貴公子アドニスの結婚

凛江

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ラントン家の花嫁①

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アドニスは、一年間の花嫁教育を終えたベルトラン子爵令嬢と結婚した。
王都の中心にある礼拝堂で挙げられた結婚式は、それはそれは壮麗なものであった。
王国一の美青年と称される花婿を一目見ようと、王都の民は我先にと礼拝堂に集まった。
しかし民が驚いたのは、そんなアドニスに見劣りしない花嫁である。
花嫁は光沢のある純白のドレスに身を包み、楚々として立っていた。
銀色に輝く髪はアドニスのそれにも負けず美しく、透き通るような白い肌が薄っすらと桃色になる様もなんとも可愛らしい。
初々しい微笑みをたたえ、それでも堂々とアドニスの横に立つ花嫁に、民は熱狂した。
アドニスもそんな花嫁を見下ろし、微笑みを浮かべる。
一年前まであんなに垢抜けなかった女が、驚くほど美しくなった。
きっと血の滲むような努力をしたのだろう。
全ては、この自分の隣に立つために。
彼女は、あんな条件を突きつけられても逃げなかったのだ。
それほど、アドニスのことが好きでたまらないということなのだろう。
そう思うと、アドニスの自尊心は満たされ、新妻に優しくしてやりたくなった。
今晩はいわゆる初夜である。
彼女の気持ちに応えるためにも、できる限り優しくしてやるのだ。

こうしてアドニスの三度目の婚約は、ようやく結婚まで行き着いたのである。

◇◇◇

その晩、花嫁の寝室で夫の訪れを待っていた新妻は、なんとも儚く美しかった。
肌の透けそうな白いレースの寝衣をまとい、ベッドの上に座っている妻を見た時、アドニスは爆発しそうになった。
寝衣からのぞく白い肩は芳しい香りがしそうで、ふるいつきたくなる。
アドニスは妻に駆け寄ると、そのまま押し倒した。
本能のままに、花嫁を貪り尽くす。
優しくしてやろうなどと思った考えは、もうすっかり頭から飛んでいた。

なんのことはない。
アドニスにとっても彼女は初めての女性だったのだ。
自分より美しくない女を認めないアドニスは女性と関係を持ったことがなかった。
潔癖なため、娼館に行くことなどももちろんない。
敬愛する王太子妃フィリア以外の女性に、食指が動くなどあり得なかったから。
しかしフィリアはあくまで崇高の対象であって、醜い欲の対象ではない。
正真正銘、抱きたいと思ったのは妻が初めてであった。

アドニスは初めて知る女性の体に溺れた。
そして初めて知る夜の営みに…、アドニスは開花した。

◇◇◇

初夜の晩から、アドニスは夜勤がない日は毎晩のように新妻の寝室を訪れた。
護衛騎士は交代制ではあるが時間が不規則だ。
勤務は夜通しのこともあれば、明け方に帰って来たり深夜に出て行くこともある。
だから、食事を共にするのも稀で、妻はほとんどの時間を姑である公爵夫人と過ごした。
公爵は結婚を機に爵位をアドニスに譲りたいと思っていたが、アドニス自身が護衛騎士を退くのを嫌がった。
彼にとって、やはり優先されるのは王太子妃フィリアであったから。
また、公爵を信頼する現国王が、引退を止めようとしたことも大きな理由だ。
アドニスは騎士の仕事以外の時間を公爵家の仕事にあて、父もしばらくはそれで様子を見ることにした。
優秀なアドニスは、騎士の仕事をこなしながらも難なく父親から引き継ぎを受け、着々と次期公爵としても成長していたのである。
しかしそのため、余計に新妻との時間は取れなくなっていた。
義娘を可愛がる公爵夫人は苦言を呈していたが、それに従うようなアドニスではない。
それに、アドニスは彼なりに妻とうまくいっていると思っていた。
夜勤でない限り、必ず妻の寝室を訪れていたからだ。

アドニス夫妻を心配していた王太子妃フィリアは彼に結婚を機に騎士を辞めるよう言ったが、それもまた聞くようなアドニスではない。
クビにすることも考えたが、アドニスは優秀であり、フィリアにとっても気心の知れた仲だ。
それに、アドニスに探りを入れれば、彼はイキイキと新婚生活を語った。
彼が新妻に夢中なのは明らかだ。
また、フィリアはクライン伯爵夫人と呼ばれるようになった彼女をお茶に誘ったり王宮図書館に誘ったりしたが、そんな時、彼女の首筋から鬱血痕がのぞいていたりした。
彼女は隠しているつもりなのだろうが、あれは明らかにキスマークだ。
クライン伯爵夫人はアドニスに愛されている。
安心したフィリアは、アドニスに騎士を辞めるよう言わなくなっていった。
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