王太子妃は離婚したい

凛江

文字の大きさ
上 下
22 / 53
【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい

2-1

しおりを挟む
サイラスがソラリスと出会ってから2年の月日が流れ、ソラリスはかねてからの希望が叶い、フレイアの護衛騎士となった。

天真爛漫で人懐こいフレイアはすぐにソラリスに懐いて姉のように慕うようになり、また元々フレイアに心酔していたソラリスは、あらためて、命に代えて主を守ることを心に誓った。

騎士団に残っているサイラスがソラリスと会うことは減ってしまったが、たまの休日に王宮に戻ると、生き生きと働くソラリスを見かける。


そしてその1年後、3年に渡る騎士団生活を終えたサイラスはカイトと共に学園に復学することになり、それと同時にフレイアも同じ学園に入学し、ソラリスも護衛を兼ねて入学した。

また、隣国タンタルの第五王子ハロルドが留学してきてサイラスと一緒に通うことになり、ここに、将来夫婦となる2組のカップルが一堂に会することになるのだが、もちろん当事者である彼らはまだ何も知らない。


アルゴンの学園は基本、王族、貴族、平民の区別がない。

もちろん王族は国民にとって尊敬と信奉の対象ではあるが、元々の国風というか、アルゴンの王族は国民にとってかなり近く、親しみやすいものでもあった。

それ故、サイラスやフレイアたちも楽しく学園生活を謳歌していたのである。


しばらくしてサイラスとハロルドは併設されている大学に通い始めた。

行動を共にすることは減ったが、それでも妹とその侍女が楽しそうに過ごす日々を見守ることはサイラスの楽しみであり、様子を見に行くことは日課になった。


しかし、その楽しい時間も長くは続かなかった。

フレイア王女が隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐため、退学することになったのである。

当然ソラリスも退学して、フレイアに付いていく。


覚悟していたことではあるが、サイラスの心は千々に乱れた。

溺愛する妹フレイアを他国に嫁がせるのは辛い。

例え嫁ぐにしても自国ならちょくちょく顔を見られるだろうに、他国の王太子妃になるのでは滅多に会えなくなる。

しかもテルルの王太子セレンは正式に婚約が整ってからも、フレイアに贈り物どころか手紙さえ寄越さない。

一度表敬訪問の折に挨拶したことがあるが、眉目秀麗な男ではあったが冷たい印象しか残っていない。

あんな男に、可愛いフレイアをやるのか?

あんな男に嫁いで、フレイアは本当に幸せになれるのか?

婚姻間近ではあるが、やめさせた方がいいのではないだろうか?

しかしそんな悩める兄の心も知らず、当の妹は舞い上がり、テルルに嫁ぐ日を指折り数えている。

それに…。

サイラスは未だソラリスに、自分の気持ちの欠片さえ伝えてはいなかった。

ソラリスの希望はフレイアの側にいること。

自分の想いを告げればそれはソラリスの夢の邪魔になるかもしれない。

こんな想いには蓋をして、墓場まで持って行くのが良いのだろう。

しかし、王太子であるサイラスに続々と縁談が寄せられているのも事実である。

今まで勉強中の身とのらりくらりと躱し、両親も強制するようなことはなかったため見て見ぬ振りをしてきたが、それだって大学を卒業するまでの執行猶予のようなものだ。


ここ最近、サイラスは生傷が絶えなくなっていた。

むしゃくしゃする気持ちをがむしゃらに剣に乗せて稽古していたためであり、また、こんな不甲斐ない自分を嫌悪してもいた。

そして、従兄弟であり親友でもあるハロルドもまた、行き場のない想いを抱えて懊悩しているようだった。

ハロルドがフレイアへの想いを募らせているのは、サイラスの目から見ても明らかだ。

「ハルも難儀なヤツだな」

サイラスはそっと呟き、気の毒な親友を見やった。

ある意味、自分よりハロルドの方がずっと難儀だと思う。

想う相手は別の男に恋していて、もうすぐ嫁ぐことも決まっているのだから。

フレイアはそんなハロルドの想いには全く気付かず、血の繋がらない兄くらいにしか見ていないだろう。

愛する妹ではあるが、無邪気に結婚に浮かれているフレイアに、『なんて残酷な女なんだ』と腹立たしい思いもある。

ハロルドは、生涯自分の想いを伝えることはないと言い切っている。

初恋相手との結婚に夢見るフレイアに、水を差すような真似はしたくないのだと言うのだ。

嫁入りの準備を楽しそうに話すフレイアを、ハロルドは眩しそうに、笑顔で見つめる。

時には揶揄ったり、そして時には祝福したり。

辛くはないのかと問えば、『恋に恋する可愛い彼女を見ているのが楽しいから』と答える。

そんなハロルドを、サイラスはやはり自分より強いと思う。
しおりを挟む
感想 886

あなたにおすすめの小説

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

水川サキ
恋愛
「僕には他に愛する人がいるんだ。だから、君を愛することはできない」 伯爵令嬢アリアは政略結婚で結ばれた侯爵に1年だけでいいから妻のふりをしてほしいと頼まれる。 そのあいだ、何でも好きなものを与えてくれるし、いくらでも贅沢していいと言う。 アリアは喜んでその条件を受け入れる。 たった1年だけど、美味しいものを食べて素敵なドレスや宝石を身につけて、いっぱい楽しいことしちゃおっ! などと気楽に考えていたのに、なぜか侯爵さまが夜の生活を求めてきて……。 いやいや、あなた私のこと好きじゃないですよね? ふりですよね? ふり!! なぜか侯爵さまが離してくれません。 ※設定ゆるゆるご都合主義

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。