花婿が差し替えられました

凛江

文字の大きさ
上 下
7 / 48
突然の花婿交替劇

お披露目パーティー

しおりを挟む
結婚式の後はサンフォース伯爵邸で、盛大なお披露目パーティーが開催された。
裕福なサンフォース伯爵家だけあって豪華な内装は招待客の目を楽しませ、美味な料理の数々は舌鼓を打たせた。
式の時の清楚な装いとは違って艶やかな姿で登場した花嫁もまた、客の目を楽しませている。
式の時には隠れていた鎖骨や二の腕が露わになり、優しい色香を放っている。
常に微笑みを絶やさず優雅な佇まいは、日頃の次期伯爵家当主としての凛とした姿とはまた違う。
招待客たちはそんな彼女のギャップに賞賛の声を上げた。

花婿の方もまた今度はタキシードで登場し、先程の騎士姿から一転、貴公子然とした姿を披露している。
騎士一筋できた彼は女性をエスコートするのも慣れていないのか、少々ぎこちないのがまた初々しい。
しかしさすがに腹を括ったのか、式の時の仏頂面からは少しだけ表情が和らいだようだ。

「ファーストダンスを」
サンフォース伯爵家の家令にそう囁かれた時、クロードは耳を疑った。
食事をして招待客の祝福を受け流していれば漸く今日という日が終わる。
そうすればとにかく今日の自分の役割は果たせ、解放されるのだと、そう思っていたのに。
「ダンス…、だと?」
眉間に皺を寄せて隣の席に目をやれば、アリスが微かに頷いている。
そう、今日の主役はクロードとアリス。
彼らが踊り出さなければ、他の者が踊ることはできない。
「でも、俺は…、」
クロードは俯くと、拳を握りしめた。
彼は貴族令息ではあるが、騎士で身を立てるつもりだったため社交界に顔を出す必要性を感じず、デビューもまだしていなかった。
貴族の嗜みとしてダンスを習ったことはあるが、それも騎士学校に入る前の幼い頃のことだ。
それに…。
(何故、俺ばかりが…)
貧乏くじをひかされるのだ…、そう思ってクロードは泣きたくなった。
この僅かの間に兄の尻拭いのために未来を諦め、義姉になるはずだった女と結婚し、その披露目のためにできないダンスまでさせられ、見世物になるのだ。
本当は全て投げ出してここから逃げ出したい。
だがそんなこと、できるはずもない。
クロードは隣の席に座っているアリスを縋るような目で見た。
彼女はそのクロードの表情から言いたいことを読みとったのだろう。
「クロード様、お手を」
アリスはにっこり微笑むと、クロードに手を差し出すよう促した。
おずおずとクロードが手を差し出すと、アリスがその手に自分の手をのせる。
二人は手を取り合ってホールの中央まで歩み出た。
(大丈夫。私が合わせますので)
肩口でそっと囁くと、アリスはクロードが引きやすいよう踏み出した。
クロードがステップを踏めば、アリスはいかにもリードされているようについてくる。
うろ覚えではあるがなんとか型は体が覚えているらしく、クロードは足捌きに夢中になった。
とにかくステップの順番を間違えないように、アリスの足を踏まないようにと。
元々運動神経の良いクロードのこと、優雅とはいかないがなんとか踊れている。
ぎこちなくはあるが、それが招待客たちには初々しく写っていることだろう。
一方花嫁のアリスは余裕を持ってクロードに合わせ、その口元には笑みさえ浮かべている。
周りから見れば、リードしているのは花嫁の方だと明らかにわかるだろう。
(なんて、滑稽なんだろう)
クロードは仏頂面のまま踊り続けた。
気づかわしそうに見上げてくる花嫁の顔など、一瞥する余裕さえなかった。

「ありがとうございます、助かりました」
クロードは席に戻ると、素直にアリスに礼を言った。
礼儀を欠かさないのは、せめてもの彼の矜持である。
アリスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「頑張りましょうね、クロード様。もう少しの辛抱ですから」
おそらくアリスはクロードに同情して励ましているのだろうが、弟に言い聞かせるようなその言葉がまたクロードの刺々した心を逆撫でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです

珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。 令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

処理中です...