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【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい
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帰国する前日、サイラスはセレンに誘われて狩を行うことになった。
フレイアも凛々しい女性騎士姿で現れ、またその後ろにはソラリスも護衛騎士たちに混じり、騎士姿で控えている。
おそらくソラリスが騎士姿を見せるのは、テルルに来てから初めてなのだろう。
フレイアと並び立つ姿は凛々しくも美しく、多くの貴族や騎士たちが鼻の下を伸ばしているようで、サイラスは眉間に皺を寄せた。
ただの王太子妃付きの侍女と侮っていた女性の魅力に気づき、言い寄ってくる不逞の輩が出てくるのではないだろうか。
ソラリスの魅力は自分だけが知っていればいいものを…。
「殿下、顔が怖いです」
呆れ顔のカイトに指摘されても、サイラスの不満顔は治らない。
だいたい、ソラリスの目に映るのは相変わらずフレイアだけだ。
久しぶりに会ったサイラスに僅かに微笑んでは見せたが、それも敬愛する主人の味方が来たという安堵の表情にしか見えない。
フレイアの近況を報告してくる手紙だって当然フレイアの話のみで、甘やかな言葉など一切なかった。
このテルル滞在中も事務的な話しかしていない。
2人きりになる時間などもちろん取れないが、故意にサイラスと距離を取っているようにさえ見える。
そんな風にフレイアとソラリスを眺めていたところ、突然フレイアが馬を駆って走り出した。
そこに間髪入れず、1人の騎士が追っていく。
ハロルドである。
2人は息の合った手綱捌きを見せ、大きな猪を仕留めた。
拍手が湧き起こり、フレイアが輝かんばかりの笑顔で応えている。
我が妹ながら、本当に天晴れである。
やはりフレイアは賢く可愛いだけでなく、華があり、武芸に秀で、人の輪の中心にいるべき素晴らしい女性なのだ。
この感動を誰かに伝え、妹自慢をしなければと周りに目をやれば、呆然と佇むセレンがいる。
サイラスはここぞとばかりにセレンに近づき、声をかけることにした。
「すごいでしょう、フレイアは」
驚いて振り返ったセレンにほくそ笑む。
大方フレイアに見惚れていたのだろう。
「フレイアという名は愛と美の女神の名なんです。
でも今のフレイアはまるで狩猟の女神のようだ。
強くて賢くて優しくて…、本当に自慢の妹なんです」
愛おしげにフレイアを見つめるサイラスに、セレンは訝しげにたずねる。
「母親が違うと聞いていますが…、仲が良いのですね」
「私は生みの母を覚えていないのです。
フレイアを生んだ今の王妃は、私を実の息子のように愛情を注いでくれた。
仲が悪くなるわけがないでしょう?」
セレンは息を飲んでサイラスを見つめてきた。
「…そんな大事な王女を、どうして私の妃にくれたのですか?
自国の貴族にやるなど、いくらでも身近に置くことはできたでしょう」
「1つ目は、先代からの約定があったこと。
2つ目は、フレイア自身があなたに嫁ぐことを望んだからです」
「私の…?」
「セレン殿が言う通り、私は可愛い妹のためならいくらでもこの縁談を破談にするため動いたでしょう。
でも、本人の意思なら仕方ない。
しかも、フレイアはこうと決めたら梃子でも動かない頑固者でね」
「なぜ…」
「さぁ。
それを私の口から聞くのはおかしいでしょう」
サイラスはセレンから目を逸らし、再びフレイアを見つめた。
フレイアが喜んでテルルに嫁いできたのは、なんのことはない、セレンに恋していたからである。
だが、それはサイラスの口から告げることではないし、なんなら、そんな事実は一生この男に伝わらなくていいとさえ思う。
サイラスの言葉に戸惑いを見せるセレンを見て、一つ、確信したことがある。
この男は何か情報操作をされて、フレイアを誤解するよう仕向けられていたのかもしれない。
何故か、フレイアが腹違いの兄であるサイラスからも蔑まれていたと思い込んでいた節があるから。
身内からも自国からも見捨てられていた王女だと、信じ込まされていたのだろうか。
だが、それは自分自身で正しいものを見ようとしてこなかったセレンの自業自得というものである。
最初からフレイアと向き合ってさえいればすぐに彼女の人となりはわかったはずなのだから。
妹溺愛で贔屓目の自覚はあるが、それでも一緒に過ごせば、彼女の賢さ、可愛らしさに魅了されないはずがないと、サイラスは思う。
一昨日の夜、サイラスが贈ったドレスを着こなすフレイアの美しさに、この男は声をなくしていた。
今も猛々しく大猪と渡り合うフレイアを賞賛と驚きの混じった目で見つめている。
やっと、その目から分厚い鱗が少しだけ剥がれたといったところだろうか。
だが、サイラスは愛する妹を幸せにできなかった男を許す気はない。
フレイアが諦めきっている今、俄かに興味を持たれても面倒である。
しかしフレイアの純情を踏み躙られたままにするのも、それはそれで納得できない。
サイラスは、セレンにとっての意地悪な義兄に徹することにした。
さあ、自分が今まで蔑ろにしてきた妻の真実の姿を一部でも知ればいい。
フレイアの賢いところ、優しいところ、可愛いところ。
家族に愛され、国民に愛され、周りの人間を魅了する力を。
そして、後悔すればいい。
自分を一途に想ってくれるかけがえのない存在になり得た妻を、自ら切って捨てたことを。
次の獲物を追って駆けていく妹を眩しげに見つめ、サイラスは心に誓った。
今回は難しくても、近いうちに、必ずフレイアを取り戻すのだと。
フレイアも凛々しい女性騎士姿で現れ、またその後ろにはソラリスも護衛騎士たちに混じり、騎士姿で控えている。
おそらくソラリスが騎士姿を見せるのは、テルルに来てから初めてなのだろう。
フレイアと並び立つ姿は凛々しくも美しく、多くの貴族や騎士たちが鼻の下を伸ばしているようで、サイラスは眉間に皺を寄せた。
ただの王太子妃付きの侍女と侮っていた女性の魅力に気づき、言い寄ってくる不逞の輩が出てくるのではないだろうか。
ソラリスの魅力は自分だけが知っていればいいものを…。
「殿下、顔が怖いです」
呆れ顔のカイトに指摘されても、サイラスの不満顔は治らない。
だいたい、ソラリスの目に映るのは相変わらずフレイアだけだ。
久しぶりに会ったサイラスに僅かに微笑んでは見せたが、それも敬愛する主人の味方が来たという安堵の表情にしか見えない。
フレイアの近況を報告してくる手紙だって当然フレイアの話のみで、甘やかな言葉など一切なかった。
このテルル滞在中も事務的な話しかしていない。
2人きりになる時間などもちろん取れないが、故意にサイラスと距離を取っているようにさえ見える。
そんな風にフレイアとソラリスを眺めていたところ、突然フレイアが馬を駆って走り出した。
そこに間髪入れず、1人の騎士が追っていく。
ハロルドである。
2人は息の合った手綱捌きを見せ、大きな猪を仕留めた。
拍手が湧き起こり、フレイアが輝かんばかりの笑顔で応えている。
我が妹ながら、本当に天晴れである。
やはりフレイアは賢く可愛いだけでなく、華があり、武芸に秀で、人の輪の中心にいるべき素晴らしい女性なのだ。
この感動を誰かに伝え、妹自慢をしなければと周りに目をやれば、呆然と佇むセレンがいる。
サイラスはここぞとばかりにセレンに近づき、声をかけることにした。
「すごいでしょう、フレイアは」
驚いて振り返ったセレンにほくそ笑む。
大方フレイアに見惚れていたのだろう。
「フレイアという名は愛と美の女神の名なんです。
でも今のフレイアはまるで狩猟の女神のようだ。
強くて賢くて優しくて…、本当に自慢の妹なんです」
愛おしげにフレイアを見つめるサイラスに、セレンは訝しげにたずねる。
「母親が違うと聞いていますが…、仲が良いのですね」
「私は生みの母を覚えていないのです。
フレイアを生んだ今の王妃は、私を実の息子のように愛情を注いでくれた。
仲が悪くなるわけがないでしょう?」
セレンは息を飲んでサイラスを見つめてきた。
「…そんな大事な王女を、どうして私の妃にくれたのですか?
自国の貴族にやるなど、いくらでも身近に置くことはできたでしょう」
「1つ目は、先代からの約定があったこと。
2つ目は、フレイア自身があなたに嫁ぐことを望んだからです」
「私の…?」
「セレン殿が言う通り、私は可愛い妹のためならいくらでもこの縁談を破談にするため動いたでしょう。
でも、本人の意思なら仕方ない。
しかも、フレイアはこうと決めたら梃子でも動かない頑固者でね」
「なぜ…」
「さぁ。
それを私の口から聞くのはおかしいでしょう」
サイラスはセレンから目を逸らし、再びフレイアを見つめた。
フレイアが喜んでテルルに嫁いできたのは、なんのことはない、セレンに恋していたからである。
だが、それはサイラスの口から告げることではないし、なんなら、そんな事実は一生この男に伝わらなくていいとさえ思う。
サイラスの言葉に戸惑いを見せるセレンを見て、一つ、確信したことがある。
この男は何か情報操作をされて、フレイアを誤解するよう仕向けられていたのかもしれない。
何故か、フレイアが腹違いの兄であるサイラスからも蔑まれていたと思い込んでいた節があるから。
身内からも自国からも見捨てられていた王女だと、信じ込まされていたのだろうか。
だが、それは自分自身で正しいものを見ようとしてこなかったセレンの自業自得というものである。
最初からフレイアと向き合ってさえいればすぐに彼女の人となりはわかったはずなのだから。
妹溺愛で贔屓目の自覚はあるが、それでも一緒に過ごせば、彼女の賢さ、可愛らしさに魅了されないはずがないと、サイラスは思う。
一昨日の夜、サイラスが贈ったドレスを着こなすフレイアの美しさに、この男は声をなくしていた。
今も猛々しく大猪と渡り合うフレイアを賞賛と驚きの混じった目で見つめている。
やっと、その目から分厚い鱗が少しだけ剥がれたといったところだろうか。
だが、サイラスは愛する妹を幸せにできなかった男を許す気はない。
フレイアが諦めきっている今、俄かに興味を持たれても面倒である。
しかしフレイアの純情を踏み躙られたままにするのも、それはそれで納得できない。
サイラスは、セレンにとっての意地悪な義兄に徹することにした。
さあ、自分が今まで蔑ろにしてきた妻の真実の姿を一部でも知ればいい。
フレイアの賢いところ、優しいところ、可愛いところ。
家族に愛され、国民に愛され、周りの人間を魅了する力を。
そして、後悔すればいい。
自分を一途に想ってくれるかけがえのない存在になり得た妻を、自ら切って捨てたことを。
次の獲物を追って駆けていく妹を眩しげに見つめ、サイラスは心に誓った。
今回は難しくても、近いうちに、必ずフレイアを取り戻すのだと。
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