイラスの馬を追いかけ、先に回って四の門に走り込んだ。
そうしてサイラスはハロルドを安全な場所におろすと、再び戦場へ取って返す。
それをまたカイトとソラリスが追う。
「ソラリス!貴女はフレイアの元に残れ!」
「嫌です!私も戦います!」
「フレイアのそばを離れないんじゃなかったのか⁈」
「今の姫様は安全です!」
ああ言えばこう言うソラリスにサイラスはため息をつく。
そんな二人を追いかけながら、カイトもまた苦笑していた。
そうして国境を超えたサイラスは、一年ぶりにソラリスと再会した。
しかし二人に再会を喜ぶ時間などもちろんない。
久しぶりに見る愛おしい女性に感慨を抱く暇もないのだ。
「殿下!東の砦にご案内いたします!」
「頼むぞ、ソラリス!」
馬に跨ったソラリスは、サイラス率いるアルゴン軍を先導した。
馬を駆って必死に走る二人には、当然かわす言葉などない。
先を行くソラリスの颯爽とした姿を、サイラスは眩しそうに見つめる。
戦に向かう自分が不謹慎ではあるが、やはりソラリスは強く美しく、格好いい女性だと、サイラスは思う。
馬を励まして東の砦に着いた時、そこはもう凄惨な戦場と化していた。
しかも反乱軍は次々と門を破り、砦の頂上にまで迫る勢いだ。
「続け!」
普通ならあり得ないことではあるが、サイラスは先頭に立って隊を指揮している。
カイトはサイラスに、
「殿下は後方で守られてください」
と懇願しているが、そんなことを聞くサイラスではない。
サイラスは常々言っている。
『頭が動けば、下の者もついてくる』と。
それから、
『万が一のことがあれば、弟のライリーがいるから』と。
一の門、二の門、と破られた門を抜けて行く。
だが三の門をくぐるに至って、サイラスはソラリスに
「貴女はここにいろ!」
と怒鳴った。
本当はずっと手前に彼女を残して来たかった。
そんなことを聞くようなソラリスではないとわかっているが。
せめて戦闘が激しくなるこの先には連れて行きたくない。
しかしソラリスは返事もせず、当然のようにサイラスの斜め後ろに馬をつけて砦を駆け上がる。
「ソラリス!止まれ!」
「聞こえません!」
「ソラリス!」
「殿下は私が足手まといになるとお思いですか⁈」
「それは…!」
そうではない。
そうではないのだ。
武に秀でた、もしかしたらサイラスと同等に闘えるソラリスが足手まといになるとは思わない。
だが、これは愛しい女性を想う男の気持ちだ。
「ここに置いて行かれたら殿下を一生お恨みします!」
「一生…っ⁈」
言い合っているうちに、馬は四の門近くまで辿り着いた。
そこでは激しい戦闘が繰り広げられ、セレン軍はここを死守しようとしているのがわかる。
その時、馬上から剣を振るう女性騎士の姿が目に入った。
一つに纏めたスロトベリーブロンドの髪を靡かせながら、正に戦の女神よろしく戦っている。
(フレイアだ!!)
サイラスは戦闘の中に突っ込んで行った。
兵を薙ぎ倒しながら、愛しい妹の元へ急ぐ。
「カイト!ソラリス!
あそこにフレイアがいる!援護を!」
「「承知!!」」
フレイアの前で彼女を守りながら戦っているのはハロルドだ。
(もうすぐだ!もうすぐフレイアの元に!)
その時。
「ハルッ!!!」
フレイアの悲痛な叫び声が聞こえた。
サイラスも目の前の敵と戦っていたため何が起きたのかはわからない。
しかし敵を斬り伏せて妹の方を見れば、ハロルドが馬から転がり落ちるのが見えた。
(まずい!)
サイラスは馬を駆ってフレイアとハロルドの元へ急いだ。
ハロルドはあちこちから血を流しながら、それでもフレイアの前に立とうとする。
フレイアに襲い来る敵を相手に、こちらも軍神よろしく暴れ回る。
「ハル!危ない!」
深傷のハロルドに敵が襲いかかる。
ザクッ!!!
敵の刃より、一瞬早くサイラスの刃が動いた。
「すまないハル!遅くなった!」
馬上から、サイラスはハロルドの前の敵を斬り伏せた。
「お兄様!!」
「もう大丈夫だ!フレイア」
サイラスに続けと、アルゴン軍が次々と敵を薙ぎ払っている。
「ハル!よくフレイアを守ってくれた」
馬上から声をかければ、
「遅いぞ、サイラス」
とハロルドは笑って見せた。
だが、その顔も体も血だらけだ。
そして親友の顔を見て気が緩んだのか、ハロルドはガクリとその場に膝を着いた。
「ハル!!」
駆け寄ったフレイアがハロルドを支える。
「フレイア、ハルをここへ」
サイラスはハロルドを引き上げて馬に乗せると、四の門へ向けて走り出した。
その馬を守るようにカイトとソラリスが両脇を固める。
「お兄様!」
急いで馬に跨ったフレイアはサイラスの馬を追いかけ、先に回って四の門に走り込んだ。
そうしてサイラスはハロルドを安全な場所におろすと、再び戦場へ取って返す。
それをまたカイトとソラリスが追う。
「ソラリス!貴女はフレイアの元に残れ!」
「嫌です!私も戦います!」
「フレイアのそばを離れないんじゃなかったのか⁈」
「今の姫様は安全です!」
ああ言えばこう言うソラリスにサイラスはため息をつく。
そんな二人を追いかけながら、カイトもまた苦笑していた。
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