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突然の花婿交替劇
二人の晩餐①
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サンフォース伯爵邸に帰着したクロードは、真っ直ぐアリスがいる主屋の方へ足を向けた。
だが、出て来た家令の話では、今日のアリスはもう執務を終えて、離れに戻ったと言う。
それを聞いたクロードは、今度はすぐに離れに向かう。
とにかく、一刻も早く彼女の考えが聞きたかったのだ
しかしそのままアリスを訪ねようとしたクロードを、今度は離れで出迎えた侍女が止めた。
アリスはクロードとの晩餐のために身支度を整えているらしい。
そう言われてしまえば強引に訪ねるわけにもいかず、結局クロードは晩餐の時間まで待つことにした。
…しかし、腑に落ちない。
クロードは一昨日の夜以来、アリスの姿を見ていないかった。
例の、暴言めいた台詞を彼女に向かって吐いてしまった、あの時以来だ。
てっきり避けられているのだと思っていたのに、今夜の晩餐はクロードと一緒にとるつもりでいるらしいのだ。
身支度を整えたクロードがダイニングに向かうと、アリスはすでに着席して待っていた。
そしてクロードを見とめると立ち上がり、優雅に挨拶をした。
「おかえりなさいませ、旦那様」
口元に笑みさえ浮かべているアリスを前に、クロードは気まずそうに目を逸らすと軽く頷いた。
晩餐のためにドレスアップしたアリスは誰の目から見ても美しいだろう。
しかしクロードは彼女を一瞥しただけで、仏頂面のまま席に着いた。
「晩餐の前に、よろしいですか?」
「貴女に聞きたいことがあります」
二人の言葉が見計らったように重なった。
一瞬息を飲んだアリスはしかし小さく微笑んで、「では旦那様からどうぞ」とクロードの方へ手を差し出した。
余裕さえ感じさせるアリスの態度に、クロードはそれだけで何やら負けたような気分になる。
「いや、貴女から」
「いいえ、旦那様から」
「しかし、貴女が、」
「いいえ、旦那様が私に聞きたいこととは何でしょう?」
微笑みながらも全く引く様子を見せないアリスに、クロードは軽くため息をついた。
「今日、騎士団に辞表を出しに行ったのです」
仕方なく、クロードは話し始めた。
「そこで、団長から驚くようなことを言われました。貴女が来て私の除隊を撤回するよう迫ったと。しかも、ルイーズ王女殿下の護衛も願い出たと」
「ええ。事実です」
アリスはクロードに真っ直ぐ視線を向けて頷いた。
全く悪びれもしない彼女に、クロードは舌打ちした。
「貴女は私に断りもなく勝手に私の職場を訪ね、勝手に私の未来を変えてきたのですか?」
「あら、変えたのではありません。元に戻してきたのですわ」
相変わらずアリスの態度は悪びれていない。
クロードはつい荒ぶりそうになる声を必死に抑え、静かに問いただした。
「何故貴女は私に相談もせず、そうして勝手に自分の思い通りにしようとするんですか?私は婿養子だから、貴女の言いなりにならなければいけないということですか?自分の知らないところで自分のことを決められていたなど、本当に、心底気分が悪いです」
何故アリスがクロードを騎士に戻そうとしているのかは知らないが、勝手に動くのはあまりにも傲慢だ。
この三日間、話す気があればいくらでも時間はあったはずなのだから。
クロードに気分が悪いと言われ、アリスははじめてばつが悪そうな顔をした。
「黙って行ったのは申し訳なかったと思いますわ。でも、貴方に話したら止められると思ったのです。貴方はその…、全て諦めたような顔をしていたから。ナルシス様の身代わりに、騎士の道を捨てようとなさっていたでしょう?」
「…当たり前でしょう?私はそのための婿養子なのではないのですか?」
「違います。貴方に騎士を辞めてまで家業をサポートしていただくつもりは、」
「だいたい勝手に私のことを探り、上司にまで掛け合うのはあまりにも私を馬鹿にした行動だ」
「馬鹿にしてなど…。貴方の夢の邪魔をして、これ以上貴方に犠牲を強いるのは私の本意ではないのです」
だが、出て来た家令の話では、今日のアリスはもう執務を終えて、離れに戻ったと言う。
それを聞いたクロードは、今度はすぐに離れに向かう。
とにかく、一刻も早く彼女の考えが聞きたかったのだ
しかしそのままアリスを訪ねようとしたクロードを、今度は離れで出迎えた侍女が止めた。
アリスはクロードとの晩餐のために身支度を整えているらしい。
そう言われてしまえば強引に訪ねるわけにもいかず、結局クロードは晩餐の時間まで待つことにした。
…しかし、腑に落ちない。
クロードは一昨日の夜以来、アリスの姿を見ていないかった。
例の、暴言めいた台詞を彼女に向かって吐いてしまった、あの時以来だ。
てっきり避けられているのだと思っていたのに、今夜の晩餐はクロードと一緒にとるつもりでいるらしいのだ。
身支度を整えたクロードがダイニングに向かうと、アリスはすでに着席して待っていた。
そしてクロードを見とめると立ち上がり、優雅に挨拶をした。
「おかえりなさいませ、旦那様」
口元に笑みさえ浮かべているアリスを前に、クロードは気まずそうに目を逸らすと軽く頷いた。
晩餐のためにドレスアップしたアリスは誰の目から見ても美しいだろう。
しかしクロードは彼女を一瞥しただけで、仏頂面のまま席に着いた。
「晩餐の前に、よろしいですか?」
「貴女に聞きたいことがあります」
二人の言葉が見計らったように重なった。
一瞬息を飲んだアリスはしかし小さく微笑んで、「では旦那様からどうぞ」とクロードの方へ手を差し出した。
余裕さえ感じさせるアリスの態度に、クロードはそれだけで何やら負けたような気分になる。
「いや、貴女から」
「いいえ、旦那様から」
「しかし、貴女が、」
「いいえ、旦那様が私に聞きたいこととは何でしょう?」
微笑みながらも全く引く様子を見せないアリスに、クロードは軽くため息をついた。
「今日、騎士団に辞表を出しに行ったのです」
仕方なく、クロードは話し始めた。
「そこで、団長から驚くようなことを言われました。貴女が来て私の除隊を撤回するよう迫ったと。しかも、ルイーズ王女殿下の護衛も願い出たと」
「ええ。事実です」
アリスはクロードに真っ直ぐ視線を向けて頷いた。
全く悪びれもしない彼女に、クロードは舌打ちした。
「貴女は私に断りもなく勝手に私の職場を訪ね、勝手に私の未来を変えてきたのですか?」
「あら、変えたのではありません。元に戻してきたのですわ」
相変わらずアリスの態度は悪びれていない。
クロードはつい荒ぶりそうになる声を必死に抑え、静かに問いただした。
「何故貴女は私に相談もせず、そうして勝手に自分の思い通りにしようとするんですか?私は婿養子だから、貴女の言いなりにならなければいけないということですか?自分の知らないところで自分のことを決められていたなど、本当に、心底気分が悪いです」
何故アリスがクロードを騎士に戻そうとしているのかは知らないが、勝手に動くのはあまりにも傲慢だ。
この三日間、話す気があればいくらでも時間はあったはずなのだから。
クロードに気分が悪いと言われ、アリスははじめてばつが悪そうな顔をした。
「黙って行ったのは申し訳なかったと思いますわ。でも、貴方に話したら止められると思ったのです。貴方はその…、全て諦めたような顔をしていたから。ナルシス様の身代わりに、騎士の道を捨てようとなさっていたでしょう?」
「…当たり前でしょう?私はそのための婿養子なのではないのですか?」
「違います。貴方に騎士を辞めてまで家業をサポートしていただくつもりは、」
「だいたい勝手に私のことを探り、上司にまで掛け合うのはあまりにも私を馬鹿にした行動だ」
「馬鹿にしてなど…。貴方の夢の邪魔をして、これ以上貴方に犠牲を強いるのは私の本意ではないのです」
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