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【番外編】シスコン王太子は女性騎士と結婚したい
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「フレイアは息災だろうか。
俺を思って泣いてはいないだろうか」
窓の外に目をやり、サイラスがため息をつく。
「姫様はお勉強も武術の稽古も滞りなく進んでいるとのこと。
よく食べよく寝てとても元気にお過ごしだと、昨日報告があったばかりではないですか」
サイラスの後ろに控えて冷ややかな声を出しているのは、護衛騎士のカイト。
幼い頃よりサイラスのそば近くに仕える幼馴染のような者で、フレイアの侍女メアリの兄でもある。
「俺の留守中は、武術の稽古はするなと言っておいたんだがな。
剣も弓も馬も、俺がフレイアに手取り足取り腰取り教えたんだ。
他の者に任すなど、考えただけで腹が立つ。
だいたい、万が一にでも可愛らしいフレイアの顔や手や足に傷が付いたらどうすんだ」
今日もサイラスの変態…、いや、シスコン発言は絶好調で、カイトは「けっ」と小さく舌を鳴らした。
13歳になったサイラスは、それまで通っていた学校を休学して近衛騎士団の見習い騎士になり、宿舎に入った。
王族や貴族の子弟はそうして少年期の1~3年程を騎士団に入って鍛えられる者が多いが、特に義務というわけではない。
騎士団に入れば身分の上下なく鍛えられる。
サイラスもこれまで一流の師について剣や馬の稽古はしてきたが、彼自身が騎士たちと寝食を共にすることを選んだのだ。
可愛い妹の顔を毎日見られないのは寂しいが、将来国王として国を担っていく立場としてはそうも言っていられない。
すでに幼い頃から文武両道に秀でた王子と言われてはきたものの、さらに国民の期待に応えるべく、最高水準を目指すことを自らに課しているのだ。
そうして窓から遠くを眺めていたサイラスが、
「……ん?」
と声を上げた。
「どうしました?殿下」
「あそこ…、何か、揉めているらしい」
カイトもサイラスが指差す方に目をやったが、かろうじて木の向こうに何人かの人の塊が見えるだけだ。
「稽古が終わって、木の陰で話し込んでいるだけでは?」
サイラスも、今日の稽古が終わって部屋に戻って来たところだ。
稽古場にはまだ戻らないで屯っている騎士たちが多勢いる。
「いや。あれは揉めているようだ」
サイラスは剣を手に取ると、そのまま部屋を飛び出した。
「ちょ…、殿下⁈」
慌ててカイトも後を追う。
サイラスは、やたらと視力も良いのだ。
「おまえ…!
女のくせに生意気だぞ⁈」
走るサイラスの耳に、少年の叫ぶ声が響く。
「だいたい女が騎士なんてな!
女の子は家で花嫁修業でもしてろよ!」
少年2人が罵っているのはどうやら少女らしい。
「あーおまえ、もしかして本当は男なのか?
ぜんっぜん女らしいとこないもんな⁈」
「あーそうかもな!
おい、確かめてみようぜ⁈」
口汚く罵る2人を前に、少女は一言も発しない。
しかしその手に持つ木刀の先が、僅かに上げられるのをサイラスは見た。
「なんだよ、おまえ。やるのか?」
「2対1で勝てるとでも思ってんのかよ」
少年たちも剣の柄に手をかけ、少女はそろりと剣先を上げて構えに入る。
(…ダメだ!)
走り出たサイラスは、少女が剣を向けた前に立ちはだかった。
「ダメだ!私闘は禁じられている!」
少女は剣先をサイラスに向けたまま黙って彼を睨みつける。
サイラスも両手を広げ、少女を見据えた。
見れば、サイラスと同じくらいの少女だ。
その意思の強そうな碧色の瞳はキリリと釣り上がり、キュッと結ばれた口元は不満気に歪んでいる。
「おい!邪魔するな!
仕掛けてきたのはそっちだ!」
少年たちがサイラスの背中に向かって怒鳴っている。
しかし。
「殿下!」
追いついてきたカイトが声を上げると、背後から
「殿下⁈」
と素っ頓狂な声を上げた。
サイラスが少女を制したまま後ろを振り返ると、少年2人は
「で…、殿下…」
とアワアワし始める。
いくら騎士団に身分の上下はないとはいえ、この国の第一王子であるサイラスが喧嘩の仲裁に入ったのだ。
2人はガバッと頭を下げ、
「申し訳ありません!」
と喚いて一目散に逃げて行った。
俺を思って泣いてはいないだろうか」
窓の外に目をやり、サイラスがため息をつく。
「姫様はお勉強も武術の稽古も滞りなく進んでいるとのこと。
よく食べよく寝てとても元気にお過ごしだと、昨日報告があったばかりではないですか」
サイラスの後ろに控えて冷ややかな声を出しているのは、護衛騎士のカイト。
幼い頃よりサイラスのそば近くに仕える幼馴染のような者で、フレイアの侍女メアリの兄でもある。
「俺の留守中は、武術の稽古はするなと言っておいたんだがな。
剣も弓も馬も、俺がフレイアに手取り足取り腰取り教えたんだ。
他の者に任すなど、考えただけで腹が立つ。
だいたい、万が一にでも可愛らしいフレイアの顔や手や足に傷が付いたらどうすんだ」
今日もサイラスの変態…、いや、シスコン発言は絶好調で、カイトは「けっ」と小さく舌を鳴らした。
13歳になったサイラスは、それまで通っていた学校を休学して近衛騎士団の見習い騎士になり、宿舎に入った。
王族や貴族の子弟はそうして少年期の1~3年程を騎士団に入って鍛えられる者が多いが、特に義務というわけではない。
騎士団に入れば身分の上下なく鍛えられる。
サイラスもこれまで一流の師について剣や馬の稽古はしてきたが、彼自身が騎士たちと寝食を共にすることを選んだのだ。
可愛い妹の顔を毎日見られないのは寂しいが、将来国王として国を担っていく立場としてはそうも言っていられない。
すでに幼い頃から文武両道に秀でた王子と言われてはきたものの、さらに国民の期待に応えるべく、最高水準を目指すことを自らに課しているのだ。
そうして窓から遠くを眺めていたサイラスが、
「……ん?」
と声を上げた。
「どうしました?殿下」
「あそこ…、何か、揉めているらしい」
カイトもサイラスが指差す方に目をやったが、かろうじて木の向こうに何人かの人の塊が見えるだけだ。
「稽古が終わって、木の陰で話し込んでいるだけでは?」
サイラスも、今日の稽古が終わって部屋に戻って来たところだ。
稽古場にはまだ戻らないで屯っている騎士たちが多勢いる。
「いや。あれは揉めているようだ」
サイラスは剣を手に取ると、そのまま部屋を飛び出した。
「ちょ…、殿下⁈」
慌ててカイトも後を追う。
サイラスは、やたらと視力も良いのだ。
「おまえ…!
女のくせに生意気だぞ⁈」
走るサイラスの耳に、少年の叫ぶ声が響く。
「だいたい女が騎士なんてな!
女の子は家で花嫁修業でもしてろよ!」
少年2人が罵っているのはどうやら少女らしい。
「あーおまえ、もしかして本当は男なのか?
ぜんっぜん女らしいとこないもんな⁈」
「あーそうかもな!
おい、確かめてみようぜ⁈」
口汚く罵る2人を前に、少女は一言も発しない。
しかしその手に持つ木刀の先が、僅かに上げられるのをサイラスは見た。
「なんだよ、おまえ。やるのか?」
「2対1で勝てるとでも思ってんのかよ」
少年たちも剣の柄に手をかけ、少女はそろりと剣先を上げて構えに入る。
(…ダメだ!)
走り出たサイラスは、少女が剣を向けた前に立ちはだかった。
「ダメだ!私闘は禁じられている!」
少女は剣先をサイラスに向けたまま黙って彼を睨みつける。
サイラスも両手を広げ、少女を見据えた。
見れば、サイラスと同じくらいの少女だ。
その意思の強そうな碧色の瞳はキリリと釣り上がり、キュッと結ばれた口元は不満気に歪んでいる。
「おい!邪魔するな!
仕掛けてきたのはそっちだ!」
少年たちがサイラスの背中に向かって怒鳴っている。
しかし。
「殿下!」
追いついてきたカイトが声を上げると、背後から
「殿下⁈」
と素っ頓狂な声を上げた。
サイラスが少女を制したまま後ろを振り返ると、少年2人は
「で…、殿下…」
とアワアワし始める。
いくら騎士団に身分の上下はないとはいえ、この国の第一王子であるサイラスが喧嘩の仲裁に入ったのだ。
2人はガバッと頭を下げ、
「申し訳ありません!」
と喚いて一目散に逃げて行った。
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