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【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい
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(フレイアが危ない!ソラリスも…!)
テルル王太子夫妻襲撃の知らせを受けたサイラスは、すぐさまテネシン山の麓へ向かった。
テネシン山はテルルとの国境付近にある山で、豊かな金鉱があることで知られている。
そしてその山の麓の村には、金鉱で働く元傭兵の鉱夫が多数住んでいる。
平和によって仕事をなくした屈強な元傭兵を鉱夫に仕立て、また、国境も守ってもらえれば一石二鳥というわけである。
サイラスはそこで鉱夫たちを組み込む軍勢を仕立てると、一路、国境を目指した。
国境に着けば、当然テルル側の国境を守る警備兵はアルゴン兵を足止めした。
突然アルゴン軍が、しかも王太子自らテルルを攻撃してきたのかと右往左往の大騒ぎである。
とにかく状況説明と援軍を要請するため、国境警備の指揮官は王都へ使者を立てた。
サイラスとしても、すぐにフレイアの元に駆けつけたいが、だからと言って無理矢理突破して、ここでテルル軍と戦いたくはない。
そうしてテルル警備兵とアルゴン軍とで睨み合っている最中、やっとテルル王太子夫妻が襲撃されたという第一報が指揮官に入った。
一方その頃。
森での襲撃に失敗した反乱軍は、王太子セレンが逃げたであろう離宮に向かっていた。
それを知ったセレンは籠城戦に持ち込むため東の砦に向かう。
そして王太子妃フレイアも夫を助けるため、離宮を出て東の砦に向かった。
その途中フレイアは、付き従っていた侍女ソラリスに、国境までサイラスを迎えに行くよう指示を出す。
ハロルドから、サイラスが国境へ向かっていることを知らされていたからだ。
「お兄様を迎えに行って、ソラリス。
多分アルゴン軍は国境で足止めされているはずだから」
国境を守る警備兵の指揮官宛に、王太子妃である自分の手紙と親衛隊長ハッサムの手紙を持たせる。
ハッサムには万が一実家に助けを求める際には国境を解放する命令を出して欲しいと話しておいたのだ。
しかしソラリスは首を縦に振らない。
「嫌です。私は姫様のそばを離れません」
ソラリスは死ぬも生きるもフレイアのそばでと決めている。
今から籠城戦に加わろうとしている主人から離れるなど、言語道断なのである。
「お願い、ソラリス。
今ここで、アルゴン軍にすんなり近づけるのはあなただけでしょう?」
「では姫様も一緒に逃げましょう。
何故あんな男のために姫様が命をかけて守ろうとするのですか?」
ソラリスはセレンが大嫌いだ。
正直、このクーデターで彼がどうなろうともソラリスの知ったことではない。
最近フレイアに対する態度が優しくなったとは思うが、今までの仕打ちを払拭できるとは露ほども思えない。
ソラリスの敬愛する主人に不幸な結婚生活を送らせた夫など、助ける価値も無いと思っている。
そんなソラリスを見て、フレイアは苦笑した。
「仕方ないでしょう?
私はこれでもまだ王太子妃で、セレン殿下の妻なのだもの」
「いいえ、その前に貴女はアルゴン王女です。
お願いですから、このまま私とサイラス殿下の下へ参りましょう」
「違うわソラリス。
私はテルル王太子妃。逃げるわけにいかないの。
もう夫としてのセレン殿下への想いはないけれど、同士みたいなものなのよ」
「では私も残ります。
絶対に姫様のそばを離れません」
「これは命令よ、ソラリス。
貴女が希望なのよ。
お兄様が間に合ってくれれば、勝ち目があるわ。
だから…、きっと貴女がお兄様を連れてきてくれるって信じてる。
それまで持ちこたえるって約束するわ」
『希望』とまで言われ、ソラリスは唇を噛んだ。
たしかに今のこの状況で、セレン側は絶対的に不利なのだから。
「絶対に…、危なくなったら逃げてくださいね、姫様」
ソラリスは滅多に見せない涙を溢れさせ、フレイアに抱きついた。
「わかった。約束するわ」
フレイアも声を震わせながらソラリスの背中に腕を回す。
(約束なんて言ったって、姫様は絶対に逃げない)
それはソラリスもわかっている。
だから今は。
一刻も早くサイラスを連れて戻ることだ。
「ご武運を、姫様」
「貴女も、気をつけて」
ギュッと、思い切りフレイアを抱きしめた後、ソラリスは真っ直ぐに立って、胸に手を当てた。
「行って来ます、姫様。
必ず、サイラス殿下をお連れします」
「頼んだわ、ソラリス」
この時フレイアは、本当は兄が間に合うかなんて五分五分だろうと思っていた。
もちろん兄はフレイアを助けるために最善を尽くすであろう。
だが、そもそも視察旅行に向かっていたはずの兄が、俄かに兵を集めるのも、国境を越えるのも難しいと感じていたのだ。
だが、なんとしても姉とも慕うソラリスだけは助けたかった。
メアリとケティはすでに森の襲撃直後に落ち延びさせた。
あとはソラリスが離れてくれれば…。
籠城戦になるのをわかっていて砦に向かうのは自分の我儘だ。
そこに、ソラリスを巻き込みたくはない。
フレイアは国境に向かって祈りを捧げた。
願わくば、サイラスの援軍が間に合うようにと。
しかしもし間に合わない時は、ソラリスを連れてアルゴンへ引き上げて欲しい。
フレイアはそう、願っていたのだ。
テルル王太子夫妻襲撃の知らせを受けたサイラスは、すぐさまテネシン山の麓へ向かった。
テネシン山はテルルとの国境付近にある山で、豊かな金鉱があることで知られている。
そしてその山の麓の村には、金鉱で働く元傭兵の鉱夫が多数住んでいる。
平和によって仕事をなくした屈強な元傭兵を鉱夫に仕立て、また、国境も守ってもらえれば一石二鳥というわけである。
サイラスはそこで鉱夫たちを組み込む軍勢を仕立てると、一路、国境を目指した。
国境に着けば、当然テルル側の国境を守る警備兵はアルゴン兵を足止めした。
突然アルゴン軍が、しかも王太子自らテルルを攻撃してきたのかと右往左往の大騒ぎである。
とにかく状況説明と援軍を要請するため、国境警備の指揮官は王都へ使者を立てた。
サイラスとしても、すぐにフレイアの元に駆けつけたいが、だからと言って無理矢理突破して、ここでテルル軍と戦いたくはない。
そうしてテルル警備兵とアルゴン軍とで睨み合っている最中、やっとテルル王太子夫妻が襲撃されたという第一報が指揮官に入った。
一方その頃。
森での襲撃に失敗した反乱軍は、王太子セレンが逃げたであろう離宮に向かっていた。
それを知ったセレンは籠城戦に持ち込むため東の砦に向かう。
そして王太子妃フレイアも夫を助けるため、離宮を出て東の砦に向かった。
その途中フレイアは、付き従っていた侍女ソラリスに、国境までサイラスを迎えに行くよう指示を出す。
ハロルドから、サイラスが国境へ向かっていることを知らされていたからだ。
「お兄様を迎えに行って、ソラリス。
多分アルゴン軍は国境で足止めされているはずだから」
国境を守る警備兵の指揮官宛に、王太子妃である自分の手紙と親衛隊長ハッサムの手紙を持たせる。
ハッサムには万が一実家に助けを求める際には国境を解放する命令を出して欲しいと話しておいたのだ。
しかしソラリスは首を縦に振らない。
「嫌です。私は姫様のそばを離れません」
ソラリスは死ぬも生きるもフレイアのそばでと決めている。
今から籠城戦に加わろうとしている主人から離れるなど、言語道断なのである。
「お願い、ソラリス。
今ここで、アルゴン軍にすんなり近づけるのはあなただけでしょう?」
「では姫様も一緒に逃げましょう。
何故あんな男のために姫様が命をかけて守ろうとするのですか?」
ソラリスはセレンが大嫌いだ。
正直、このクーデターで彼がどうなろうともソラリスの知ったことではない。
最近フレイアに対する態度が優しくなったとは思うが、今までの仕打ちを払拭できるとは露ほども思えない。
ソラリスの敬愛する主人に不幸な結婚生活を送らせた夫など、助ける価値も無いと思っている。
そんなソラリスを見て、フレイアは苦笑した。
「仕方ないでしょう?
私はこれでもまだ王太子妃で、セレン殿下の妻なのだもの」
「いいえ、その前に貴女はアルゴン王女です。
お願いですから、このまま私とサイラス殿下の下へ参りましょう」
「違うわソラリス。
私はテルル王太子妃。逃げるわけにいかないの。
もう夫としてのセレン殿下への想いはないけれど、同士みたいなものなのよ」
「では私も残ります。
絶対に姫様のそばを離れません」
「これは命令よ、ソラリス。
貴女が希望なのよ。
お兄様が間に合ってくれれば、勝ち目があるわ。
だから…、きっと貴女がお兄様を連れてきてくれるって信じてる。
それまで持ちこたえるって約束するわ」
『希望』とまで言われ、ソラリスは唇を噛んだ。
たしかに今のこの状況で、セレン側は絶対的に不利なのだから。
「絶対に…、危なくなったら逃げてくださいね、姫様」
ソラリスは滅多に見せない涙を溢れさせ、フレイアに抱きついた。
「わかった。約束するわ」
フレイアも声を震わせながらソラリスの背中に腕を回す。
(約束なんて言ったって、姫様は絶対に逃げない)
それはソラリスもわかっている。
だから今は。
一刻も早くサイラスを連れて戻ることだ。
「ご武運を、姫様」
「貴女も、気をつけて」
ギュッと、思い切りフレイアを抱きしめた後、ソラリスは真っ直ぐに立って、胸に手を当てた。
「行って来ます、姫様。
必ず、サイラス殿下をお連れします」
「頼んだわ、ソラリス」
この時フレイアは、本当は兄が間に合うかなんて五分五分だろうと思っていた。
もちろん兄はフレイアを助けるために最善を尽くすであろう。
だが、そもそも視察旅行に向かっていたはずの兄が、俄かに兵を集めるのも、国境を越えるのも難しいと感じていたのだ。
だが、なんとしても姉とも慕うソラリスだけは助けたかった。
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あとはソラリスが離れてくれれば…。
籠城戦になるのをわかっていて砦に向かうのは自分の我儘だ。
そこに、ソラリスを巻き込みたくはない。
フレイアは国境に向かって祈りを捧げた。
願わくば、サイラスの援軍が間に合うようにと。
しかしもし間に合わない時は、ソラリスを連れてアルゴンへ引き上げて欲しい。
フレイアはそう、願っていたのだ。
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