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突然の花婿交替劇
お披露目パーティー
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結婚式の後はサンフォース伯爵邸で、盛大なお披露目パーティーが開催された。
裕福なサンフォース伯爵家だけあって豪華な内装は招待客の目を楽しませ、美味な料理の数々は舌鼓を打たせた。
式の時の清楚な装いとは違って艶やかな姿で登場した花嫁もまた、客の目を楽しませている。
式の時には隠れていた鎖骨や二の腕が露わになり、優しい色香を放っている。
常に微笑みを絶やさず優雅な佇まいは、日頃の次期伯爵家当主としての凛とした姿とはまた違う。
招待客たちはそんな彼女のギャップに賞賛の声を上げた。
花婿の方もまた今度はタキシードで登場し、先程の騎士姿から一転、貴公子然とした姿を披露している。
騎士一筋できた彼は女性をエスコートするのも慣れていないのか、少々ぎこちないのがまた初々しい。
しかしさすがに腹を括ったのか、式の時の仏頂面からは少しだけ表情が和らいだようだ。
「ファーストダンスを」
サンフォース伯爵家の家令にそう囁かれた時、クロードは耳を疑った。
食事をして招待客の祝福を受け流していれば漸く今日という日が終わる。
そうすればとにかく今日の自分の役割は果たせ、解放されるのだと、そう思っていたのに。
「ダンス…、だと?」
眉間に皺を寄せて隣の席に目をやれば、アリスが微かに頷いている。
そう、今日の主役はクロードとアリス。
彼らが踊り出さなければ、他の者が踊ることはできない。
「でも、俺は…、」
クロードは俯くと、拳を握りしめた。
彼は貴族令息ではあるが、騎士で身を立てるつもりだったため社交界に顔を出す必要性を感じず、デビューもまだしていなかった。
貴族の嗜みとしてダンスを習ったことはあるが、それも騎士学校に入る前の幼い頃のことだ。
それに…。
(何故、俺ばかりが…)
貧乏くじをひかされるのだ…、そう思ってクロードは泣きたくなった。
この僅かの間に兄の尻拭いのために未来を諦め、義姉になるはずだった女と結婚し、その披露目のためにできないダンスまでさせられ、見世物になるのだ。
本当は全て投げ出してここから逃げ出したい。
だがそんなこと、できるはずもない。
クロードは隣の席に座っているアリスを縋るような目で見た。
彼女はそのクロードの表情から言いたいことを読みとったのだろう。
「クロード様、お手を」
アリスはにっこり微笑むと、クロードに手を差し出すよう促した。
おずおずとクロードが手を差し出すと、アリスがその手に自分の手をのせる。
二人は手を取り合ってホールの中央まで歩み出た。
(大丈夫。私が合わせますので)
肩口でそっと囁くと、アリスはクロードが引きやすいよう踏み出した。
クロードがステップを踏めば、アリスはいかにもリードされているようについてくる。
うろ覚えではあるがなんとか型は体が覚えているらしく、クロードは足捌きに夢中になった。
とにかくステップの順番を間違えないように、アリスの足を踏まないようにと。
元々運動神経の良いクロードのこと、優雅とはいかないがなんとか踊れている。
ぎこちなくはあるが、それが招待客たちには初々しく写っていることだろう。
一方花嫁のアリスは余裕を持ってクロードに合わせ、その口元には笑みさえ浮かべている。
周りから見れば、リードしているのは花嫁の方だと明らかにわかるだろう。
(なんて、滑稽なんだろう)
クロードは仏頂面のまま踊り続けた。
気づかわしそうに見上げてくる花嫁の顔など、一瞥する余裕さえなかった。
「ありがとうございます、助かりました」
クロードは席に戻ると、素直にアリスに礼を言った。
礼儀を欠かさないのは、せめてもの彼の矜持である。
アリスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「頑張りましょうね、クロード様。もう少しの辛抱ですから」
おそらくアリスはクロードに同情して励ましているのだろうが、弟に言い聞かせるようなその言葉がまたクロードの刺々した心を逆撫でした。
裕福なサンフォース伯爵家だけあって豪華な内装は招待客の目を楽しませ、美味な料理の数々は舌鼓を打たせた。
式の時の清楚な装いとは違って艶やかな姿で登場した花嫁もまた、客の目を楽しませている。
式の時には隠れていた鎖骨や二の腕が露わになり、優しい色香を放っている。
常に微笑みを絶やさず優雅な佇まいは、日頃の次期伯爵家当主としての凛とした姿とはまた違う。
招待客たちはそんな彼女のギャップに賞賛の声を上げた。
花婿の方もまた今度はタキシードで登場し、先程の騎士姿から一転、貴公子然とした姿を披露している。
騎士一筋できた彼は女性をエスコートするのも慣れていないのか、少々ぎこちないのがまた初々しい。
しかしさすがに腹を括ったのか、式の時の仏頂面からは少しだけ表情が和らいだようだ。
「ファーストダンスを」
サンフォース伯爵家の家令にそう囁かれた時、クロードは耳を疑った。
食事をして招待客の祝福を受け流していれば漸く今日という日が終わる。
そうすればとにかく今日の自分の役割は果たせ、解放されるのだと、そう思っていたのに。
「ダンス…、だと?」
眉間に皺を寄せて隣の席に目をやれば、アリスが微かに頷いている。
そう、今日の主役はクロードとアリス。
彼らが踊り出さなければ、他の者が踊ることはできない。
「でも、俺は…、」
クロードは俯くと、拳を握りしめた。
彼は貴族令息ではあるが、騎士で身を立てるつもりだったため社交界に顔を出す必要性を感じず、デビューもまだしていなかった。
貴族の嗜みとしてダンスを習ったことはあるが、それも騎士学校に入る前の幼い頃のことだ。
それに…。
(何故、俺ばかりが…)
貧乏くじをひかされるのだ…、そう思ってクロードは泣きたくなった。
この僅かの間に兄の尻拭いのために未来を諦め、義姉になるはずだった女と結婚し、その披露目のためにできないダンスまでさせられ、見世物になるのだ。
本当は全て投げ出してここから逃げ出したい。
だがそんなこと、できるはずもない。
クロードは隣の席に座っているアリスを縋るような目で見た。
彼女はそのクロードの表情から言いたいことを読みとったのだろう。
「クロード様、お手を」
アリスはにっこり微笑むと、クロードに手を差し出すよう促した。
おずおずとクロードが手を差し出すと、アリスがその手に自分の手をのせる。
二人は手を取り合ってホールの中央まで歩み出た。
(大丈夫。私が合わせますので)
肩口でそっと囁くと、アリスはクロードが引きやすいよう踏み出した。
クロードがステップを踏めば、アリスはいかにもリードされているようについてくる。
うろ覚えではあるがなんとか型は体が覚えているらしく、クロードは足捌きに夢中になった。
とにかくステップの順番を間違えないように、アリスの足を踏まないようにと。
元々運動神経の良いクロードのこと、優雅とはいかないがなんとか踊れている。
ぎこちなくはあるが、それが招待客たちには初々しく写っていることだろう。
一方花嫁のアリスは余裕を持ってクロードに合わせ、その口元には笑みさえ浮かべている。
周りから見れば、リードしているのは花嫁の方だと明らかにわかるだろう。
(なんて、滑稽なんだろう)
クロードは仏頂面のまま踊り続けた。
気づかわしそうに見上げてくる花嫁の顔など、一瞥する余裕さえなかった。
「ありがとうございます、助かりました」
クロードは席に戻ると、素直にアリスに礼を言った。
礼儀を欠かさないのは、せめてもの彼の矜持である。
アリスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「頑張りましょうね、クロード様。もう少しの辛抱ですから」
おそらくアリスはクロードに同情して励ましているのだろうが、弟に言い聞かせるようなその言葉がまたクロードの刺々した心を逆撫でした。
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