花婿が差し替えられました

凛江

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近づく、離れる

新婚やり直し?①

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王女の二ヶ月間の離宮行きに付き従っていたクロードが王都に帰還したのは、王都の厳しい寒さがようやく少し緩んできた頃である。
クロードは王女を王宮に送ると、騎士寮には戻らずその足でサンフォース伯爵邸に向かった。
王女がまた駄々をこねようと、二ヶ月間も従ってきたのだからもう文句は言わせない。
文句を言われようと、もうクロードの耳には入らないのだ。

「アリス!」
クロードは乗ってきた馬をエントランスに横付けすると、そのままアリスの執務室に直行した。
驚いた使用人たちは彼の進行を防ごうとしたが、主人の夫だと気づき脇に避けるという状態だ。

「…なんだか騒がしいわね。なんの騒ぎ?」
アリスがのんびりと執務机から顔を上げると、突然ーバンッ!ーと勢いよく扉が開いた。
思わず驚いて立ち上がると、入って来たのは夫のクロードだ。

「アリス!」
クロードはツカツカと歩いて来て机を回り込むと、ガバッとアリスに抱きついた。
その抱擁は力強く、苦しいくらいだ。

「…旦那様…?」
呆然としているアリスを少し離すと、クロードは彼女の頬を撫で、腕を摩り、背中に手を滑らせた。
(え?ちょっと…!)
体を摩るクロードにアリスはちょっと引き気味になったが、彼は真剣な顔で彼女を見下ろすと、こう叫んだ。
「本当に怪我はないんですか⁈痛いところは⁈」
「…あ…」

アリスはようやく彼が何故こんなに取り乱しているのか理解した。
クロードはアリスがサンフォース領から王都に向かう途中で襲われたことを知っているのだ。
「落ち着いてくださいませ旦那様。私はこの通り、ピンピンしておりますわ」
「…本当に?」
「ええ。傷一つありませんわ」
「…良かった…」
クロードはあらためてアリスを抱きしめた。
今度の抱擁はふわりと柔らかく、アリスを労るような抱きしめ方だ。
「旦那様ったら…」

騎士姿のクロードは薄汚れ、土埃の匂いがした。
長旅の帰還から間髪入れず、休憩する間も身なりを整える間も無くこちらに向かったのだろう。
それほど、アリスの無事を確かめたかったのかと思うと、アリスの胸に温かいものが広がった。

「ところで旦那様…、何故襲われたことを知ってらっしゃるの?まさか、ラウルが?」
ようやく落ち着いて自室で身なりを整えてきたクロードに、アリスはお茶を振る舞いながらそうたずねた。
クロードは少しバツが悪そうに目を伏せると、
「ラウルは叱らないでください。俺が彼を問いただしたんです」
と言った。
ラウルはアリスに口止めされていたにも関わらず、クロードに襲撃のことを話してくれた。
今までの何も知らないクロードを見ていて、さぞかし歯痒く思っていたからなのであろう。

「…あの時も、護衛が潜んでいたのですね」
クロードがポツリと呟いた。
「あの時…?」
「夜会の時や、オペラに行った日も。貴女には精鋭が付いているとラウルから聞きました」
「あ…」
今度はアリスの方がバツが悪そうな顔をした。
夜会やオペラデートの日は、影と呼ぶ護衛を潜ませていた。
いくらクロードが優秀な騎士でも見破れない程の精鋭たちだ。
しかし、騎士が本業であるクロードと行動を共にしながらさらに護衛を付けていたなんて、もしかしたら彼のプライドを酷く傷つけたかもしれないと思ったのだ。

「ごめんなさい旦那様。貴方の実力を疑っていたわけではないんです。ただこれは、サンフォース家の宿命であるというか…」
「いいえ、確かにあの日俺は浮かれていて気付きもしなかった。でも、そんなことはどうでもいいのです」
クロードはピシャリと言い切った。
自分の騎士としてのプライドとか、そんなことは本当にどうでも良かった。
「俺は夫なのに、貴女が危険な目に遭っていることさえ知らなかった。それが、本当に悔しい。どうかこれからは、包み隠さず話して欲しい」
「え、ええ…」
アリスが頷くと、クロードはホッとしたように微笑んで見せた。

「ではとりあえず、当面休みの日は、俺が貴女の側にいることにします」
「は?それは、どういう…」
「勤務があるため常時というわけにはいきませんが…。俺も貴女の護衛の一人に加えてください。それで、外出するのは俺がいる日にしてもらえませんか?」
「…は?ダメダメ、それはダメです。お休みの日は、旦那様はしっかり休養を取ってください」
「貴女の護衛だなんて、ようやく俺の出番ではないですか」
「ご心配なく。私には精鋭たちがついておりますから」
「それを知ってもなお護衛させてもらえないのは、それこそ俺のプライドが傷付きますよ」
「…そうなのですか?」
「そうです。もし俺がいない所でまた貴女が襲われるようなことがあったら、俺は今度こそ矜持を無くし、騎士を辞めてしまうかもしれません」
「そんな…」

アリスは外出時はなるべくクロードの休みの日に合わせるよう約束させられてしまった。
なんだかうまく言いくるめられてしまった気もするが、アリスの身を案じてくれる気持ちが素直に嬉しい。

「ところで…、外套ありがとうございました。袖を通してみましたが、とても丈夫そうで、温かかったです」
話が一段落ついたところで、クロードが誕生日プレゼントの礼を言った。
目敏い王女に見つかると厄介なので離宮で着ることはなかったが、これからプライベートでは活躍することだろう。
「ふふっ、遅ればせながら、二十歳のお誕生日おめでとうございます、旦那様」
アリスが小さく笑う。
「ええ、これで貴女と俺とは二歳違いになりました」
クロードがそう言って胸を張るので、アリスはなんだかおかしくなった。
「またすぐ三歳違いになりますのに」
アリスの二十三歳の誕生日は再来月なのだから。

「そうだわ。もしこの後お時間があるなら、夕食を食べて行かれませんか?ささやかだけれど、誕生日のお祝いをさせてくださいませ。今日いらっしゃるとわかっていたらきちんと準備させたのですけれど」
アリスがそう言ってクロードを誘うと、彼は悪戯っぽく笑った。

「時間があるも何も、俺は今晩からこちらに滞在しますよ。言ったでしょう?勤務以外は、いつも貴女の側にいるって」


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