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近づく、離れる
また現れた!
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部屋に押し込められたアリスは、目を凝らして周囲を見渡した。
最初真っ暗かと思われた部屋の中だったが、目が慣れて来ると薄ぼんやりと見えるようになってきたのだ。
応接セットやベッドがあり、ここが誰かの寝室なのだとわかる。
ずっと使われていないようだが、時々掃除されているのか、埃がたまっているようなことはない。
(側室の部屋…、ってところかしら)
ここが後宮の一室なら、おそらく先王の側室の一人が使っていた部屋なのだろう。
壁伝いに扉の反対側に回って重い緞帳を開けると、窓から一気に光が差し込んできた。
窓を開けて眩しさに顔を背けると、さっき素通りしてきたベッドが何やらこんもりと盛り上がって見える。
(え⁈何⁈何かいる⁈)
さすがのアリスも震え上がり、大きく飛び退いた。
盛り上がり方から、何かがベッドに横になっているのがわかる。
シーツの先から足先のようなものが見えて、どうやら人間らしいということも予想できた。
(まさか、死体とか…?)
アリスは近くにあった花瓶を手に持つと、足先で盛り上がっている上をつんつん突いた。
(動いた…!)
突かれた辺りがピクリと動き、ベッドの中の人間が生きているとわかる。
(でも、どういう意図かわからない…)
こんなところに閉じ込められたこと自体事件なのだ。
このベッドの中の人物がアリスの味方とはとうてい考えられない。
(逃げるしかない…)
とりあえず、起きたら厄介だから、申し訳ないけどこの人物にはさらに眠っていてもらおう。
アリスは花瓶を振り翳し、その人物の頭目掛けて振り下ろそうとした。
(…やるのよアリス!躊躇してる暇はないわ…!)
強気な女伯爵と言われてはきても、当然アリスは自分から人を傷つけたことなどない。
花瓶で頭を殴ったからと言って死ぬとは思えないが、大怪我をさせるかもしれないのだ。
躊躇しているうち、その人物が寝返りを打った。
顔が晒されて、アリスにもハッキリとわかるようになる。
(ナルシス…!)
アリスは声にならない悲鳴を上げた。
ベッドの中の人物は、クロードの兄で、かつてアリスの婚約者だったナルシスだったのだ。
「うーん…」
ナルシスが眩しそうに薄っすらと目を開けた。
アリスは花瓶を振り上げたまま、呆然と彼を見ている。
「……アリス?」
ナルシスはぼんやりとアリスを見つめていたが、やがて花瓶を振り翳しているアリスに気づいて、驚愕に目を見開いた。
「ア、アリス…!なんだかわからないけどその凶器おろして!」
ナルシスはベッドから降りないまま後ずさった。
「ナルシス、正直に答えて。何故貴方はここにいるの?」
アリスは瞬時に頭を巡らせた。
誰が画策したのかは知らないが、ナルシスとアリスに危害を加えるでもなくこうして一室に閉じ込めたのは、二人の醜聞を狙ってのことであろう。
未だナルシスがアリスに執着しているのを知っている誰かが、二人を陥れようとしているのだ。
ここで、ナルシスに襲われたら…。
いや、例え何もなかったとしても、男女が二人きりで一室に閉じ込もっていたら、貴族社会ではそれだけで十分醜聞になる。
それに…。
もしそのことをクロードが聞いたら、彼はどう思うだろう。
「何故って…。王宮から茶会の招待状が来たんだよ。アリスが僕に会いたがってるから是非にって。僕は今コラール家で軟禁状態だったから、極秘で届いたみたいなんだ」
アリスの質問に、ナルシスは悪びれもせずそう答えた。
突っ込みたい箇所は多々あるが、ここはアリスも冷静に質問を繰り返す。
「極秘って…、茶会の主催者は誰?どうやって届いたの?」
「主催者…?そんなの知らないよ。王宮主催としか書いてなかったし。招待状は、僕を崇拝している侍女が王宮の騎士を名乗る男に手渡されたって。あ、その侍女とは何もないから心配しないでね」
「それは心底どうでもいいけど、それでどうしてここに?コラール家では誰も気づかなかったの?」
「うん。侍女の助けを借りてこっそり出てきたからね。で、約束の時間に来てみたら騎士が僕を待っててくれて、ここに案内してくれたんだ」
「ここ、あきらかに今使われていない部屋よね。おかしいと思わなかったの?」
「うーん、休憩して待っててってことなのかと思って。ベッドに座って休んでたら、うっかり寝ちゃったみたい」
「………」
「で?アリスは僕に会いたかったんでしょう?どうしてそんな物振り翳してるの?」
最初真っ暗かと思われた部屋の中だったが、目が慣れて来ると薄ぼんやりと見えるようになってきたのだ。
応接セットやベッドがあり、ここが誰かの寝室なのだとわかる。
ずっと使われていないようだが、時々掃除されているのか、埃がたまっているようなことはない。
(側室の部屋…、ってところかしら)
ここが後宮の一室なら、おそらく先王の側室の一人が使っていた部屋なのだろう。
壁伝いに扉の反対側に回って重い緞帳を開けると、窓から一気に光が差し込んできた。
窓を開けて眩しさに顔を背けると、さっき素通りしてきたベッドが何やらこんもりと盛り上がって見える。
(え⁈何⁈何かいる⁈)
さすがのアリスも震え上がり、大きく飛び退いた。
盛り上がり方から、何かがベッドに横になっているのがわかる。
シーツの先から足先のようなものが見えて、どうやら人間らしいということも予想できた。
(まさか、死体とか…?)
アリスは近くにあった花瓶を手に持つと、足先で盛り上がっている上をつんつん突いた。
(動いた…!)
突かれた辺りがピクリと動き、ベッドの中の人間が生きているとわかる。
(でも、どういう意図かわからない…)
こんなところに閉じ込められたこと自体事件なのだ。
このベッドの中の人物がアリスの味方とはとうてい考えられない。
(逃げるしかない…)
とりあえず、起きたら厄介だから、申し訳ないけどこの人物にはさらに眠っていてもらおう。
アリスは花瓶を振り翳し、その人物の頭目掛けて振り下ろそうとした。
(…やるのよアリス!躊躇してる暇はないわ…!)
強気な女伯爵と言われてはきても、当然アリスは自分から人を傷つけたことなどない。
花瓶で頭を殴ったからと言って死ぬとは思えないが、大怪我をさせるかもしれないのだ。
躊躇しているうち、その人物が寝返りを打った。
顔が晒されて、アリスにもハッキリとわかるようになる。
(ナルシス…!)
アリスは声にならない悲鳴を上げた。
ベッドの中の人物は、クロードの兄で、かつてアリスの婚約者だったナルシスだったのだ。
「うーん…」
ナルシスが眩しそうに薄っすらと目を開けた。
アリスは花瓶を振り上げたまま、呆然と彼を見ている。
「……アリス?」
ナルシスはぼんやりとアリスを見つめていたが、やがて花瓶を振り翳しているアリスに気づいて、驚愕に目を見開いた。
「ア、アリス…!なんだかわからないけどその凶器おろして!」
ナルシスはベッドから降りないまま後ずさった。
「ナルシス、正直に答えて。何故貴方はここにいるの?」
アリスは瞬時に頭を巡らせた。
誰が画策したのかは知らないが、ナルシスとアリスに危害を加えるでもなくこうして一室に閉じ込めたのは、二人の醜聞を狙ってのことであろう。
未だナルシスがアリスに執着しているのを知っている誰かが、二人を陥れようとしているのだ。
ここで、ナルシスに襲われたら…。
いや、例え何もなかったとしても、男女が二人きりで一室に閉じ込もっていたら、貴族社会ではそれだけで十分醜聞になる。
それに…。
もしそのことをクロードが聞いたら、彼はどう思うだろう。
「何故って…。王宮から茶会の招待状が来たんだよ。アリスが僕に会いたがってるから是非にって。僕は今コラール家で軟禁状態だったから、極秘で届いたみたいなんだ」
アリスの質問に、ナルシスは悪びれもせずそう答えた。
突っ込みたい箇所は多々あるが、ここはアリスも冷静に質問を繰り返す。
「極秘って…、茶会の主催者は誰?どうやって届いたの?」
「主催者…?そんなの知らないよ。王宮主催としか書いてなかったし。招待状は、僕を崇拝している侍女が王宮の騎士を名乗る男に手渡されたって。あ、その侍女とは何もないから心配しないでね」
「それは心底どうでもいいけど、それでどうしてここに?コラール家では誰も気づかなかったの?」
「うん。侍女の助けを借りてこっそり出てきたからね。で、約束の時間に来てみたら騎士が僕を待っててくれて、ここに案内してくれたんだ」
「ここ、あきらかに今使われていない部屋よね。おかしいと思わなかったの?」
「うーん、休憩して待っててってことなのかと思って。ベッドに座って休んでたら、うっかり寝ちゃったみたい」
「………」
「で?アリスは僕に会いたかったんでしょう?どうしてそんな物振り翳してるの?」
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