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【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい
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フレイアが嫁ぐ日が間近に迫っても、未だサイラスは迷っていた。
もうすぐソラリスはフレイアについてテルルへ行ってしまう。
妹であるフレイアは例え離れていても一生自分の妹であることに変わりはないが、ソラリスは違う。
隣国の王太子妃の侍女…、つまり、自国の民でもない、赤の他人より遠い存在になるのではないだろうか。
ーでは、もし、ソラリスに求婚したら?
アルゴンは周辺国より自由な国風ではあるが、そうは言っても王太子であるサイラスが自分勝手に結婚相手を決めるわけにもいかない。
きちんと国王夫妻である両親に許可を得た上で重臣たちにはかり、承認を得る必要がある。
ソラリスは代々勇猛な騎士を輩出し、忠臣として名を轟かせてきた伯爵家の息女だ。
おそらく反対の声は少ないと思われる。
ー求婚、したら?
………ダメだ。
サイラスは、王太子である自分の言葉が力を持つことは自覚している。
求婚と言っても、王族からのそれは命令になるのだ。
実質臣下が拒むことなど出来ない。
また、きちんと承認を得た求婚であるなら、使者をもって伯爵家に王家からの求婚がなされる。
つまり、ソラリスがサイラスとの結婚を嫌だと思っても、それを伯爵家で拒むことは出来ず、口にすることさえ出来ないのだ。
重臣に承認を得た時点ですでにソラリスはフレイアの侍女を外されるだろう。
そうなればサイラスはソラリスから夢を奪い、他国に嫁ぐ妹からは信頼のおける侍女を奪うことになる。
ー私は、好いた女性に気持ちを伝えることも出来ないのかー
フレイアがアルゴンを発つ日。
婚姻式に参列出来ないサイラスは王都の外れで愛する妹を見送った。
アルゴン経済の一端を担っている金鉱で崩落事故があり、その対応で国を離れるわけにはいかなくなったのだ。
花嫁の付き添いを王弟夫婦に託した国王は、愛娘のために豪華な花嫁行列を仕立て上げた。
その行列を兄サイラスが王都の外れまで先導し、そこで別れて事故の起きた現地に向かう。
未練を断ち切ろうとついてきたハロルドも、笑顔でフレイアを見送っている。
これからセレンの元へ向かうフレイアの顔は、希望で輝いていた。
生まれ育った国を発つ不安と愛してくれた家族と離れる寂しさはあるのだろうが、それ以上に恋する相手に会える期待と喜びの方が勝っているのだろう。
妹を溺愛する兄としては複雑ではあるが、フレイアが幸せなら、彼女のこの笑顔が翳るようなことがないなら、自分の寂しさなど取るに足りないことだとサイラスは思う。
「寂しくなるな」
そう言って肩を落とす兄に、妹は
「祝福してくださらないの?お兄様」
と頬を膨らませた。
祝福したい気持ちはある。
だが、引き止めたい気持ちの方が何倍も大きい。
「嫌になったら、いつでも戻ってきていいんだぞ?」
「嫌ね、お兄様ったら。
縁起でもないこと言わないで」
この時フレイアは笑って聞き流したが、奇しくも僅か2年後に本当にそうなるなど、2人はまだ知る由もない。
サイラスはソラリスにも向き直り、
「フレイアを頼むぞ、ソラリス」
と言った。
ソラリスは真剣な表情で、しかし僅かに笑顔を見せて、
「私の命にかえましても」
と答えた。
それは、凛々しくも、清々しい笑顔であった。
ここに、サイラスの長い初恋は一旦終わりを見たのである。
もうすぐソラリスはフレイアについてテルルへ行ってしまう。
妹であるフレイアは例え離れていても一生自分の妹であることに変わりはないが、ソラリスは違う。
隣国の王太子妃の侍女…、つまり、自国の民でもない、赤の他人より遠い存在になるのではないだろうか。
ーでは、もし、ソラリスに求婚したら?
アルゴンは周辺国より自由な国風ではあるが、そうは言っても王太子であるサイラスが自分勝手に結婚相手を決めるわけにもいかない。
きちんと国王夫妻である両親に許可を得た上で重臣たちにはかり、承認を得る必要がある。
ソラリスは代々勇猛な騎士を輩出し、忠臣として名を轟かせてきた伯爵家の息女だ。
おそらく反対の声は少ないと思われる。
ー求婚、したら?
………ダメだ。
サイラスは、王太子である自分の言葉が力を持つことは自覚している。
求婚と言っても、王族からのそれは命令になるのだ。
実質臣下が拒むことなど出来ない。
また、きちんと承認を得た求婚であるなら、使者をもって伯爵家に王家からの求婚がなされる。
つまり、ソラリスがサイラスとの結婚を嫌だと思っても、それを伯爵家で拒むことは出来ず、口にすることさえ出来ないのだ。
重臣に承認を得た時点ですでにソラリスはフレイアの侍女を外されるだろう。
そうなればサイラスはソラリスから夢を奪い、他国に嫁ぐ妹からは信頼のおける侍女を奪うことになる。
ー私は、好いた女性に気持ちを伝えることも出来ないのかー
フレイアがアルゴンを発つ日。
婚姻式に参列出来ないサイラスは王都の外れで愛する妹を見送った。
アルゴン経済の一端を担っている金鉱で崩落事故があり、その対応で国を離れるわけにはいかなくなったのだ。
花嫁の付き添いを王弟夫婦に託した国王は、愛娘のために豪華な花嫁行列を仕立て上げた。
その行列を兄サイラスが王都の外れまで先導し、そこで別れて事故の起きた現地に向かう。
未練を断ち切ろうとついてきたハロルドも、笑顔でフレイアを見送っている。
これからセレンの元へ向かうフレイアの顔は、希望で輝いていた。
生まれ育った国を発つ不安と愛してくれた家族と離れる寂しさはあるのだろうが、それ以上に恋する相手に会える期待と喜びの方が勝っているのだろう。
妹を溺愛する兄としては複雑ではあるが、フレイアが幸せなら、彼女のこの笑顔が翳るようなことがないなら、自分の寂しさなど取るに足りないことだとサイラスは思う。
「寂しくなるな」
そう言って肩を落とす兄に、妹は
「祝福してくださらないの?お兄様」
と頬を膨らませた。
祝福したい気持ちはある。
だが、引き止めたい気持ちの方が何倍も大きい。
「嫌になったら、いつでも戻ってきていいんだぞ?」
「嫌ね、お兄様ったら。
縁起でもないこと言わないで」
この時フレイアは笑って聞き流したが、奇しくも僅か2年後に本当にそうなるなど、2人はまだ知る由もない。
サイラスはソラリスにも向き直り、
「フレイアを頼むぞ、ソラリス」
と言った。
ソラリスは真剣な表情で、しかし僅かに笑顔を見せて、
「私の命にかえましても」
と答えた。
それは、凛々しくも、清々しい笑顔であった。
ここに、サイラスの長い初恋は一旦終わりを見たのである。
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