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【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい
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その晩、サイラスは僅かながらソラリスと対面する時間を設けた。
本来ならいくら王太子と侍女と言えど男女が2人きりになるなどあり得ないが、そこは旅の空の下、あり得ないことも起こり得るものである。
サイラスはテルル滞在中に与えられた貴賓室にケティ、メアリ、ソラリスを呼んだ。
今一度、フレイアを守るという誓いを聞くために。
…と、それは、建前である。
サイラスはカイトに、母と妹と団欒するための時間を僅かながら設けてやったのだ。
ハロルドはすでにフレイアの護衛騎士としてテルルに残していくという承認を得、騎士団に加わっている。
フレイアはすでに自室のベッドでやすんでいる。
サイラスはカイト、ケティ、メアリを部屋に残し、ソラリスを誘ってバルコニーに出た。
「テルルは夜も蒸し暑いのだな」
サイラスはバルコニーからテルルの王都アッザムを眺めた。
アルゴンの王都は海に近く夜は海風の影響でだいぶ涼しくなるが、ここアッザムはこうしてバルコニーに出ても蒸し暑い。
ソラリスはそんなサイラスの次の言葉を直立不動で待っていた。
フレイアのことで何か指示があって呼ばれたのだと思っているのだろう。
生真面目なソラリスに、サイラスは思わず苦笑した。
別に、ソラリスとフレイアの話をするつもりで2人になったわけではないのだ。
だいたい、フレイアの現状ならソラリスから受けている報告でわかっているし、今回直接目にしたことで余計にフレイアをアルゴンに取り戻そうという気持ちは固まっている。
ソラリスの報告によると、フレイアはセレンから一方的に三年後の離婚を言い渡されていると言う。
そしてフレイアはその三年後の離婚をアルゴンにとって有利に運ぼうと努力し、心配をかけたくないからと両親や兄には伏せて欲しいと言っているのだ。
セレンはアルゴンを小国と見て、またフレイアを見捨てられた姫と侮っていたのだろうが、向こうがそんな理不尽な物言いをするなら我慢することはない。
見たところ、フレイアにはセレンへの未練は全く無いように見える。
なら、三年後を待たず、取り返せばいいだけだ。
「ありがとう、ソラリス。
貴女がそばにいてくれて、フレイアも相当心強いだろう」
サイラスはソラリスを労わるように声をかけた。
「とんでもございません。
もったいないお言葉でございます」
ソラリスは恐縮したように答えた。
侍女姿ながら騎士のような佇まいに、サイラスは再び苦笑する。
「貴女は息災だったか?
辛い思いなどはしてはいないか?」
優しげに目を細めながらたずねてくるサイラスに、ソラリスは少々戸惑いながら「何もございません」
と答えた。
「ただ…」
「ただ?」
「私の喜びは姫様が笑顔でいらっしゃること。
姫様が辛い思いをされている時は、私も辛うございます。
それはメアリも。もちろんケティ様も」
ソラリスはそう言って目を伏せた。
おそらく、テルルに来てから幾度となくそんな目に遭ってきたのだろう。
「本当に…、フレイアは侍女には恵まれたな」
フレイアは自分はテルル国民になるのだからと、輿入れに際し、侍女を最低限しか伴わなかった。
その精鋭がこの3人だ。
「近いうちに必ず迎えに来る。
それまでフレイアを頼む」
サイラスは周りを警戒しながら、そっとソラリスに耳打ちした。
貴賓室は部屋として独立しているが、どこに耳があるともわからない。
近づき過ぎたからか、ソラリスがピクリと肩を揺らした。
髪に息がかかるほどの距離で見下ろせば、彼女もサイラスを見上げてくる。
そこにはいつもの彼女のようなキリリと凛々しい眼差しは無く、困惑したように揺れる瞳がある。
「ソラリス」
いつになく甘い響きを持った声で名前を呼ばれ、ソラリスの頬がサッと朱に染まる。
その頬に思わず手を伸ばしそうになり…、触れる寸前で、サイラスは弾かれたように手を引いた。
想いも告げぬまま、不用意に触れるわけにはいかない。
サイラスはスッと目を逸らし、バルコニーから外を眺めた。
「明日、アルゴンに帰る。
次に会う時は、フレイアを迎えに来る時だ」
ーそしてソラリス、貴女を迎えに来る時ー
サイラスはその言葉を飲み込んだ。
夜空を見上げて呟くサイラスの横顔を、ソラリスは眩しいものでも見るように目を細めた。
「お待ちしております、殿下」
囁くように答えたソラリスに振り返らぬまま、サイラスは頷く。
その琥珀色の瞳には、力強い意思を秘めていた。
本来ならいくら王太子と侍女と言えど男女が2人きりになるなどあり得ないが、そこは旅の空の下、あり得ないことも起こり得るものである。
サイラスはテルル滞在中に与えられた貴賓室にケティ、メアリ、ソラリスを呼んだ。
今一度、フレイアを守るという誓いを聞くために。
…と、それは、建前である。
サイラスはカイトに、母と妹と団欒するための時間を僅かながら設けてやったのだ。
ハロルドはすでにフレイアの護衛騎士としてテルルに残していくという承認を得、騎士団に加わっている。
フレイアはすでに自室のベッドでやすんでいる。
サイラスはカイト、ケティ、メアリを部屋に残し、ソラリスを誘ってバルコニーに出た。
「テルルは夜も蒸し暑いのだな」
サイラスはバルコニーからテルルの王都アッザムを眺めた。
アルゴンの王都は海に近く夜は海風の影響でだいぶ涼しくなるが、ここアッザムはこうしてバルコニーに出ても蒸し暑い。
ソラリスはそんなサイラスの次の言葉を直立不動で待っていた。
フレイアのことで何か指示があって呼ばれたのだと思っているのだろう。
生真面目なソラリスに、サイラスは思わず苦笑した。
別に、ソラリスとフレイアの話をするつもりで2人になったわけではないのだ。
だいたい、フレイアの現状ならソラリスから受けている報告でわかっているし、今回直接目にしたことで余計にフレイアをアルゴンに取り戻そうという気持ちは固まっている。
ソラリスの報告によると、フレイアはセレンから一方的に三年後の離婚を言い渡されていると言う。
そしてフレイアはその三年後の離婚をアルゴンにとって有利に運ぼうと努力し、心配をかけたくないからと両親や兄には伏せて欲しいと言っているのだ。
セレンはアルゴンを小国と見て、またフレイアを見捨てられた姫と侮っていたのだろうが、向こうがそんな理不尽な物言いをするなら我慢することはない。
見たところ、フレイアにはセレンへの未練は全く無いように見える。
なら、三年後を待たず、取り返せばいいだけだ。
「ありがとう、ソラリス。
貴女がそばにいてくれて、フレイアも相当心強いだろう」
サイラスはソラリスを労わるように声をかけた。
「とんでもございません。
もったいないお言葉でございます」
ソラリスは恐縮したように答えた。
侍女姿ながら騎士のような佇まいに、サイラスは再び苦笑する。
「貴女は息災だったか?
辛い思いなどはしてはいないか?」
優しげに目を細めながらたずねてくるサイラスに、ソラリスは少々戸惑いながら「何もございません」
と答えた。
「ただ…」
「ただ?」
「私の喜びは姫様が笑顔でいらっしゃること。
姫様が辛い思いをされている時は、私も辛うございます。
それはメアリも。もちろんケティ様も」
ソラリスはそう言って目を伏せた。
おそらく、テルルに来てから幾度となくそんな目に遭ってきたのだろう。
「本当に…、フレイアは侍女には恵まれたな」
フレイアは自分はテルル国民になるのだからと、輿入れに際し、侍女を最低限しか伴わなかった。
その精鋭がこの3人だ。
「近いうちに必ず迎えに来る。
それまでフレイアを頼む」
サイラスは周りを警戒しながら、そっとソラリスに耳打ちした。
貴賓室は部屋として独立しているが、どこに耳があるともわからない。
近づき過ぎたからか、ソラリスがピクリと肩を揺らした。
髪に息がかかるほどの距離で見下ろせば、彼女もサイラスを見上げてくる。
そこにはいつもの彼女のようなキリリと凛々しい眼差しは無く、困惑したように揺れる瞳がある。
「ソラリス」
いつになく甘い響きを持った声で名前を呼ばれ、ソラリスの頬がサッと朱に染まる。
その頬に思わず手を伸ばしそうになり…、触れる寸前で、サイラスは弾かれたように手を引いた。
想いも告げぬまま、不用意に触れるわけにはいかない。
サイラスはスッと目を逸らし、バルコニーから外を眺めた。
「明日、アルゴンに帰る。
次に会う時は、フレイアを迎えに来る時だ」
ーそしてソラリス、貴女を迎えに来る時ー
サイラスはその言葉を飲み込んだ。
夜空を見上げて呟くサイラスの横顔を、ソラリスは眩しいものでも見るように目を細めた。
「お待ちしております、殿下」
囁くように答えたソラリスに振り返らぬまま、サイラスは頷く。
その琥珀色の瞳には、力強い意思を秘めていた。
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